人のやる気を駆り立てる「ゴールデン・サークル」
2020年12月 1日更新
やる気は、すべての活動を前進させるために必要なエンジンの役割を果たします。
ところが、やる気の指標の一つであるエンゲージメント(仕事や所属組織への愛着心、思い入れなど)が日本では非常に低いという結果が出ていることは、本コラムでも過去何度か紹介してきました。
どうすれば従業員(部下)のやる気を上げることができるのか、内発的動機づけという観点から、そのポイントを考えてみたいと思います。
「目的」と「目標」
PHP研究所が提供するマネジメント研修では、ミッションの重要性を理解することを学習の主眼としています。研修の中で、受講者である部・課長の方がたに「あなたの部門のミッションは何ですか」という問いを投げかけると、「今期〇億円の販売計画を達成すること」「新卒者を〇〇名採用すること」「不良率を〇%低減させること」といった答えが返ってきます。現場の第一線で部門を率い、成果獲得のために奮闘している部・課長の方がたですから、自分とチームが果たすべき役割と業務について詳細かつ雄弁に語ることができます。しかしながら残念なことに、彼らが語っている内容の大半はミッションではなく「業務目標」なのです。
ミッションとは、部門(事業)の果たすべき使命・存在意義を明文化したもの、つまり「何のためにわが部門があるのか」「何のためにこの事業を営むのか」といった根本的な「目的」を表現したものですが、それを語れる部・課長が驚くほど少ないのです。
目的が人の心に火をつける
人の心に火をつけるのは、目標ではなく目的です。
内発的動機づけのヒントを与えるメタファー(比喩)としてよく引き合いに出されるのが「三人の石工」という寓話です。
石を切って積み上げる作業をしている三人の石工に対して、何をしているかを聞くと、一人目は「生計を立てている」、二人目は「石切りの最高の仕事をしている」、三人目は「教会を建てている」とそれぞれ答えました。三人とも同じ作業をしているのですが、何を目的とするかによって、取り組む際のエネルギー量が異なってくるという教訓を示しているのです。
米国のコンサルタント サイモン・シネックは著書(※1)の中で、「崇高な目的をもって出社する社員は、困難に耐えられるし、困難に直面したときにこそチャンスを見つけることができる」と述べています。結局、人は「何のために」という目的によって、動機づけられ、やる気や主体性を発揮する生き物なのです。
人を動機づけるフレームワーク「ゴールデン・サークル」
目的によって人を動機づけるマネジメントのために、シネックが考案したコンセプトが「ゴールデン・サークル」です。ゴールデン・サークルとは、物事の本質を説明するためのフレームワークで、Why、How、Whatの3つの円で構成されたものです。
従業員(部下)に対して、何をすべきか(What)を提示しているリーダーは多いでしょう。しかし、それをやるための方法(How)まできちんと伝えているかと問われたら、どれほどのリーダーが「できている」と答えられるでしょうか。さらに、それをやる目的、意味(Why)を自分のことばで語っているかと言われたら、ほとんどのリーダーが「できていない」と答えるのではないでしょうか。日本企業の社員のエンゲージメントが高まらない理由もここにあるように思われます。
Why(目的、意味)にこだわる職場風土づくりを
部門や事業のWhy(目的、意味)にこだわり、それをチームで共有するところから、働きがいのある職場風土が醸成され、働く一人ひとりのやる気が高まるでしょう。したがって、リーダーの役割を担っている方には、まず自身が仕事のWhyと向き合って持論を形成すると同時に、それを従業員(部下)に語り続けていく営みが求められているのです。
※1 『WHYから始めよ! インスパイア型リーダーはここが違う』サイモン・シネック著(日本経済新聞出版)
PHP研究所では、エンゲージメントを高めるための考え方と手法を学ぶ、各種マネジメント研修を提供しています。ぜひ、お気軽にお問い合わせください
的場正晃(まとば・まさあき)
PHP研究所人材開発企画部部長
1990年、慶應義塾大学商学部卒業。同年PHP研究所入社、研修局に配属。以後、一貫して研修事業に携わり、普及、企画、プログラム開発、講師活動に従事。2003年神戸大学大学院経営学研究科でミッション経営の研究を行ないMBA取得。中小企業診断士。