経営者の仕事と役割
2022年8月26日更新
ウィズコロナの時代に移行しつつある今、業績を回復させる(あるいは拡大させる)企業と、低迷したままの企業との間の格差が広がりつつあると言われています。特に中小企業の間で、[勝ち組-負け組]がはっきりしてきた感があります。本稿では、中小企業が勝ち組になるためにはどうすればいいか、経営者が果たすべき役割という観点から、そのポイントを考察したいと思います。
「5億の壁」
先日、某経営コンサルタントの方と話をしていて、「5億の壁」という概念が話題になりました。「5億の壁」とは、中小企業の年商が5億円近くになってくると事業の成長が頭打ち状態になって、それ以上に売り上げを伸ばすことができなくなる状態を指します。
「5億の壁」に阻まれ、事業が停滞する状態が続くと、中小企業の経営体力が少しずつ削がれていきます。そのような状況に、今般のような感染症拡大や物価高などの外部環境の変化が追い打ちをかけると、中小企業はもちこたえることができなくなって、倒産や廃業に追い込まれてしまうのです。
オペレーションに奔走する経営者
なぜ、多くの中小企業が「5億の壁」に直面するのでしょうか。前述のコンサルタントの見立てによれば、その原因の大半が「経営者が経営をしていない」ことに起因するというのです。
中小企業は人員に余裕がないので、一人何役もの役割を担うことが当たり前になっています。いきおい、経営者自身も率先垂範の名のもとに、あらゆる業務に対応してしまいがちです。経営者本人は、朝から晩まで先頭にたって、「どの従業員よりも一所懸命仕事をしている」と思いこんでいますが、実はこれが会社の低迷を招く要因になっているのです。
こうした経営者が、貴重な時間とエネルギーを注ぎ込んで取り組んでいるのは「オペレーション」であり、経営ではないのです。
経営者の仕事とは
経営者は読んで字のごとく、経営をする者なのです。そして、経営とは中長期の観点から自社の強みと市場ニーズのマッチングを考え、将来に向けた布石を打つことです。それは経営者にしかできない仕事です。
ところが、VUCAと表現される激変の時代にありながら、経営者が日々の貴重な時間を「経営」ではなく「オペレーション」に費やしてしまうと、事業が頭打ちになって、やがて市場から淘汰されることは自明の理と言えるでしょう。
経営者が本来の仕事(変化対応の手立てを考える)をすることは、中小企業が生き伸びるための最重要課題なのです。
事例に学ぶ中小企業経営者の役割
レーザーの専門商社で、28年間連続黒字を達成している(株)日本レーザー(本社:東京都新宿区、従業員数:56名)の近藤宣之会長は、自社の発展の要因は「マイクロマネジメントを排除したこと」だと言います。
同社は従業員を大切にし、信じて任せるマネジメントに徹してきました。従業員を信じて細かい管理業務をなくすことで、経営陣は中長期のビジョンを考える時間を確保することができます。そして、将来の市場の変化や、ビジネスチャンスあるいはリスクを予見し、手を打つことで、競争の激しい業界を生き抜いてきたのです。こうした同社のマネジメントの考え方とやり方から、中小企業が学ぶべき点はたくさんあります。
大企業と比べて経営基盤が弱い中小企業は、経営者が経営をしなければ生き残りは難しいのです。中小企業の経営者の方がたは、今一度自らの仕事の仕方や時間の使い方を振り返り、経営しているかどうか、自問自答していただきたいと思います。
的場正晃(まとば・まさあき)
PHP研究所人材開発企画部部長
1990年、慶應義塾大学商学部卒業。同年PHP研究所入社、研修局に配属。以後、一貫して研修事業に携わり、普及、企画、プログラム開発、講師活動に従事。2003年神戸大学大学院経営学研究科でミッション経営の研究を行ないMBA取得。中小企業診断士。