会社の歴史を知る~松下幸之助「人を育てる心得」
2017年4月13日更新
私たちが日本人として、この日本の国において生きていくについては、やはり、日本の歴史、伝統というものを知ることが大切だと思います。
日本という国がどのようにして建国され、どういう過程を経て今日にいたっているかという歴史を知ってはじめて、そこに今日の日本人としてどう生きるべきか、また日本を将来どういう国にしていったらいいかといったことも、よりよく考えられると思うのです。
それは会社の場合でも同じことです。一つの会社に入って、大いに仕事をしていこうと思うならば、やはりまず、その会社の歴史を知らなければならないでしょう。今日、非常に大を成している会社であっても、決して最初からそういう姿だったわけではないと思います。かりに創業三十年を迎えようとしている会社であれば、三十年前にはそれは、影も形もなかったわけです。それを、ある個人なり、あるいは何人かの人々が志を立てて会社をつくり、その後長年にわたって、その時々の経営者なり社員の人々が営々と努力を重ねて、今日の姿を成したわけです。
そういう歴史というものを、規模の大小なり、期間の長短はあっても、どこの会社ももっています。その過去の歴史を認識することから、社員としての活動の第一歩が始まると考えてほしいと思います。過去を知らずして何ができるか、というと少し極端かもしれませんが、そういってもいいほど、会社の歴史、先輩の体験というものは貴重だと思うのです。
もちろん、実際の日々の仕事においては、次々と新しい、よりよいものを生み出していかなくてはならないわけですが、そういうことも、過去の歴史の基礎の上に立ったときにはじめて十分に可能となるのではないでしょうか。
また、新入社員の人たちは、一年たち二年たち、五年、十年とたてば、今度は若い人々を指導する立場に立って仕事をするようになります。そのとき、後輩を指導するについての信念は、どういうところから生まれてくるのでしょうか。これも一つにはやはり、その会社の過去の歴史をよく知るということを通じて培われるものではないかと思います。
そのような意味で、会社に入ったら、まず会社の歴史、先輩の尊い体験というものを、いろいろなかたちにおいて学び、吸収していくこと、それがきわめて大切だと思うのです。
【出典】 PHPビジネス新書『人生心得帖/社員心得帖』(松下幸之助著)