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部下が悪いのか~松下幸之助「人を育てる心得」

2016年11月17日更新

部下が悪いのか~松下幸之助「人を育てる心得」

ある一つの部の業績がどうももうひとつあがらないという場合、その担当の部長から言いわけを聞くことがあります。

どんな言いわけかというと、

「一生懸命やっているのですが、課長の人たちの中に、どうも適当でない、使いにくい人がいて、成績があがらないのです。申しわけありません」

確かに現実の姿としては、そのとおりのことがあると思います。しかし、だからといって、部長にそのような言いわけが許されるものでしょうか。

一つの部には、その部として果たすべき大切な使命があります。そして、その使命遂行の最高責任者はだれかといえば、やはりほかならぬ部長自身です。とすれば、もし部下の中に使命遂行に不適当な人がいて、そのために成績があがらないということであるならば、そのことについても、部長が何らかの対策を講じなければなりません。つまり、その部下を他の人にかえてでも使命の達成をはからなければならないというのが、部長の責任というものでしょう。

そのためにはどうするかといえば、やはり社長なり会社の首脳者に、その実情を訴えなければなりません。「あの部下は他の部署に行けば、さらに適職を得て十二分にその能力を発揮できるようになるかもしれませんが、自分の部にいるかぎりは、適性を欠いていると思います。ですから、部のためにも会社のためにも、また本人のためにも、他の部署にかえていただきたいのです」という提言をしなければならないと思うのです。

ところが、そのような場合、往々にして"そんなことを言うのは、自分が部下を使いこなせないのを示すようで、部長としての体面にかかわる"とかいった人情が働き、そこまで踏みきれないということがあります。しかし、そうした人情にとらわれて、言うべきことを言わないということでは、部長としての使命感がうすい。いいかえれば、世間からあずかっている大きな仕事の使命というものをなおざりにしている、ということになってしまいます。

これは、部長自身のことについてもあてはまることだと思います。自分が部長として適任でないと思えば、それを社長なり首脳者に訴えなければなりません。「自分は部長として一年間やってきました。けれども、十分な成果をあげ得ませんでした。それはやはり自分に部長としての適格性が欠けているからだと思います。だから自分は部長を辞めて他の仕事につかせていただきたい」ということを、自分自身のことであっても訴えるべきだと思うのです。

もちろん、部下のことにしろ自分自身のことにしろ、適格であるか否かの判断は、私情にとらわれることのない適正なものでなければなりませんが、そうであるかぎりは、不適格な人をかえるのに躊躇してはいけないと思います。そして実際、他の部署にかわることによって、そこで立派に花を咲かす人もたくさんあるわけです。

これは結局、部の運営がうまくいくもいかぬも、部長一人のあり方いかんにかかっている、つまりは部長一人の責任であるということですが、会社が着実に発展していくためには、そういうことが日々適切に行われなければなりません。それだけの責任を常に負うているのだという自覚こそ、幹部社員として欠かせない一つの大切な要件ではないかと思います。

【出典】 PHPビジネス新書『人生心得帖/社員心得帖』(松下幸之助著)

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