小さな成功体験を見逃さず、ちゃんと指摘する~本多正識(漫才作家、吉本興業NSC講師)
2023年3月27日更新
吉本興業の芸人養成所であるNSCで、30年間以上にわたり講師を務め、1万人以上を指導してきた漫才作家の本多正識氏。芸人の卵たちに最もよくかける言葉は、意外にも「好きにしいや」だという。その理由とは?
本多正識 Masanori Honda
1958年、大阪府生まれ。オール阪神・巨人の漫才台本をはじめ、テレビ、ラジオ、新喜劇などの台本を数多く執筆。90年には吉本興業NSCの講師に就任。これまでに担当した生徒の数は1万人を超え、ナインティナイン、中川家、キングコング、かまいたちなどを指導した。現在は、小中高生が放課後の時間を利用してエンタメなどを楽しく学べる「よしもと放課後クラブ」の講師も務めている。
お笑いは正解がない世界
30年前、NSCの講師になって最初に担当した生徒たちの中にナインティナインの二人がいました。当時は岡村君がツッコミで、矢部君がボケ。授業で二人のネタを見るなり、「君らボケとツッコミが逆やで」と言ってしまったんです。
今ならそんな断定的な言い方は絶対しません。お笑いはこうやればいいという正解がない世界です。常に自分の頭で考え続けることが大切で、「本多先生がこう言ったから」と思考停止してほしくないんです。
だから、「セオリーはこうだよ」という話はしますが、「君らが面白いと思うなら、それをとことんやったらいい。好きにしいや」と言って、最後は自分たちで判断させます。
どんなネタもまずは受け入れる
生徒のネタの中には意味がわからないものもあります。そんなときも、「なんやそれ」などと頭ごなしに否定したりはしません。意味がわからないのは、自分の当たり前と彼らの当たり前が違うだけだからです。
それに気づかせてくれたのは野性爆弾でした。最初に彼らのネタを見たとき、わけがわからなかった(笑)。それで川島君(くっきー!)に「ごめん、さっぱりわからない。どういうつもりでやってるの?」と聞いてみたんです。そうしたら彼なりの理屈がちゃんとあった。何となくやっているわけじゃなかったんです。それからはどんなネタもまずは受け入れて、そのうえでアドバイスをするようになりました。
自分で判断させるのは、本人が「確かにそうだ」と自分で気づかなければ変わらないからでもあります。かまいたちの濱家君は、ツッコミの最後に必ず「おまえ」がつく癖がありました。ネタを見るたびに「耳障りだから取ったほうがええで」と助言していましたが、取れるまで10年かかった。変わるきっかけは、他のコンビの「おまえ」だらけのツッコミを見て、「ほんまに耳障りやわ」と本人が感じたことでした。
本人も気づいていないような小さな成功体験を見逃さない
指導者はつい自分の当たり前や基準を押しつけてしまいがちですよね。60点が65点になったときも、「なんで70点取れへんねん」と言ってしまう。そうではなく、「すごいな、5点も増えたやないか!」と認めてあげたほうが人は伸びていく。
お笑いでも、前回は10のギャグが全部スベっていたコンビが今回1つでもウケたら、「あそこは良かったな。使えるな」と褒める。すると2つ、3つと増えていくんです。本人も気づいていないような小さな成功体験を見逃さず、ちゃんと指摘してあげることも、指導者の重要な役割だと思います。
※月刊誌「THE21」2023年3月号掲載「私の人財育成論」より転載
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