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事例で考えるパワハラのグレーゾーン

2018年12月21日更新

事例で考えるパワハラのグレーゾーン

社員の退職、産前産後などの長期休業によって、残されたメンバーの仕事の負担が増える……。このような状況は、パワーハラスメント(パワハラ)を引き起こしやすいとされています。それはなぜでしょうか? グレーゾーン発生の事例をもとに解説します。

INDEX

注目度は高まったが、減らないパワハラ

都道府県労働局などに寄せられるパワハラの相談件数は、年々増加しています。また、パワハラが原因の労災認定件数も増加しているという報告もあります。パワハラは、行為を受けた人の人権を傷つけるだけでなく、最悪の場合、人生すらも台無しにするような悪質で許されない行為です。
それもあって、新聞やニュースでも連日のようにハラスメント問題が取り上げられ、「パワハラは許されないこと」という認識が一般的になっています。しかし、職場におけるパワハラは一向になくならないのです。それはいったいなぜでしょうか?

パワハラのグレーゾーンとは

パワハラがなくならない理由の一つが、「グレーゾーン」の存在です。グレーゾーンとは、その行為がハラスメントかどうか判断に迷うケース、あるいはハラスメントだとはただちに認定しにくいケースのことを言います。
たとえば、「周囲に人がいる前で、部下を叱る」などは典型的なグレーゾーンです。上司として、部下の行動を改善するために、良くないことは注意指導して改善を促さなければなりません。したがって、時には「叱る」という行為も必要です。しかし、周囲に人がいるという状況が「恥をかかされた」という印象を部下に与え、「パワハラではないか?」という疑念を生んでしまうという側面もあります。そして、疑念が生まれた時点でグレーゾーン発生となってしまうのです。
このような、両者の「受け取り方の違い」によるグレーゾーンですが、みなさんの職場ではどうでしょうか? 似たようなケースが存在していないでしょうか? 意識して職場を見渡してみると、意外にグレーゾーンが存在していることに気がつくかもしれません。

なぜパワハラのグレーゾーンが生まれるのか

グレーゾーン発生の原因を知るためには、パワハラを正しく理解することが不可欠です。パワハラは次のように定義されています。

<パワーハラスメント(パワハラ)の定義>
同じ職場の人に対して、職務上の地位や人間関係などの優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与え、職場環境を悪化させる行為

ここで注目したいのは、「業務の適正な範囲を超えて」という表現です。
先ほどの例であれば、「部下を叱る」という行為は、表現などが適切であれば少し厳しいことを言ったとしても問題になることはないでしょう。また、何かが起こるたびに個室に部下を呼び出して叱るのも、現実的ではありません。したがって、「業務の適正な範囲」だと考えるのが一般的です。
しかし、部下は「上司からきついことを言われた。しかもみんなの前で」と受け取り、「これって普通じゃないのでは?」と考え、「適正な範囲をはみ出た行為=パワハラ」となってしまう場合があります。

暴行や侮辱が、業務には不必要な行為だというのは当然です。しかし、「適正な範囲」という表現が具体性に欠けるため、解釈が人によって違い、思わぬ行為がグレーゾーンに発展してしまうのです。

上司のこんな言葉には注意が必要! 事例に学ぶ

上司のパワハラ

※写真はDVD『<改訂版>上司のハラスメント』の一場面

それでは、最初にご紹介した「社員の退職、産前産後などの長期休業によって、残されたメンバーの仕事の負担が増え、パワハラを引き起こしやすい状況になっている」という事例について考えてみましょう。
今は、転職市場が活況で、人材の出入りが激しい時代です。また、女性が出産後も働き続けることが当然となっています。そのような背景から、人員が減ってしまい、残されたメンバーの負担が増えることはどこの職場にもよくあることです。
とはいえ、上司も手をこまねいているわけではありません。たとえば、人員増の要望を会社に出す、職場内の仕事の分担を再検討するなどの対策をとろうとしているでしょう。しかし、なかなか思うようにいかないのも会社の現実です。
その結果、次のような発言が生まれてきます。

「要望を出しているけど、人員補充がないんだ」
「一時的な人員減なら、現状のメンバーでなんとかしのぐしかない」
「残業をしてでも仕事を回さないといけないけど、残業削減も会社から言われている」

どれも上司の立場からすれば「しかたないもの」ではありますが、すべての部下が納得してくれるとはかぎりません。なかには「上司から無理を言われた」「過剰な負担を強いられた」という不平・不満を抱き、「とは言っても……!」と反発する部下もいるはずです。
先にも述べた通り、部下が疑念を持ってしまった時点でグレーゾーンが生まれます。上司からすれば、しかたがないことだったとしても、両者の間に認識のズレが生まれてグレーゾーンとして表面化し、見過ごすことはできない状況になってしまっていると言えるのです。

世間の感覚とパワハラ

このような状況を回避するには、まず「世間の感覚を知る」ことが大切です。
「残されたメンバーの仕事の負担が増えている状況」は、次のように図式化できます。

<世間の感覚>
無理を言われた→不平・不満がたまる→パワハラ

これはパワハラの拡大解釈とも言えますが、そういう感覚を無視して(あるいは正論をかざして)頭ごなしに部下を押さえつけるような言動をとってしまったら、それこそ本当のパワハラに発展してしまいかねません。
今、パワハラ問題が難しい局面を迎えているのは、「世間の感覚の勢力」が拡大していることも一つの要因です。そのような中でパワハラ問題を解決していくには、いったん世間の感覚を受け入れることも大切なことだといえるでしょう。

次に大切なのは、「グレーゾーンが生まれがちな状況を知る」ことです。その一つが「バランスが崩れた時」です。先の例は、人員減の結果、職場内の仕事量の配分バランスが崩れたことが発端です。バランスが崩れているということは、どこかに無理が生じているということです。その無理が引き金となって、部下がネガティブな感情を持つことが少なくないのです。上司としては、「どこかバランスが崩れていないか」と観察し、早期に発見する努力をすることも重要なことだと言えます。

ハラスメント対策の中心を担うのは上司

最後に、ハラスメント対策について考えていきましょう。
言うまでもなく、職場でのハラスメント対策の中心を担うのは上司です。また、部下の行動を改善していくのも上司の責務です。上司の立場にある人は、部下に対して、適切な姿勢で向き合えているか、疑念を抱かれるような発言や言葉足らずな言い方をしていないか、日頃の自分自身を見つめ直してみることが大切です。
そのうえで、一人ひとりの部下と真剣に向き合い、「言うべきことは言う姿勢」を持ち、誤解をしている部下がいれば、納得してもらえるまで対話を続けください。

限られた労働力を最大限に生かすには、上司が中心になって誰もが安心して働ける職場づくりの実現を目指していくことが求められており、その中の一つにハラスメント対策も含まれているのです。

(PHP研究所 企画制作部)

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