できるリーダーはストーリーを語る~効果的なリーダーシップ発揮のポイント
2022年5月30日更新
組織風土の状態は、その組織を束ねるリーダーのあり方・言動によって、良くなったり悪くなったり、常に変化します。個人の心に火を点け、燃える集団をつくるために、リーダーは何をするべきでしょうか。本稿では、言葉という観点から、効果的なリーダーシップ発揮のポイントを考察します。
日本人のエンゲージメントの低さ
今、多くの企業でエンゲージメント調査が花盛りです。こうした調査は、従業員が自分の担当業務や会社に対する思い入れをどの程度もてているか測定するものですが、高いスコアが得られる組織は少ないようです。
エンゲージメント調査の結果が良くなかったので、その対策として「組織風土を変える取り組みをしたい」「若手社員のモチベーション向上の研修をしたい」といったご相談が私どもに寄せられる件数が以前に比べると増えています。
国際的にみても、日本人のエンゲージメントは低いと言われていますが、そのことと近年の日本経済の地盤沈下には相関関係があるように感じます。
経営者の強いリーダーシップ
かつての日本企業の中には、社員の熱気が満ち溢れ、革新的な商品やサービスを提供し続けて成長を続ける企業が多数存在していました。つまり、かつての日本人はエンゲージメントが低くなかったのです。そして、社員のエンゲージメントを高めるうえで大きな影響を及ぼしていたと思われるのが、経営者の強いリーダーシップです。
本田技研工業の創業者である本田宗一郎は、町工場の時代からミカン箱の上に立って、「世界を目指す」と社員に訴え続けました。また、松下電器(現パナソニック)の創業者・松下幸之助は、会社の果たすべき使命と250年に及ぶ事業構想を示しました。
こうした、人心掌握の名人とも言えるリーダーが発する言葉によって、個と組織がインスパイアされ、活動を前進させるエネルギーが高まっていった様子が、彼らのエピソードや自伝などに克明に描写されています。
リーダーシップは言葉がすべて
エンゲージメントとリーダーシップの相関性から考えると、現在、日本企業においてエンゲージメントが低いのは、経営者・経営幹部がリーダーシップを発揮し切れていないことが一因のようです。「リーダーシップは言葉がすべて(※1)」という主張が示すように、リーダーが発する言葉に力がないのです。
そして、言葉の力のなさは、自分の意見や方針を伝える際にストーリーで話をしないことに起因します。「来期は、〇〇億円の売り上げを目指す」とか、「今期、CS(顧客満足度)を〇%高める」「来年、〇〇の市場に新規参入する」といった言葉はいずれもキーワードだけが切り取られ、ぶつ切りで伝えられているので、なぜそれをするのか、意義や意味がわからないのです。
意義や意味が分からないと、伝えられた意見や方針を頭で理解できても、腹落ちすることはできません。だから本気になれないし、熱中することもないのです。
Whyへのこだわりがストーリーを生み出す
したがって、人の心に火を点けるためには、リーダーはストーリーを語らなければいけません。そして、ストーリーにするためには、ぶつ切りの言葉をWhy⇒Becauseの観点から補足説明する必要があります。
例)「来年、〇〇の市場に新規参入する。なぜ(Why)、新規参入するのか? なぜならば(Because)、当社が参入することで、~~~が実現するからだ。」
ストーリーを語るためには、日常的にWhyにこだわってものごとを見たり、考えたりする習慣を身につける必要があります。そのこだわりと習慣が、持論の形成、信念の強化につながり、人の心を動かすストーリーを生み出すでしょう。
参考記事:リーダーシップを発揮するための6つの問い
※1 引用:『LEADER'S LANGUAGE 言葉遣いこそ最強の武器』(デビット・マルケ著)東洋経済新報社
的場正晃(まとば・まさあき)
PHP研究所人材開発企画部部長
1990年、慶應義塾大学商学部卒業。同年PHP研究所入社、研修局に配属。以後、一貫して研修事業に携わり、普及、企画、プログラム開発、講師活動に従事。2003年神戸大学大学院経営学研究科でミッション経営の研究を行ないMBA取得。中小企業診断士。