ストレスチェック制度での情報管理と不利益扱いの禁止
2016年9月16日更新
ストレスチェック制度への対応は、法令遵守だけではなく、従業員から信頼が得られる体制づくりが必要です。特に情報管理面での対応が鍵を握ります。
個人結果の取り扱いに不安を感じる従業員
ストレスチェック制度で扱う個人情報は、従業員の健康に関する情報であり、なおかつメンタルヘルスに関連する情報となります。
「うつは心の風邪」、あるいは「誰でもうつ病にかかるリスクはあります」とよく言われますが、体の症状とは周囲も本人も捉え方がずいぶんと異なっています。未だに「心の健康」については、誤解や偏見が多くみられます。
たとえば、健康診断の結果にて「中性脂肪の値が高かった」というのに比べ、「不安感が高い」「抑うつ感がある」といったストレスチェックの結果では、周囲に知られることの抵抗感も違うのではないでしょうか。
ストレスチェックの結果が悪く出ると、評価や昇進に関わってくると心配する従業員も出てきます。個人結果の取り扱いに不安を感じる従業員は決して少なくはありません。
また、体の健康診断は生理的な値を検査するために誤魔化すことができません。しかし、本人が自由に記入するストレスチェックの場合は気持ち次第でよくも悪くも回答できるわけです。誰もが安心して受検できる体制づくりに努めるだけではなく、そのことが周知されていなければ、データの信憑性にも疑問が出てくるでしょう。
ストレスチェックの実施に必要な管理項目
ストレスチェックの実施規程を作成する上で、衛生委員会等での調査審議事項としてあげられている11項目のなかで、情報の取り扱いに関連する項目は8項目にも及んでいます。
これらのポイントをまとめると、まず個人結果を取り扱う担当者、及び各担当者の利用目的と利用方法、開示範囲、安全に保管する方法を規定します。とくに、実施体制では、人事権を持つ役職者は個人結果を扱う実施事務従事者にはなれないと指針では定められています。
集団ごとの集計・分析についても、個人結果を特定できることがないよう、基本的には10人以上の集団での分析が推奨されています。
また、ストレスチェックの受検の有無や個人結果、面接指導の申出の有無、面接指導の結果など、ストレスチェック制度のあらゆる場面で労働者に対する不利益な取り扱いを禁止しています。こうした体制を従業員にしっかりと周知し、従業員からの信頼を得ることがストレスチェック制度を効果的に実施するためには大切です。
ストレスチェックを実施して初めてわかる多くの課題と矛盾点
こうした対応のポイントは意見すると当然にように見えます。しかし、実際に対応しようとすると、そこに煩雑かつ困難な要素がたくさん出てくるでしょう。
この困難さの要因の一つは、職場の安全衛生は事業場単位(支社や工場、営業所など)で行われますが、ストレスチェックは自体は事業者単位(法人全体)で実施する点です。ここに管理構造のねじれが生じてきます。
ルールは全社共通でも、ストレスチェックの個人結果の取り扱いは基本的に事業場内で完結できることが必要となります。事業場ごとの管理体制がある中で、たとえば従業員が職場を異動するといったケースも出てきます。ここに、開示範囲にない担当者が事後対応を迫られるといった可能性も出てくるわけです。
また、情報セキュリティに関して、最近では多くの組織で厳しいルールを策定するようになっています。しかし、ストレスチェックに関しては上位にある役職者が閲覧できないなど、通常の情報とは管理体制そのものが異なります。さらに、面接指導の申出によって事業者への開示が可能となるなど、既存の情報管理では適応できないケースが出てしまいます。派遣社員の個人結果の取り扱いについても一筋縄では難しいでしょう。
指針などを表面的に読むだけでは、こうした点まで理解が及びません。そのため、いざチェックを実施してみると情報管理上の矛盾点がいきなり噴出するケースが出ています。まずは健康管理部門と情報管理部門がストレスチェック制度に関する情報共有をしっかり行っておくことが必要です。
小西喜朗 (こにし・よしろう)
ウェルリンク株式会社顧問、産業カウンセラー、教育カウンセラー。1984年、京都大学卒業後、編集者、ジャーナリスト等を経て、2000年にウェルリンク株式会社設立に参画。累計130万人以上が利用する「総合ストレスチェックSelf」を開発する他、メンタルヘルス研修およびコンサルティングを行う。メンタル法律問題研究会理事、日本マインドフルネス学会理事等を歴任し、職場のメンタルヘルスケアをリードする。共著に『自分で治すがん』(朝日新聞社)、『リラクセーションビジネス』(中央経済社)、「メンタルヘルス・マネジメント」(PHP研究所)、『ポジティブ心理学再考』(ナカニシヤ出版)など。