
研修効果測定の方法~どう「見える化」するか

(2018年4月10日更新)
研修の効果測定を成功させるポイントは「見える化」にあります。研修の目的を明確にし、その目的に対して、達成度を測ることが効果測定を行うポイントです。
研修効果測定は避けて通れない問題
研修効果測定は2つの視点で考える

研修効果を測定しやすい研修、難しい研修
売上が下がり始めると「営業力強化研修」、儲かってくると「マナー研修」という、短絡的な発想で研修を実施する企業が多い。このような場当たり的な研修を行っている限り、研修効果は期待できない。効果が上がらない研修の要因を挙げると、次のようになる。
(1)研修の目的やねらいを明確にしていない
(2)効果測定として何を測るのか決めていない
(3)誰がいつ測定するか決めていない
研修テーマによって、例えば「知識習得」や「スキル開発」などは、ある程度効果を測定しやすい。しかし、「意識変革」や「行動革新」「価値観醸成」といったものは、効果が抽象的になりがちで測定しにくい。
最近の研修では、知識やスキルの習得よりも、意識変革・行動革新を促して成果を追求するものが増えてきている。教育担当者は、効果測定しにくい研修で成果を出さなければならないというジレンマに陥ってしまう。企画力、論理的思考、戦略思考、創造性、意識変革、モチベーション、リーダーシップといった内容を扱った研修は、効果測定が極めて難しいと言わざるを得ない。
知識習得を目的とした研修であれば、研修前後にテストを実施し、結果を比較することで効果の測定が可能である。しかし、例えばコーチング研修の効果測定となると定量的に測ることが難しく、また、いつ効果が表れるのかも分からない。このような定性的な効果をどのようにして測定するべきか今後の重要な課題になってくる。
教育担当者の悩み
教育担当者は、効果測定について、どのようなことで悩んでいるのだろうか。具体的に列挙してみる。
(1)どのような研修が効果的なのか分からない
(2)効果測定の方法が分からない
(3)効果が出るまでに時間がかかる
(4)効果測定には手間とコストがかかる
(5)効果の指標として何を測定していいか分からない
(6)職場の上司の協力が得られない
(7)講師の力量によって効果に差が出る
(8)効果測定をすると、経営者からさらに研修効果を要求される
(9)受講者が効果測定を嫌がる
(10)外部の講師を使うと効果測定に限界がある
以上の悩みからわかるように、研修の効果測定はかなり難しい。だからこそ、教育担当者、受講者、受講者の上司、経営者が納得する効果測定ができるかどうかが問題になってくる。精緻に測定できなくても、顧客からの評価が上がった、受講者がやる気になったという感覚的な評価であっても、十分に価値があると考えていいだろう。
研修効果測定5つのポイント
悩みは尽きないが、どのように研修の効果測定を考えると納得が得られるかについて、5つのポイントを列記しておくので、参考にしていただきたい。
【研修効果測定の考え方】
(1)研修自体を評価するのではなく、研修の目的、受講者の行動変容を評価する
(2)評価することが目的ではなく、評価するに値する結果を出すことが目的である
(3)会社の視点と社員の視点から研修、教育を見直していく機会と捉える
(4)人材育成・教育を通じて会社を成長させるツールと考える
(5)人材育成を望ましい方向にマネジメントするために効果測定をする
研修に測定可能な達成目標を設定する
研修を実施する前に研修の目的を明確にし、具体的な研修目標を立てなければ、効果測定はできない。まず、測定可能な達成目標の設定が大切である。そして、研修カリキュラム・講師を検討し、研修を実施する。研修後に学んだスキルが、職場でどのように活用され、当初の目標が達成されたか、改善されたのかを測定するというステップを踏む。最終的に、職場にどのような良い影響を与え、組織目標の達成に貢献したかを見極める。下図のように、教育担当者は研修効果が生まれるサイクルを理解しておきたい。
【研修効果の<見える化>サイクル】
研修効果測定の目的を明確にする
研修効果を測定する際、研修そのものを評価するのか、成果を評価するのか、また、経営者・上司・受講者・教育担当者・講師など誰の立場で評価するのかによって、測定方法や測定内容が変わってくる。研修の効果測定を有効にするために、研修のテーマや対象者に合わせ、次に挙げる10の目的の中から何を目的にするか明確にしていただきたい。
1)研修が知識・スキルの習得、意識・態度・行動の変容に貢献したかを評価する
2)研修を継続するか否かを判断する
3)研修プログラム内容を改善する
4)研修のフォローアップを検討する
5)研修が業務にどのように影響したかを評価する
6)研修効果の高い受講者を明確にする
7)職場での活用法、仕掛けを検討する
8)経営者・職場の上司に研修への積極的な協力を促す
9)今後の研修ニーズを調査する
10)研修予算を獲得する
研修の目的に対して、その達成度を測ることが効果測定を行うポイントである。それは、研修目的をどのように設定するかで決まる。態度・行動の変容が目的なら、その態度・行動の変化を測定しなければならない。業績の向上にあるのなら、売上や利益、コストに影響を与える先行指標を測定するべきである。しかし、「KPI(Key Performance Indicator:成果と強い関係のある指標)」を○○%向上させるというような目標を設定している研修はまだまだ少ない。
効果を測定する際に大切なことは、測定項目の数を欲張らずに、測定方法も負担にならないように選択することである。限定した評価項目で精緻なデータを取ったほうが、期待する測定効果が得られる。また、測定結果は、経営者に報告するだけでなく、受講者、受講者の上司にもフィードバックするべきである。上司の協力を仰ぐことができたり、受講者のモチベーションを促すことで、研修効果を高めることにつながる。効果が出てくると、研修に対して前向きになり、研修のPDCAサイクルが「善循環」で回りはじめる。
目的を4W1Hで検討する
効果測定の目的は次のように「4W1H」で検討すると明確になる。常に意識して研修の効果を高めていただきたい。
●Why なぜ評価するのか? 何のために評価するのか?
●What 何を評価するのか?
●Whom 誰に評価を依頼するのか?
●When いつ評価するのか?
●How どのように評価するのか?
研修効果測定で一番悩むのは、どのような先行指標を取るのが適切なのかが分からないことであろう。研修目標にふさわしい先行指標を選ばなければ、評価が的はずれになる。下記を参考にして、あまり欲張らず、信頼性の高いデータを選ぶとよい。
効果測定の検討事項
(1)対象
〇経営・組織・業務への影響…仕事の効率化、業績向上、コストダウン
〇受講者本人の変化…受講者の知識・スキル・態度
(2)内容
〇研修そのもの…研修で学ぶ内容
〇研修により変えたいこと…研修が影響を与えるもの、受講者が影響を与えるもの
(3)効果性
〇直接効果…受講者本人への効果
〇間接効果…研修を実施することによる波及効果
(4)時期
〇研修直後…研修後のタイミング
〇一定期間後…研修後の測定期間、測定時期の設定
(5)データ
〇定量的データ…測定すべきハードデータ
〇定性的データ…評価すべきソフトデータ
ハードデータとソフトデータの一覧
◎ハードデータ
・アウトプット:生産個数、売上高、在庫回転率、顧客数、契約件数 など
・時間:サイクルタイム、設備の寿命、加工時間、会議時間、作業時間 など
・コスト:製造コスト、変動費、固定費、管理コスト、事故コスト など
・品質:不良欠陥率、手直し数、事故数、基準からのズレ、クレーム など
◎ソフトデータ
・満足:職務満足、信頼感の向上、ロイヤリティ、顧客満足 など
・勤怠:欠勤率、遅刻、安全規則違反、セクハラ件数 など
・風土・環境:不平・不満人数の数、差別告発、退職率、勤務満足 など
・スキル:意思決定・問題解決スキル、新スキルの活用率、習熟率 など
・育成:昇進率、合格率、研修への参加人数 など
・モラール:プロジェクトの成功件数、提案件数、アイデア実行数 など
『はじめての教育効果測定』堤 宇一・青山征彦・久保田享(日科技連)
評価の対象
評価の対象は、受講者だけではない。次のようなさまざまな視点で評価するとよい。
1)受講者
2)受講者の上司
3)受講者の同僚、部下
4)受講者が対応する顧客
5)受講者が所属する組織
6)研修講師
7)教育担当者
8)研修内容
9)研修技法
10)受講者の業務
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