意識と行動が変わる「新入社員研修」の進め方
2020年1月 6日更新
新入社員の特徴は年々変わっていきます。どのような導入研修を行えば、彼らの意識と行動を変えることができるでしょうか。
自社の新入社員研修は、ほんとうに効果的なのか?
新入社員研修で扱う内容は毎年メニューが決まっているという会社も多いと思いますが、新入社員の考え方や気質は年々変わってきています。そのことに神経質になりすぎて、本来あるべき新入社員研修の軸がぶれてしまっては本末転倒ですが、ある程度、受講者の傾向を考慮しないと研修の効果が上がりにくいのも事実です。本格的な準備に入る前に、自社の新入社員研修がほんとうに効果的なのか、一度再点検してみてはいかがでしょうか。
本稿では、「最近の新入社員の特徴」とそれをふまえた「効果的な新入社員研修の進め方」について述べたいと思いますので、参考にしていただければ幸いです。
最近の新入社員の特徴
育った環境や受けてきた教育・しつけなど、さまざまな要因の影響を受けて、最近の新入社員には他の世代とは異なるいくつかの特徴が見られます。PHPゼミナールでは、毎年「新入社員研修」の受講生の傾向を分析し、「長所」「改善点」の2つの観点から、主な特徴を列挙しています。
下記の図表は、2019年度の新入社員(N=3,000名)の特徴を示したものです。
上記②「同世代との関係づくりが得意」と⑧「対人関係力が未熟」、そして③「自分の考えをもっている」と⑦「周囲の状況をうかがう」は、それぞれ矛盾しているように見えるかもしれません。
「対人関係」については、同世代(同期)の人とはSNSなどを使ってすぐに親しくなれる(②)のですが、年代が離れた先輩や上司とは関わり方がわからないので、自分から関係を作ろうとしない人が多い(⑧)のです。
また、「自己主張」に関しては、研修中に講師が受講生に問いかけをしても、発言する人がほとんどいません。だからといって、考えていない、答えがないのではなく、自分の考えを持っている(③)けれど、発言をして目立ってしまうことを躊躇している(⑦)のです。
こうした彼ら・彼女たちの特徴を一言集約するなら、「個」としての成熟レベルは高いけれど、多様な人が集まる集団の中では、自分を活かすのが苦手というところでしょうか。
効果的な新入社員研修の進め方(1)-感謝される体験、する体験
立教大学経営学部で、学生に対するリーダーシップ教育に取り組んでいる舘野特任教授によると、若者が成長するきっかけになるのが、感謝される経験であると言います。例えば、ゼミ活動で率先して何らかの役割を担って貢献し、ほかのメンバーから「ありがとう」と言われた学生はその後、急速に成長するそうです。誰かの役に立ち、感謝された体験と喜びが、更なる「お役立ち活動」への誘因となって、その人自身のリーダーシップがさらに強化されるのでしょう。
また、現在の自分を振り返り、「いろいろな人のおかげで今がある」ことに気づけば、周囲への感謝の思いを持つことができます。そうすれば、徐々に自分の周囲に対して意識が向き、気配りや優しさの発揮につながります。
新入社員研修においては、感謝されること、することの重要性を説くと同時に、それを体験する機会を提供することが大切です。たとえば、PHPゼミナールで実践しているのが、「サンキューカード」の交換です。研修期間中、一人ひとりにカードをもたせ、些細なことでも「ありがたい」という経験をしたなら相手に感謝のメッセージを書いて渡します。他者からカードを欲しいと思うなら、相手の立場にたって発想し、感謝されるような言動をしなければならないのです。毎日、このカードのやり取りを繰り返すうちに、一人ひとりの表情が明るくなり、自分本位ではなく相手のために何ができるかを考えるようなマインドセットができていきます。
効果的な新入社員研修の進め方(2)-教えられる側から教える側へ
『ケーキの切れない非行少年たち』(新潮新書)の著者・宮口幸治氏によると、非行少年の矯正プログラムで、レクチャーを一向に聞かない子どもたちを「教えられる側」から「教える側」に変えたところ、非行少年たちの意識と素行が改善された事例があるそうです。その経験を踏まえて宮口氏は、「人は誰かに教えたい、誰かから頼られたいという欲求を持っている」と主張しています。
この原則は新入社員研修にも応用ができます。最初から最後まで、教えられる側にいると、受け身の姿勢を助長しますし理解度も高まりません。したがって、研修の後半部分でグループごとにテーマを決め(例えば、「報連相の基本」「指示命令の受け方」「PDCAサイクルの回し方」「職場のコミュニケーション」など)、自分たちでそれを研究して発表するなど、教える側に立たせるのです。教えるためには、教えられる側の何倍ものエネルギーが必要になりますので、理解も深まるし、「よくわかった」「わかりやすかった」といった反応が得られたら、お役立ち感や自己肯定感の向上につながり、やる気もアップするのです。
効果的な新入社員研修の進め方(3)-フィードバックと振り返りを通じた気づき
認知心理学や成人発達理論の世界では、人が成長するためには正しい自己認識が必要だとされていますが、自己認識という作業はことのほか難しいものです。そこで、昨今注目されているのが、他者からのフィードバックと、内省による振り返りです。すなわち、自分のとった行動が周囲にどんな影響を及ぼしたか、第三者からフィードバックをしてもらう。フィードバックの中には耳の痛いものもあるでしょうが、それを素直に受け止め、今後自分はどうすべきかを内省する。その繰り返しが自己認識範囲の拡大につながり、成長のための課題が明確になります。
新入社員研修は伝えなければいけないことが多いので、とかく講義中心になりがちです。しかし、自学自習で対応できるものはテキストの事前読了に切り替えるなどして思い切ってコンテンツを減らし、空いた時間をフィードバックと振り返りの時間に充てるなどの工夫も必要と思われます。
ここまで効果のあがる新入社員研修を実施するための参考として、PHPゼミナール「新入社員研修」の進め方をご紹介いたしました。大切なのは、新入社員の「気づき」をいかに誘発するかということです。そのためにも、座学中心の研修から体験中心の研修へと内容と進め方を変える必要があるでしょう。
PHPゼミナール「新入社員研修」では、職場の内外で愛されるためにどんな心がまえで何を実践すればいいのか、自身の課題を明らかにしつつ、学生から社会人へ意識と行動の変革を促し、自律行動型のビジネスパーソンに成長するための心構えをしっかりと学んでいただきます。
的場正晃(まとば・まさあき)
PHP研究所人材開発企画部部長
1990年、慶應義塾大学商学部卒業。同年PHP研究所入社、研修局に配属。以後、一貫して研修事業に携わり、普及、企画、プログラム開発、講師活動に従事。2003年神戸大学大学院経営学研究科でミッション経営の研究を行ないMBA取得。中小企業診断士。