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主体的に行動するには? 松下幸之助の「社員稼業」に学ぶ

2023年6月27日更新

主体的に行動するには? 松下幸之助の「社員稼業」に学ぶ

主体的に行動するには、どうすればよいのか。松下幸之助は、経営マインドを持って主体的に働くことを「社員稼業」と呼んでいました。この「社員稼業」という考え方を、幸之助の著書やエピソードをひもときながらご紹介します。

「社員という稼業」の経営者

私たちの日々の生活の中で、仕事に費やす時間が占める比率はきわめて大きいものです。一般的に会社員であれば、平日の日中は会社の仕事に従事している人が多いでしょう。松下幸之助は、せっかく長い時間を仕事に費やすのであれば、生きがいが感じられるような仕事の仕方ができないものかと考えました。そして、社員自身が、ひたすら上から与えられた仕事をする「雇われ社員」の意識を捨てて、「主人公」の気構えで仕事を進めることができれば、大きなやりがいを得られるし、成長にもつながると訴えたのです。すなわち、「社員という稼業」の経営者になった気持ちで働くことを説きました。

独立経営体の主人公

私がここでみなさんにお話ししたいのは、今日の会社の社員は、会社の社員という考えに徹することはまことに結構だけれども、単に会社の社員に徹するという考えだけであってはならない、ということです。そういうような点から、私はみなさんに次のような考えを持っていただくことができないかどうか、また、そういう考えを持つことが誤りであるかどうか、ということを申しあげたいのです。
それはどういうことかというと、社員のみなさんは、いわゆる「社員稼業」という一つの独立経営体の主人公であり、経営者である、という考え方です。社会全体から見れば、自分の仕事は一つの会社の社員という職業である。しかしその実態は、自分は社員という稼業の経営者であると、こういうような考えに徹することはできないかどうか。私はこう考えられるかどうかによって、大変な違いがそこから生じてくると思うのです。
今日、独立した経営者は数多くあって、その経営ぶりはさまざまです。それぞれの人の持ち味において、自主独立の形で経営が行なわれています。うどん屋さんの主人もそうです。そば屋さんの主人もそうです。(中略)その人たちは、いわばその仕事を自分一人でやっているのです。自分一人で、独立経営体として、そこに精魂を打ち込み、おのが事業としてものを見、ものを判別し、そうして是非を判断しているのです。しかし、会社勤めのいわゆるサラリーマン、社員という人たちは、そこまでは徹していないでしょう。徹している人があってもごく少数で、大部分は会社の社員という立場において、単なるサラリーマン根性というか、要するに与えられた仕事を遂行しているといった心構えに終わっているのではないかという感じがします。
それをもう一歩進めて、自分は、会社という一つの社会の中で、社員稼業をしている独立経営体であると考える。すなわち、みなさん一人ひとりが、自己の独立経営として、自分はこの会社の社員稼業をやっているんだと、こういうような心意気になってものを見、ものを判断することがはたしてできないものかどうか、また、そうすることは間違ったことなのかどうか、ということを考えていただきたいのです。

出典:松下幸之助・著『社員稼業』、PHP研究所

この「社員稼業」の実践とは、課長や係長といった管理職の人であればその課や係という独立経営体の経営、プロジェクトリーダーであればそのプロジェクトを独立経営体と見なして経営をすることであると理解できます。

では、役職を持たない若手社員の場合、どうすればよいのでしょうか? たとえば、次のような3つのポイントを心がけてみてはいかがでしょう。

(1)仕事の優先順位を考える
若手社員の場合、上司や先輩、取引先などから仕事を指示・依頼されることが多いでしょう。ときには面倒でやりたくない仕事は後回しにしがちになりますが、常に仕事の優先順位を考える習慣を身につけてください。仕事のマネジメント力を向上させる第一歩です。

(2)積極的な提案を心がける
仕事の完成度を高めるには、積極的な提案が重要となります。幸之助は上司の力を活用すべきだと強調していますが、上司の理解を得ながら自分の提案を実現していくことは、企業人としての実力を向上させることにつながります。

(3)若手ならではの強みを生かす
たとえば、デジタル関連の分野は、年配のベテラン社員よりも若手社員のほうが長(た)けているでしょう。時代の変化がますます加速している現状においては、経験が未熟であっても若手社員に大きな期待がかけられているのです。

さらに、課長や係長など「長」のつく管理職ともなれば、自部門の経営成果に責任を伴うようになります。文字通り、独立経営体の主人公です。しかしその意識が薄い管理職には、幸之助はたとえば、こんな"教育"もしたそうです。

エピソード「しるこ屋をやれ!」

昭和30年(1955年)頃のことである。新型コタツの発売に踏み切った直後に、誤って使用されれば不良が出るおそれがあるとの結論が出て、市場からの全数回収が決定された。
その回収に奔走していた電熱課長がある日、幸之助に呼ばれた。
「君が電熱担当の課長か」
「はい、そうです」
「会社に入って何年になるかね」
「18年になります」
「君、あしたから会社をやめてくれ」
「.........」
「今、会社をやめたら困るか」
「困ります。幼い子どもが二人いますし......」
「それは金がないからだろう。君が困らないように金は貸してやろう。その代わり、わしの言う通りにやれよ」
「はい......」
「会社をやめて、しるこ屋になれ」
「.........」
「まあ、立ってないで、その椅子に座って。君は、まずあしたから何をやるか」
「新橋、銀座、有楽町と歩いて、有名なしるこ屋3軒を調査します」
「何を調査するのや」
「その店がなぜはやっているのか、理由を具体的につかみます」
「次は?」
「そのしるこに負けないしるこをどうしてつくるか研究します。あずきはどこのがよいか。炊く時間と火力、味つけなどです」
「おいしいしるこの味が決まったとしよう。ではその次は?」
「.........」
「君、その決めた味について、奥さんに聞いてみないかん。しかし、奥さんは身内やから『うまい』と言うやろ。だから、さらに近所の人たちにも理由を説明して、味見をお願いしてまわることや」
「はい、必ずそれをやります」
「自分の決めた味に自信を持つこと。それから大事なのは、毎日毎日、つくるごとに決めた通りにできているかどうか自らチェックすることや」
「必ず実行します」
「それだけではまだあかんよ。毎日はじめてのお客様に、しるこの味はいかがですかと聞くことが必要やな」
「はい、よくわかりました」
「君はそのしるこをいくらで売るか」
「3店の値段を調べてみて、5円なら私も5円で売ります」
「それでいいやろ......、君が5円で売るしるこ屋の店主としても、毎日これだけの努力をせねばならない。君は電熱課長として、何千円もの電化製品を売っている。だからしるこ屋の100倍、200倍もの努力をしなくてはいけないな。そのことがわかるか」
「はい、よくわかります」
「よし、君、今わしが言ったことがわかったのであれば、会社をやめてくれは取り消すから、あしたからは課長としての仕事をしっかりやってくれ」

出典:PHP総合研究所・編著『エピソードで読む松下幸之助』、PHP研究所

ここに登場する電熱課長は、営業部門の社員だったそうです。コタツの製造には直接かかわっておらず、不良について自分が叱られるとは思っていなかったのかもしれません。しかし社員稼業の意識があれば、お客様の反応を確認しながら、開発や製造、あるいは製品検査の担当部署とも、日々しっかりとコミュニケーションをとりながら仕事を進めていたことでしょう。

この短いエピソードの中に、現代でいう市場調査や品質管理などの要素が詰まっていて、しるこ屋さんの経営を成立させるには、少なくともこれだけのことをしなければならないことがわかります。もちろん会社に勤務している社員は、しるこ屋さんのような自営業者とは異なります。しかし、社員稼業という観点からすれば、同様の経営感覚が求められることになります。すなわち、営業の能力がいくら素晴らしくとも、経営に損害が出ていれば、「独立経営体の主人公」としては問題なのです。

経営の勘所をつかむには、いくら経営書を読んでも容易に身につくものではありません。日頃から社員稼業の実践を心がけることが大切です。いったん勘所がつかめれば、仕事の醍醐味を存分に味わえるようになるだけではなく、周囲からも将来の経営人材として期待されることでしょう。

※本記事は、PHP通信ゼミナール『〈新版〉松下幸之助に学ぶ』のテキストを抜粋・編集して制作しました。

PHP通信ゼミナール『〈新版〉松下幸之助に学ぶ』

PHP通信ゼミナール『〈新版〉松下幸之助に学ぶ』

人間・松下幸之助の人生と経営を振り返り、さらにその特徴となる人生観・経営観にスポットを当てて解説しています。変化の激しい今の時代を生きぬくために、松下幸之助の「学び続ける姿勢」をあらためて学んでいただきたいと思います。

監修・執筆:PHP理念経営研究センター
対象:中堅社員~マネジャー、経営幹部
受講料:18,260円(税込)
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