新入社員に教えたい職場のコミュニケーションのポイント
2019年3月29日更新
新入社員が職場になじめず、すぐに辞めてしまう……そんな事態を防ぐために、内定者教育や導入研修などの機会に伝えたいコミュニケーションのポイントをご紹介します。
若者はコミュニケーションが苦手?
昨今「若者のコミュニケーション能力が低下している」という声を聞くことがありますが、それはどこまで実態を反映しているのか、判断が難しいところです。例えば年齢の離れた上司・先輩との会話を苦手にしている新入社員でも、友人とのSNSでは、とても活発にやりとりしていることがあります。
ただ、SNSでは「相手の顔を見て、相手の気持ちを察しながら会話をする」というコミュニケーションが生まれません。部活動などで先輩や後輩といった縦の人間関係に揉まれていない若者であればなおさら、対面でのコミュニケーションの機会に恵まれなかったことは想像に難くありません。そうした若者にとっては「年齢層が異なる人」との「対面でのコミュニケーション」は未知の分野といってもいいでしょう。
昨今、私たちの仕事においても、電子メールで済む用件はそれだけで済ませて、あえて電話は使わないケースが増えてきました。誰もが小まめに確認するのが習慣になったため、電話をかけなくてもほぼ確実に用件が伝わるからです。文字で残るので再確認も簡単です。それどころか、今何をしているのかわからない相手に突然電話をかけると、かえって迷惑になるかもしれないため、メールで済ませるほうが相手を煩わせないで済む、という価値観が生まれています。
とはいえ、職場では誰もが他者と連携しながら仕事をするものです。電話や対面でのコミュニケーションも必然的に求められます。お互いに気持ちよくスムーズに仕事をするためにも、人間関係を円滑にする考え方やコミュニケーションの取り方を、内定者教育の段階、あるいは新入社員への導入研修などで伝えていくことが重要となるでしょう。
新入社員に教えたい職場のコミュニケーション
では、新入社員に職場でのコミュニケーションや人間関係の築き方をどのように教えればいいのでしょうか。PHP通信ゼミナール『社会人、やっていいこと・悪いこと』のテキストをもとに、ポイントをいくつかご紹介していきましょう。まずはケーススタディです。
ケーススタディ
先輩社員が書類のコピーを頼もうとすると、新入社員はパソコンで作業しながら「できません」と一言だけで返事を済ませます。次に先輩が書類の内容を確認しようとしたら、「わかりません」と一言答えるだけ。さらに何か手伝いを頼もうとすると、「無理です」とにべもなく答えます。そのうちに先輩社員は腹を立ててムスッとした表情になりますが、新入社員は先輩がなぜ怒っているのか、まったく理解できない様子です。この場合、先輩社員は、「できないこと」「わからないこと」「断られたこと」に腹を立てているわけではなく、新入社員の「物のいい方」に腹を立てているのがおわかりいただけるでしょう。職場では「意味さえ伝わればよい」という考え方ではなく、相手に与える印象を考えて言葉を選ぶ必要があることを、新入社員には教えたいものです。
仕事では相手への配慮が求められる
『社会人、やっていいこと・悪いこと』のテキストでは、上記に続いて、新入社員が先輩に助言を求めるケースが紹介されています。
「言葉の気配り」で印象が変わる
困ったことがあって先輩に助言を求めたとき、「あとにして」「無理だ」とだけいわれるとどう感じますか? 冷たい言い方に傷つく、そっけない言い方にムッとする、この人にはもう話しかけるのをやめようと思うなど、“嫌な印象”をもつのではないでしょうか。
では、どのように変えたら“よい印象”をもってもらえるのか考えてみましょう。「あとにして」は、「悪いけど、あとにしてくれないか」「無理だ」は、「申し訳ないね。いまは無理なんだ」と言葉を足してみるとどうでしょうか。言葉がやわらかくなり、印象がよくなったと思いませんか?
つまり、追加した「悪いけど」「申し訳ないね」が、冷たい言葉の印象を優しくしてくれているのです。これを“クッション言葉”といって、相手に与える印象をやわらげるために使います。
ここでは「クッション言葉」が紹介されています。こうしたクッション言葉をそえながら、さらに「申し訳ありません」という気持ちを表す表情が加われば、相手の気分を害することはありません。
仕事では、相手に対して反対意見を言ったり、頼みごとをしたり、断らなければならない場面が出てきます。そうしたときにも相手に配慮することによって人間関係を円滑に保ち、その後の仕事に影響がでないようにすることが求められます。
新入社員には、そういった気配りの大切さを、ぜひ教えたいものです。
新入社員が「わかったふり」をする理由は?
また、新入社員は「わかったふり」「知っているふり」をしてしまうことがあります。そして、それが大きなミスにつながることがあります。話を聞いてみると、彼らには次のように理由があるようです。
(1)聞いたときはわかったつもりだったが、あとで考えるとわかっていなかった。
(2)理解できなかったが、あとで調べればわかるだろうと思い、その場ではわかったと返事をしておいた。
(3)前に同じことを教わっていたので、もう一度尋ねるのが申し訳なく感じられ、わかったふりをしたけれども本当はわかっていなかった。
(4)相手から「そんなこともわからないのか」といわれたくなくて、わかったふりをする。
上司・先輩が「質問しにくい雰囲気」を出していると……
仕事において「わかったふり」をするのは、大きなミスやトラブルの原因となり得ます。特に仕事に慣れていない新入社員には、それを伝える必要があります。前述のテキストでは次のように説明しています。
“知ったかぶり”はとても危険
今まで「わかったか?」と聞かれ、あまり自信がなくても「わかりました」ととりあえず答えてしまった。そういう経験はありませんか?
仕事では、相手のいっていることがしっかりと理解できていないのであれば、「申し訳ございません。もう一度説明していただけますか?」と質問をすることが求められます。ところが、質問するのが苦手、前にも聞いたから聞きにくい、理解力がないと思われたくないなどの理由で、「わかっています」と“知ったかぶり”をして、質問をすることから逃げてしまう人がいます。
しかし、なんとなくの理解で仕事を進めてしまうことの危険性をどれだけ理解しているでしょうか。
たとえば、上司から指示された仕事の内容がきちんと理解できていなかった場合、知ったかぶりをして仕事を進めてしまうと、たいてい間違った進め方で仕事をしてしまうことになります。最悪の場合、取り返しのつかない事態になってしまうでしょう。
また、取引先で商品について知ったかぶりをした説明をして注文をとったとします。すると、商品が取引先に届いたとき、「話とは違う」と大きなクレームになります。さらには、「だまされた」と思われ、信用を失ってしまいます。
このように説明すれば、新入社員にもよく理解されるでしょう。そもそも「わかったふり」でその場を逃れようとするのは、相手との人間関係が十分に構築されていないからでもあります。上司・先輩の立場にある人も、新入社員から「当たり前」のことを尋ねられたとき、面倒がったり、「そんなこともわからないのか」という顔をしたりせずに、できるだけきちんと説明することが大事です。「質問しにくい雰囲気」を出してしまったら、その後も「わかったふり」をされ続けてしまうかもしれません。
そうではなく、「聞くは一時の恥」であり、わからないことがあったら臆せず上司や先輩に尋ねるように教育することが必要です。
職場の人間関係を学べるPHP通信ゼミナール
PHP通信ゼミナール『社会人、やっていいこと・悪いこと』では、上記以外にも、「好き嫌いで人に接してはいけない」「責任はすべて自分にある」「会社はわがままが通用しない場所」といったテーマで、会社における人間関係のあり方が解説されています。こうしたポイントを導入研修などの機会に新入社員に伝えることで、彼らは職場のコミュニケーションのあり方を少しずつ理解し、着実に成長していくのではないでしょうか。
※本記事はPHP通信ゼミナール『社会人、やっていいこと・悪いこと』を抜粋・編集して制作しました。
森末祐二(もりすえ・ゆうじ)
フリーランスライター。昭和39年11月生まれ。大学卒業後、印刷会社に就職して営業職を経験。平成5年に編集プロダクションに移ってライティング・書籍編集の実績を積み、平成8年にライターとして独立。「編集創房・森末企画」を立ち上げる。以来、雑誌の記事作成、取材、書籍の原稿作成・編集協力を主に手がけ、多数の書籍制作に携わってきた。著書に『ホンカク読本~ライター直伝!超実践的文章講座~』がある。