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個人と組織が生き残るための最も確かな武器とは?

2020年4月 7日更新

個人と組織が生き残るための最も確かな武器とは?

企業をとりまく状況が刻々と変化し、先行き不透明な経営環境にあって、個人と組織が生き残っていくために最も確かな武器になるものは何でしょうか。 PHPゼミナール講師が解説します。

個人の「成長」を取り巻く環境変化

働くことを通じた成長について人々はどのように考えているだろうか。また、過去の仕事の轍を振り返り、仕事を通じた成長が実感できている人はどれほどいるだろうか。これら「成長志向」や「成長実感」を持ちながら働いている人は決して多くないかもしれない。そして、この傾向は、就職でなく、就社の意識が強い日本のような「メンバーシップ型雇用」においては特に顕著である。一方で海外に多い職務を明確にして働く「ジョブ型雇用」では、自らを成長させないとキャリアップも転職もできない。
今年、年始に発表された経団連の指針では、現在の日本の雇用制度では「企業の魅力を十分に示せず、意欲があり優秀な若年層や高度人材、海外人材の獲得が難しくなっている」との危機感が示されている。そして、指針は「ジョブ型雇用」が高度人材確保に「効果的手法」であるとの提起をしている。
確かに「ジョブ型雇用」とすることで企業側から見れば、教育コストをかけなくても、良い人材を、必要なタイミングで、必要な期間だけ採用し、また必要がなくなれば雇用契約を終了できる大きなメリットがある。
一方でそのような「ジョブ型雇用」になれば、組織は個人に対して強く自立を求めることになる。すなわち個人は自分で強みを磨かなければならなくなり、そのブランディングした自分の強みを発揮できる領域や機会が組織内になくなれば活躍する場面がなくなるということであり、そのリスクを引き受けることも自己責任だ、ということになる。

環境変化に打ち勝つための「セルフ・モチベーション」のスキル

先に述べた日本型雇用は、人口増加と高い成長率を前提に成り立っていた。バブル崩壊後、何度も限界を指摘されては生き延びてきたこうした日本型雇用だが、いまマクロ環境は、人口増から人口減へ、そしてアナログからデジタルへとパラダイムがシフトしており、求められる人材像も変わってしまっている。その中で個人が、そして組織が成長し続けていくために一番大切なことは何だろうか。それは自ら意欲を引き出す能力ではないだろうか。そこから希望が生まれ、自信が湧き、夢が実現する。
どの世界であっても、成功を手にするのはいつも前向きでエネルギーに溢れる人たちである。「仕事上の、さらには人生のより大きな目標を明らかにし、その達成を目指して自分自身を前向きにさせ、意欲ややる気を引き出す」モチベーションをマネジメントする、いわゆるセルフ・モチベーションのスキルを持つことが大切である。
そして、自分の意欲は、他人の意欲を引き出すことにも分かちがたく結びつく。リーダーシップとモチベーションは切っても切れない関係にあり、リーダーはモチベーターでなければならないともいえる。この変化の目まぐるしい現代にあって、このモチベーションのサイクルを回すことが、個人が、そして組織が生き残っていくための最も確かな武器となるだろう。

仕事(経験)を通して成長し続ける

旧来失われていたポータブルスキル(今自分ができる汎用スキル)を持つだけでは事足らず、ダグラス・ホール(米・心理学者)がいう「プロティアン・キャリア」のような自分のコアとしての「アイデンティティ(自分らしさ)」を持ちながらも、環境変化に合わせて自分も変化していける「アダプタビリティ(適応能力)」を併せ持つことが強く求められるであろう。
つまり、他者の意見や批判に『素直な心(※1)で耳を傾けて新しい考え方や視点を取り入れられること、相手に応じた対応ができる姿勢、加えて、自分らしさを大切にしながらも、与えられる仕事だけでなく、自らの『無限の可能性(※2)にも果敢にチャレンジしていくことができる柔軟性の装備が「肝」となる。

この「柔軟性」を磨き、発揮するために重要なのがD.コルブ(米・経営学者)の提唱する「経験学習モデル」でいうところの「省察(リフレクション)」という行為の習慣化である。すなわち、自分の過去の行為や体験を解釈して深い洞察を通して教訓や持論を導き出す。そして、可能性へのチャレンジや問題解決に向かう自分の姿をイメージして、過去の振り返り的「省察」と組み合わせる「適用」を行うことで成功・失敗の経験から学び成長することができる。そのためにも、私たちは仲間との仕事や、新しい仕事にも嬉々として取り組み、チャレンジの場数を増やして知恵として蓄積しておき、いつでも引き出せるように整理しておくことが重要である。

モチベーションに挑み「自分らしく」働く

最後に、従来のキャリアでは組織の中での地位や給与といった客観的で定量的な指標が到達すべき目標だったのに対し、今後はそれらに加えて、個人の中で感じられる仕事の充実感を成功指標と捉え、「自分は何をしたいのか」、「社会に対し何ができるのか」という自己への意味づけや仕事への意味づけが重要となってくる。前者のような金銭的報酬がいけないということではないが、そうした外発的動機だけでは自律性や自己決定感が失われることによってモチベーション(内発的動機)が下がるという「アンダーマイニング効果」が起こるリスクを踏まえておくことも必要であろう。

「VUCA」という言葉が象徴するように予測不能ともいえる激しい環境変化の下で、成長し続けるためには、常にアンテナを張り、新しいことを学んだり、身につけにつけたりして学び続けることが大切となる。畢竟、私たちは、自分のキャリアに対して『自主責任経営(※3)というオーナーシップの意識を持って、どうしたら環境に適応でき、自らを変革し、新しい価値を創造していけるのか、自分のアイデンティティ(自分らしさ)と照らして「何を学ぶか(学びたいか)」を決定し、職場の中でそれを「どう学んでいくか」を考えながら働くこと、そして、その「学び」「成長」を実際の仕事に活用し成果に繋いでいくことが求められる時代に生きているのである。


※1 パナソニックグループの創業者でありPHP研究所の創設者である松下幸之助は、経営者・責任者には、何にもとらわれず正しい価値判断ができる心が常に求められると説き、このとらわれのない心、物事を誤りなくありのままに見ることができる心を「素直な心」と呼んで、みずからも終生求め続けた。

※2 松下幸之助は、人間は磨けば光るダイヤモンドの原石のようなものである、と語っている。人を育て、生かすにあたっても、まずそういう人間の本質を認識し、それぞれの人が持っている優れた素質が生きるような配慮をし、その「無限の可能性」を信頼する、ということが基本で、そういう認識がなければ、いくらよい人材がいても、その人を生かすことはむずかしい、という考えを説いた。

※3 「自主責任経営」とは、"企業の経営者、責任者はもとより、社員の一人ひとりが自主的にそれぞれの責任を自覚して、意欲的に仕事に取り組む経営"のことであり、松下幸之助はこの考え方を非常に重視していた。




西谷晴信(にしたに・はるのぶ)
PHPゼミナール講師。大学卒業後、外資系製薬企業でMR・営業管理職としての経験を経て、営業分野を中心として人財開発部の仕事に長く従事。経営戦略部門の内部統制業務も兼ねながら、パフォーマンス・コンサルタントとして、ミドルマネジャーを対象に、主に「組織マネジメント」や「チームビルディング」をテーマとしたコンサルティング業務を担当。またPHP認定上級ビジネスコーチ、キャリアコンサルタントとしての経験や洞察を生かしながら、コーチングやキャリアデザインのワークショップを主宰。
2013年 大学院で心理学修士課程を修了後、人材育成学会に所属し、ミドルマネジメントをテーマとした研究活動も行なっている。

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