入社式までに内定者に学んでほしい「社会人としての心得」
2019年8月16日更新
入社が内定した学生には、入社式を迎えるまでに「社会人としての心得」を学んでほしいものです。社会人になると、学生時代とは大きく生活が変化します。新入社員がそのギャップで悩んだりしないように、あらかじめ学生の意識を高めておくことが重要です。
社会人としてのお金の使い方
会社に勤めると、当然、給料がもらえるようになります。新入社員にとっては、人生で初めて、毎月まとまったお金が入るようになるわけです。最初のうちはそれだけで興奮を覚え、学生時代に買えなかったものを次々に購入してしまう人もいます。もちろん最初から堅実に生活する人もたくさんいますが、なかにはクレジットカードで欲望のままに買い物をしてしまい、支払いに追われ、生活に支障をきたす人も出てくるでしょう。そうした事態を招かないためにも、内定者教育の中で、「お金」に関する考え方を指導しておくことが大切です。
入社内定者向けPHP通信ゼミナール『ようこそ! 学生諸君。』では、「上手なお金の使い方」について次のように説明されています。要約して紹介いたします。
(1)自分の欲望をきちんとコントロールし、ほしいからといって何でも買わない。
(2)衝動買いをせず、自分の支払い能力を確かめながら計画的に購入する。
(3)収入から一定のパーセント分を差し引いて、残りのお金で生活を考える。
(4)分不相応な買い物はしない。収入より支出が多いと生活はいつか破綻する。
会社のお金についての認識
自分のお金だけでなく、「会社のお金」についても意識を高めてもらう必要があります。例えば外回りの仕事で交通費を使ったり、お客様との打ち合わせ等で飲食代を使ったりしたあとは、会社の経費で精算を行います。当然領収書を発行してもらい、1円単位まで正確に精算しなければなりませんが、学生はそこまで厳密に考えていない可能性があります。こうしたことも、内定者教育であらかじめ伝えておけば、入社後のやり取りがスムーズに進むはずです。
社会人と「勉強」について
学校を出て働くようになると、「勉強から解放される」と思っている学生もなかにはいるでしょう。しかし就職してからも、さまざまな勉強を重ねていかなければ、企業人として成長していくことはできません。経済の基礎はもちろんのこと、専門性の高い仕事なら、その分野に関して深く学んでいく必要があります。あるいは「昇格試験」を行っている会社もたくさんあるはずです。学生時代の勉強とは内容が大きく異なりますが、決して「勉強」が不要になるわけではありません。会社に入ってから必要以上に戸惑わないように、入社前から勉強の大切さを知らせておくべきだといえます。
学生のうちにやっておいてほしいこと
就職すると、学生時代よりも拘束時間が長くなり、自由な時間が少なくなります。入社後に「あぁ、学生の間にもっと好きなことをやっておけばよかった」などと思われないために、悔いの残らない学生生活を送るようアドバイスしておくことも必要でしょう。学生生活が不完全燃焼に終わり、そのことを社会人になってから悔やみ続けていると、やがて早期退職の引き金になってしまうことも考えられます。同テキストに記されているアドバイスを要約してご紹介します。
学生生活を思い切り楽しむ
クラブやサークルで得た人間関係は人生の貴重な財産です。特定の彼や彼女がいる場合、その相手が生涯の伴侶になることもあれば、ならないこともありますが、学生時代に恋愛を経験しておくことは人生の糧となります。
旅に出る
卒業旅行に限らず、学生時代にしかできない旅に出かけるのもおすすめです。できれば一人旅をして、孤独感や不安な気持ち、小さな危険などを味わうと、さらに経験値が高まります。もちろんリスクを考えて友だちとの旅になることもありますが、旅行中は全部人任せにしたりせず、自分の意思で行動することが大切です。
趣味を育てる
時間に余裕がある学生のうちに、スポーツや音楽、読書など、人生を彩ってくれる趣味を探しましょう。入社後、仕事以外にすることがなく、会社の一部分のようになってしまうのではなく、「そもそも豊かな自分が会社を受け止めるのだ」という意識を持つことが重要です。
思い切り勉強する
卒業論文でも、その他の勉強でもかまいません。就職したあとも勉強する習慣を持ち続けるため、また未来の自分のために、思い切り勉強しておくことをおすすめします。
会社にみやげ話を持っていこう
学生時代に何をしていたかは、会社に入ってから「よいみやげ話」になります。いろいろなことに挑戦し、楽しく過ごした経験談をたくわえて、会社の先輩に話せるようにしておきましょう。会社の人たちも、若い社員から話を聞くのを楽しみに待っています。
会社の将来性についての考え方
学生が就職先を選ぶ際、必ずといっていいほど会社の「将来性」を重視します。すでに成功を収め、将来も発展する見込みがある会社、あるいは将来市場が拡大すると予想される業界を選び、就職試験にチャレンジするのです。そこで、学生の意識にポッカリと抜けている可能性があるのは、「自分が就職した会社の将来性は、そこで働く自分自身の力で築いていくのだ」という視点です。もともと意識が高い学生なら、「この会社の将来性は自分で創っていく」と考えている場合もありますが、そこまで思慮が及んでいない学生も少なくありません。同テキストでは、学生の意識を高めるために、次のような説明がなされています。
現在、隆盛を誇り繁栄を極めている人気企業・花形企業が、今の位置をキープできる保証はどこにもありません。(略)会社の現在の姿だけを見て、会社の将来像を勝手に描くのは、危険だということなのです。
将来性とは、将来への可能性です。それは、与えられるものではなく、自ら創りあげるものです。(略)会社の一員として、将来への可能性を見つけ、発展させるために努力しようと決意することなのです。
「『適性が無いかもしれない』という入社内定者の不安に人事としてどう応える?」でお伝えした「ゲスト意識からホスト意識への転換」にもつながりますが、いったん就職したら、もう「お客さん」ではありません。誰もが自らの意志でスキルを高め、経験を積み、ビジネスパーソンとして成長し、結果を残し、「会社を引っ張っていく存在」を目指さなければなりません。内定者教育において、そうした意識と覚悟を植えつけ、甘い考え方を取り除きつつ、同時に心のケアも行っておけば、学生たちは就職試験時よりもひと回り成長した状態で、入社式の日を迎えることができるのではないでしょうか。
※本記事はPHP通信ゼミナール『ようこそ!学生諸君。』を抜粋・編集して制作しました。
ようこそ!学生諸君。
入社前の不安を解消し、心新たに社会人としてのスタートを切ってもらうために、内定者に考えて欲しいこと・身につけて欲しいことを、身近な視点で紹介しています。毎年1000社以上で活用されている好評コースの改訂版として、テキストにイラストやマンガをとりいれ、わかりやすく解説しました。
森末祐二(もりすえ・ゆうじ)
フリーランスライター。昭和39年11月生まれ。大学卒業後、印刷会社に就職して営業職を経験。平成5年に編集プロダクションに移ってライティング・書籍編集の実績を積み、平成8年にライターとして独立。「編集創房・森末企画」を立ち上げる。以来、雑誌の記事作成、取材、書籍の原稿作成・編集協力を主に手がけ、多数の書籍制作に携わってきた。著書に『ホンカク読本~ライター直伝!超実践的文章講座~』がある。