稲盛和夫「人生・仕事の結果=考え方×熱意×能力」~名経営者の人材育成
2016年9月 6日更新
世界的企業となった京セラが、今もベンチャースピリットを持ち続けているのは、創業者のベンチャースピリットに由来するところが大きい――稲盛和夫氏の人材育成論をご紹介します。
大企業にとっての理想の一つは、資金や技術、ノウハウなどたっぷりの資源を持つ大企業と、新しいアイデアとやる気に満ちたベンチャー企業のハイブリッドではないだろうか。ベンチャー企業には望めない資金や技術を持ちながら、若々しいベンチャースピリットを持つ企業であり続けることは多くの大企業にとって理想の企業像と言える。
今や世界的企業となった京セラは大企業でありながら、今もベンチャースピリットを持つ企業と言っていい。そのルーツは創業者・稲盛和夫氏のすさまじいまでのベンチャースピリットに由来している。
京セラ・スピリットは「他社ができないものをやる」
京セラが急成長をしていた頃、稲盛氏が日立のドクター2、300人が集まる会に招かれて講演を行ったことがある。その際、日立の研究者が「日立でさえ研究をした10のうち成功するのは2つか3つなのに、京セラが『失敗したものがない』というのは信じられない」と質問したところ、稲盛氏はこう答えた。
「理由は簡単なことです。成功するまでやめないんですから」
当時の京セラ・スピリットは他社ができないものをやることだった。とはいえ、他社ができないものをやるのは難しい。当然、失敗もありうるわけだが、「いったん決めたことは、成功するまでやめない」という粘り強さが京セラの強みでもあった。
「成功するまでやめない」という迫力は相当なものだった。ある事業の責任者がうまくいかず困っていると、「粘ってもっとやれ」と檄を飛ばすだけでなく、こんな過激な表現を口にしてもいる。
「逃げてきてみろ。機関銃で撃ってやるわ」
今の時代なら問題になりかねない表現だが、稲盛氏の「もっと一生懸命やれ、粘ってでもやれ」が弱気になり、あきらめたくなる社員の背中を押したのはたしかである。
稲盛和夫氏の独自の「成功の方程式」
なぜこれほどに激しく檄を飛ばすのか。理由は稲盛氏独自の「成功の方程式」にあった。こう話している。
「私は『人生・仕事の結果=考え方×熱意×能力』という3つのファクターで表すことができますよ、とよく言っています」
ここで言う「能力」は頭の良さだけでなく、身体の丈夫さやスタミナなども含んでいるが、この数値は0から100点まである。熱意も同様に0から100点まであり、たとえ頭がよくて100点でも努力するとか、やり抜く熱意が0点だと掛け算の結果は0点になる。さらに重要なのが考え方だ。考え方には-100点から+100点まであり、どんなに頭が良くて100点でもものの考え方が後ろ向きでネガティブだと、掛け算すると結果はすべてマイナスになってしまう。
つまり、どんなに優秀な人材を集め、たくさんの資金を投じても、そこに成功を疑う気持ちや後ろ向きの気持ちがあると成果は期待できないのに対し、人材のレベルは多少低くてもそこにたっぷりの熱意と最後まであきらめない気持ちが加われば大きな成果につながることになる。
「人づくり」というと、どうしても能力やスキルの向上が優先されがちだが、それ以上に重要なのは「考え方」や「熱意」である。社員の「心を一つに」することも欠かせない。人づくりにあたってあらためて考えてみたいテーマがここにある。
参考文献 『稲盛和夫の「仕事学」』(ソニー・マガジンズ ビジネスブック編集部編著、三笠書房)、『稲盛和夫のガキの自叙伝』(稲盛和夫著、日経ビジネス人文庫)
桑原晃弥(くわばら・てるや)
1956年、広島県生まれ。経済・経営ジャーナリスト。慶應義塾大学卒。業界紙記者、不動産会社、採用コンサルタント会社を経て独立。人材採用で実績を積んだ後、トヨタ式の実践と普及で有名なカルマン株式会社の顧問として、『「トヨタ流」自分を伸ばす仕事術』(成美文庫)、『なぜトヨタは人を育てるのがうまいのか』(PHP新書)、『トヨタが「現場」でずっとくり返してきた言葉』(PHPビジネス新書)などの制作を主導した。
著書に『スティーブ・ジョブズ全発言』『ウォーレン・バフェット 成功の名語録』(以上、PHPビジネス新書)、『スティーブ・ジョブズ名語録』『サッカー名監督のすごい言葉』(以上、PHP文庫)、『スティーブ・ジョブズ 神の遺言』『天才イーロン・マスク 銀河一の戦略』(以上、経済界新書)、『ジェフ・ベゾス アマゾンをつくった仕事術』(講談社)、『1分間アドラー』(SBクリエイティブ)などがある。