改正公益通報者保護法施行、内部通報制度に関する研修はどうすればよい?
2022年5月10日更新
内部通報制度は公益通報者保護法に基づき、従業員301人以上の会社などに整備が義務付けられる制度です。2022年6月に施行されることが決まっています。本記事では内部通報制度の担当者に必要な研修について、制度の概要とともにお伝えします。
内部通報(公益通報)制度に研修は必要?
内部通報制度とは2020年6月、公益通報者保護法の改正により設けられた制度です。2022年6月以降、従業員数300人を超える会社に設置が義務付けられています。もちろん、ただ制度を設けるだけでなく、従業員への周知や公益通報対応業務従事者(窓口を担当する従事者)の教育が求められています。
ここでは、内部通報制度の概要や義務化される目的、研修を行う必要性などを紹介します。
そもそも内部通報制度とは
内部通報制度は、公益通報者保護法により設けられた制度です。公益通報者保護法は2006年に施行された法律で、国民生活の安全・安心を損なう企業不祥事を通報する行為について、解雇等の不利益な取り扱いから保護する目的で制定されました。
保護の対象になる通報の内容は、「国民の生命、身体、財産その他の利益の保護にかかわる法律」に違反する犯罪行為または最終的に刑罰につながる行為に対するもので、違反の対象となる460ほどの法律が同法で規定されています。
法の改正により内部通報制度の設置が義務付けられたのは、不正に関する報告について上司を通じた通常の報告ルートとは異なる窓口を設けることで、会社の不正行為の発見を容易にするためです。
従業員数300人を超える会社は早めに法律の内容を理解し、制度の創設に向けて動かなければなりません。
不正の防止と早期発見が目的
内部通報制度の目的は、社内の不正防止もしくは早期発見にあります。制度が整備されていれば不正が起こることの抑止機能が働き、かりに不正があった場合にも早期に発見して対処する自浄作用も期待できます。それにより、コンプライアンス経営を実現することが可能となるのです。
コンプライアンスの行き届いた会社であることは、消費者や取引先をはじめとするステークホルダーからの信頼獲得につながります。企業の社会的評価を高め、企業価値を上げることができるでしょう。
消費者庁がガイドラインを公表
内部通報制度に関しては、消費者庁がガイドラインを公表しており、整備と運用に関して細かい内容を掲載しています。
ガイドラインは公益通報者保護法を踏まえ、企業が自主的に取り組むべきことについて具体化しており、不正の早期発見・未然防止につながる通報を適切に取り扱うための指針を示しています。
なお、ガイドラインはあくまで参考であり、各企業でより一層充実した仕組みを整備・運用すること、会社の規模や業種・業態等の実情に応じた取り組みをすることを妨げるものではありません。
参考:消費者庁「内部通報制度の整備・運用に関する民間事業者向けガイドライン」
認証制度もある
内部通報制度には、2018年から認証制度が設けられています。内部通報制度の実効性を図るもので、適切な整備・運用がされているかどうかが審査される制度です。認証を取得すれば企業ブランドの向上が期待できるとされ、発足当初からいくつかの企業が認証を得ています。
この認証制度は2022年6月の法改正に伴う見直しが検討されており、2022年2月時点でいったん休止されることになりました。現在は、改正法の施行状況や企業の要望等も踏まえ、新たな制度の検討がすすめられています。
制度の周知と公益通報対応業務従事者の研修が必須
内部通報制度を整備するにあたり、実効性を上げるためには制度の周知や教育が欠かせません。教育は経営トップや担当者だけでなく、全社員が制度の趣旨を理解し、活用できるようになるようにすることが必要です。
そのためには、効果的な研修を実施しなければなりません。具体的には、社員向けの研修と窓口担当者のスキルを高める研修が求められるでしょう。
内部通報制度を導入するメリット
ここで、内部通報制度を導入するメリットについて、あらためて確認しておきましょう。具体的には、以下の2点です。
会社が受けるダメージを低減する
内部通報制度が整っていれば、不正を未然に防ぐ効果が期待できます。制度を従業員が認識していることで監視機能が働き、不正行為や法令違反を行えば自分が通報されるという緊張感が生まれるからです。
すでに不正が行われている場合でも、内部通報制度が機能していれば、不正を早期に発見することができます。データの改ざんなどが長年見過ごされていると、取引先や顧客に対する被害は大きなものとなり、横領が行われている場合は会社の損害が甚大なものになるでしょう。早期発見により、これらの被害が大きくなることを防ぐことが可能です。
また、内部通報制度がなければ、行政機関や報道機関など外部機関に直接通報される可能性があります。メディアで大々的に報道されるなどすれば、社会的ダメージが大きくなるでしょう。
内部通報制度が整備されていれば、外部機関に通報されることを防ぐことができ、ダメージを低減することが可能です。
社会的評価が高まる
内部通報制度が整っている会社は、自浄作用のある会社として社会的評価が高まります。取引先を選ぶ際には、不祥事を起こさないためにどのような取り組みをしているのかが重要な基準となり、そのひとつに内部通報制度の整備・運用を考慮している会社もあるからです。
消費者庁の調査によると、「実効性の高い内部通報制度を整備している企業と取引をしたい」と考えている企業が89%を占めています。内部通報制度の整備は、信頼できる会社かどうかの指針になるでしょう。
また、内部通報制度を整備している企業の商品・サービスを利用したいと考えている人は86%、そのような企業に就職・転職したいと考えている人は82%という数字が出ています。
制度の整備・運用には人的・物的コストがかかりますが、社会的信頼を得て売り上げを高め、取引先を増やすこと、優秀な人材の獲得につながることを考えれば、メリットは十分に高いといえるでしょう。
参考:消費者庁「平成28年度民間事業者における内部通報制度の実態調査報告書」
内部通報制度導入で実施する研修の目的と内容
内部通報制度を効果的に運用するためには、内部通報制度の仕組みや内容を周知する研修が欠かせません。研修により社員の理解を高めることで、不正を未然に防止することができます。また、通報窓口の担当者が適切に対応できるよう、スキルを高める研修も必要です。
ここでは、内部通報制度で行うべき2つの研修を紹介します。
社員の理解を高め不祥事を未然に防止する
内部通報制度は、不正を発見した場合の通報先として、上司を通す通常のルートとは異なる窓口を設置するものです。
その仕組みや内容が社員に十分に認識されていないと、どのように利用して良いかわからず、通報したくてもできないことになります。
また、制度内容は理解していても、個人情報は保護されるのか、通報者への不利益取扱い禁止は確保されているかがわからないと、通報することを躊躇するでしょう。このような懸念をなくすためにも、法の趣旨の十分な周知と理解の浸透が不可欠です。
公益通報対応業務従事者(内部通報窓口担当者)のスキルを高める
内部通報制度の実効性を高めるには、窓口従事者のスキルアップが必要です。窓口従事者の能力は、受付・調査・是正の3つの場面で問われます。受付では相談と通報の違いを理解し、コミュニケーションや質問、傾聴のスキルについてロールプレイも交えながら学びます。
さらに、是正処理までの各段階における適切な対応方法や注意事項を理解することで、内部通報制度の実効性を確保することが可能です。
内部通報制度導入での具体的な研修内容
内部通報制度の研修は一般的に、制度の概要やルールの確認などのレクチャーとロールプレイ、ディスカッションといったプログラムが組まれます。
社員向けの研修は、公益通報者保護法の改正を踏まえた内部通報制度の概要や通報事例についてレクチャーし、グループディスカッションで理解を深めるといった内容です。
窓口従事者向けの研修では相談、受付から調査、是正に至るプロセスなど内部通報対応業務の概要、および窓口担当者に求められるスキルをレクチャーします。
さらに、内部通報シナリオに基づくロールプレイが行われるとともに、ロールプレイに関するディスカッションや講評、質疑応答などでスキルアップを図るといった流れです。
内部通報制度を導入する際の注意点
内部通報制度の効果を上げるためには、注意したい点があります。まず、通報した人の個人情報など、秘密が保持されることを徹底しなければなりません。また、通報される不正は経営層に不都合な事実である場合もあり、通報窓口が経営層からも完全に独立していることが重要です。
これらの注意点について、詳しく見ていきましょう。
秘密保持を徹底する
通報は通報した本人にとって身近な問題を告発するものであり、その内容が職場に漏れた場合には重大な不利益を受けることになります。職場に居づらくなり、退職に追い込まれる可能性もあるでしょう。そのため、秘密が保持されるルールを徹底させることが必要です。
具体的には以下のようなルールを設け、厳格に運用することが求められます。
● 情報共有が許される範囲を必要最小限にすること
● 通報者の情報を開示する際には通報者から明示の同意を得ること
● 通報者が誰か探索することを禁止すること
秘密保持の体制が万全ではない場合、従業員は「もし通報したら、解雇されるのではないか」「噂になって会社に居づらくなるのではないか」と考え、通報を躊躇する可能性もあります。
そのようなことを避けるため、安心して通報できる制度であることを社員に周知することが大切です。
また、社内に窓口を設置する場合、その環境にも注意しなければなりません。窓口を訪れたことが他の従業員にわかる状態であれば、秘密を十分に保持することができない可能性があるでしょう。
社内だけで万全な体制にできない懸念がある場合、社外に窓口を設置するのもひとつの方法です。
窓口担当が同じ社員であれば何らかの人間関係があり、告発することに抵抗を感じる場合もあるでしょう。法律事務所や民間の専門機関など会社から独立した社外窓口を設けることで、安心して通報することができます。
コストの問題はありますが、社内と社外に窓口を置くことで、より万全な制度を構築することができるでしょう。
窓口は経営層から独立させる
通報の内容によっては、経営層に不都合な事実が明らかになる場合もあります。窓口が経営層の影響下にあると公正な処理が行われない可能性もあるため、完全に独立させなければなりません。
また、制度を実効化させるため、内部通報者に対する不利益な取り扱いを禁止する内部規定を設けることも必要です。
不利益な取り扱いとは、主に以下のような内容です。
● 解雇や雇用契約の更新を拒否するなど、従業員たる地位そのものに関する不利益な取り扱い
● 降格や不利益な異動など、人事上の不利益な取り扱い
● 減給など、待遇面での不利益な取り扱い
● 嫌がらせなど、精神面での不利益な取り扱い
通報者に対してこれらの不利益な取り扱いをすることは禁じられていることを明確にしておけば、安心して通報することができます。
まとめ
内部通報制度は会社の不正行為の発見を容易にするため、従業員数300人を超える会社に設置が義務付けられる制度です。内部通報制度の設置により不正の早期発見が可能になり、コンプライアンス意識の高い会社として社会的評価を高めることにもつながります。
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