「教える」より「考えさせる」~岩出雅之(帝京大学ラグビー部前監督)
2022年11月28日更新
帝京大学ラグビー部を常勝軍団に育て上げ、大学選手権で9連覇を含む10度の優勝を達成した岩出雅之前監督。4年生が雑用を担当する「逆ピラミッド化」など、常識破りの指導法でも知られる。その裏にある指導哲学を聞いた。
岩出雅之 Masayuki Iwade
帝京大学スポーツ局局長/帝京大学ラグビー部前監督
1958年和歌山県生まれ。日本体育大学ラグビー部で活躍。卒業後は教員となり、滋賀県教育委員会、公立中学・高校に勤務。滋賀県立八幡工業高校では、ラグビー部監督として同校を7年連続で花園出場に導いた。96年から帝京大学ラグビー部監督を務め、2009年度全国大学選手権大会で創部40年目に初優勝。以来、2017年度まで9連覇を記録。2021年度に同大会で優勝しV10を達成後、監督を勇退。2022年4月より現職。
「変わり続ける力」を身につけて人生のゴールを目指す
大学選手権で優勝することはもちろん大きな目標です。でも究極のゴールではありません。
仮に大学生活4年間のすべてで優勝し四連覇して卒業できても、後々の人生の保障とはなりません。しかも、卒業後の人生のほうがはるかに長い。学生時も社会に出てからも、自分自身をアップデートさせ続ける。「変わり続ける力」を身につけて人生のゴールを目指す。それが何より大切ですが、ラグビーでは後々に活かせる様々な経験ができます。
例えば、重圧のかかる場面でいかに平常心を保ち実力を発揮するか、混沌とした状況の中でいかに冷静に先を読むか──いずれも試合で勝つために不可欠な力ですが、社会に出てからも強く必要とされる力です。
試合に出られないメンバーにしてもそうです。帝京大学ラグビー部には、公式戦当日、試合に出られない選手が100人以上います。直接試合には出場しませんが、彼らの士気が低いと優勝できません。彼らには、自分が主役になれなくても腐らず、チームの勝利に積極的に貢献する姿勢が求められます。若い学生にとっては厳しくつらいことでもあると思います。そこを乗り越えて自身をコントロールしていく。とても大切で大きな経験となります。
考えさせることで、人は劇的に変わる
では、そうした力をどう育んでいくか。ポイントは「教える」のではなく、自身の背景や既存の考え方に目を向けて「考えさせる」ことです。
例えば、部室が汚いことに気づいたとします。そのとき、「すぐ掃除しろ」と指示したり、「1週間に1回必ず掃除」といったルールを決めたりすれば、問題はすぐ改善します。
しかし、そうした指示・命令で動かすとすぐに限界が来る。こちらが何も言わなくなるとまた汚くなりますし、さぼる人も出てきます。
そこで「なんで部室がきれいなほうがいいんだろう?」などと問いかける。その理由を本人たちがつかめば、「掃除しろ」なんて言わなくても自分たちでやるようになるからです。
この方法は時間がかかり根気もいります。しかし、人が劇的に変わっていきます。その変化を一度体験すると、それまでの時間は我慢ではなく楽しみに変わります。
「もっといい指導があるはず」
指導者も人間ですから欲もあり、その欲望がエネルギーの源です。でも気をつけないと、選手のためにではなく自身のためにエネルギーを使いがち。そうならないように自分の欲をうまく整理することも重要です。
今でこそこんな偉そうなことを語っていますが、数え切れない失敗や挫折をしてきました。それでも今まで続けてこられたのは、自分の指導法を振り返り、「もっといい指導があるはず」とやり方や考え方を改善してきたから。続けるのは大変ですが、それをやらなくなったときは、指導者を辞めるときだと思っています。
※写真は、ラグビー大学選手権でV10を達成したときのロッカールームにて。3年ぶりの優勝で、4年生も初めて味わう日本一だった。
※月刊誌「THE21」2022年10月号掲載「私の人財育成論」より転載
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