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カスタマーハラスメントとは? 企業が行うべき対策や裁判例を解説

2022年8月 5日更新

カスタマーハラスメントとは? 企業が行うべき対策や裁判例を解説

カスタマーハラスメントとは、顧客や利用者などが、優位な立場を利用して、企業の従業員に対して過剰な要求をしたり、商品やサービスに不当な言いがかりをつけたりする迷惑行為のことです。ハラスメントを受けた従業員の離職など、企業に大きな被害をもたらします。カスタマーハラスメントの概要や必要な対策、裁判例などを紹介します。

INDEX

カスタマーハラスメントとは

顧客からのクレームは、企業の業務改善や商品開発、サービス向上につながるものですから、それ自体が問題とは言えません。一方、カスタマーハラスメントに分類される不当な言いがかりや過剰な要求は、従業員や企業に大きな被害をもたらすものです。
カスタマーハラスメントが増えている背景には、ストレス社会や企業によるサービスの差などいくつかの要因があるといわれます。
ここでは、カスタマーハラスメントの内容やクレームとの違い、近年増加している背景を紹介します。

クレームとの違い

クレームは、顧客が商品やサービス、従業員の接客態度に対して何らかの不満を感じ、その改善を求めるものです。企業としては顧客の声を真摯に受け止め、対応に取り組む必要があります。企業にとってクレームや苦情は、商品やサービスの改善のきっかけになることもあります。

一方、カスタマーハラスメントは、「改善してほしい」という要望を逸脱する理不尽な要求や嫌がらせを指します。
ただし、クレームとカスタマーハラスメントとの明確な区別が難しい場合もあります。各社で判断基準を設け、対応方法やルール・手順を策定しておくことが望ましいでしょう。

カスタマーハラスメントが増えている背景

カスタマーハラスメントは近年、増加傾向にあります。企業が裁判を起こし、顧客に有罪判決が言い渡されるケースも少なくありません。カスタマーハラスメントが増えている背景には、多くの人がストレスを抱えているという社会的な状況があります。家庭や職場で抱えたストレスのはけ口として、顧客に対して強く出られない立場にある企業の従業員を攻撃するケースが増えているのです。

また、企業によるサービスの差や過剰なサービスなども、カスタマーハラスメントが増えている理由の一つにあげられるでしょう。サービスの内容は企業ごとに異なり、別の企業で受けたサービスを基準にした顧客が、同じ対応を受けようと理不尽な要求をしてくる場合があります。

厚生労働省の指針

カスタマーハラスメントが増加する状況を受け、国も対応に乗り出しています。
厚生労働省では関係省庁と連携し、顧客等からの著しい迷惑行為の防止対策の一環となる「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」やリーフレット、周知・啓発ポスターを作成し、企業に対策を講じるよう呼び掛けています。

マニュアルやリーフレットはカスタマーハラスメントを想定した事前準備や実際に起こった際の対応など、対策の基本的な内容が記載されています。
厚生労働省のホームページからダウンロードできます。

参考:厚生労働省「『カスタマーハラスメント対策企業マニュアル』等を作成しました!」

カスタマーハラスメントの内容

カスタマーハラスメントとは、厚生労働省のマニュアルでは「顧客等からのクレーム・言動のうち、当該クレーム・言動の要求の内容の妥当性に照らして、当該要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当なものであって、当該手段・態様により、労働者の就業環境が害されるもの」と説明されています。

マニュアルには、「顧客等の要求の内容が妥当性を欠く場合」の例として以下のようなケースがあげられています。

  • 企業が提供する商品・サービスには瑕疵・過失が認められない場合
  • 要求の内容が、企業の提供する商品・サービスの内容とは関係がない場合

また、「要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当な言動」の例は、次のような内容です。

(要求内容の妥当性にかかわらず不相当とされる可能性が高いもの)

  • 身体的な攻撃(暴行、傷害)
  • 精神的な攻撃(脅迫、中傷、名誉棄損、侮辱、暴言)
  • 威圧的な言動
  • 土下座の要求
  • 継続的な(繰り返される)・執拗な(しつこい)言動
  • 拘束的な行動(不退去、居座り、監禁)
  • 差別的な言動
  • 性的な言動
  • 従業員個人への攻撃、要求
(要求内容の妥当性に照らして不相当とされる場合があるもの)
  • 商品交換の要求
  • 金銭補償の要求
  • 謝罪の要求(土下座を除く)

例えば、大声で執拗にオペレーターを責めたり、店内で大声をあげて暴言を繰り返したりなど、その行為はさまざまです。頻繁に来店してその度に迷惑行為をする、何度も電話をかける、長時間の拘束や居座りといった、業務に支障を与える嫌がらせもあります。

書籍『現場責任者のための「悪質クレーム」対応実務ハンドブック~カスタマーハラスメント対策の手引き~』(発行:PHP研究所)では、悪質クレーム対応の先進企業・組織から持ち寄った事例等を分析し、カスタマーハラスメントの内容を14類型に区分。それぞれの判断基準や対応方法などを平準化し、店舗やお客様対応部門などの現場責任者が対応方針の作成や従業員への教育に利用できる手引書としています。

『「悪質クレーム」対応実務ハンドブック』について詳しくはコチラ

カスタマーハラスメントによる被害

カスタマーハラスメントによる被害

カスタマーハラスメントにより、企業が受ける被害は小さくありません。企業イメージが悪化したり、カスタマーハラスメントを受けた従業員が離職したりするだけでなく、被害を受けた従業員から安全配慮義務違反による損害賠償請求をされる可能性もあります。

カスタマーハラスメントにより、企業がどのような被害を受けるのかみていきましょう。

企業イメージが悪化する

従来のカスタマーハラスメントは暴言や長時間の拘束などが主流でしたが、インターネットが普及した近年は、SNSなどへの書き込みで企業にダメージを与えるハラスメントも増えています。

簡単に拡散されるSNSでの従業員の個人情報の公開や、会社・従業員の信用を毀損するような書き込み等が挙げられます。「ネットに書き込んでやる」など、脅迫につながる言動を行うこともあります。
これらの悪質な行為により、企業のイメージダウンやそれに伴う業績悪化につながります。

従業員が離職する

カスタマーハラスメントの被害者となった従業員は、精神的な負担が大きいことから、従来のパフォーマンスが発揮できなくなったり、心身の健康に悪影響が出たり、最悪の場合は休職や離職に追い込まれたりすることがあります。

厚生労働省の労働者調査では、顧客等からの著しい迷惑行為を受けた従業員は「怒りや不満、不安などを感じた」という回答が67.6%、それに次いで「仕事に対する意欲が減退した」という回答が46.2%を占めています。

会社側がカスタマーハラスメントにしっかり対処しない、従業員のケアをしないという状態では、従業員が定着しなくなる可能性が高いでしょう。

参考:厚生労働省「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」

安全配慮義務違反になる場合も

企業には、仕事上の怪我や病気などから従業員の安全を守る安全配慮義務があります。カスタマーハラスメントについても、従業員が被害を受けないよう対策を講じる必要があり、実際に被害を受けた場合には何らかの改善措置やメンタルケアを行わなければなりません。

適切な対処をしない場合、被害を受けた従業員から安全配慮義務違反に問われる可能性もあります。従業員からの損害賠償請求などがメディアで報じられれば、企業のダメージは大きいでしょう。大切な従業員を守るためにも、対策を事前に講じておくことが重要です。

カスタマーハラスメントへの対策

顧客対応は企業ごとに異なるため、カスタマーハラスメントへの対策も独自の基本方針を定める必要があります。クレームとカスタマーハラスメントの判断基準を明確にし、その対応方法のマニュアルを作り、従業員に周知しましょう。マニュアルに加えて研修の実施も有効です。
被害を受けた従業員がすぐに相談できる窓口の設置や、メンタルケアも欠かせません。
ここでは、カスタマーハラスメントへの対策について紹介します。

対応方法のマニュアル作成

まずは、カスタマーハラスメントの判断基準を設定しましょう。対応のスタンスは企業ごとに異なるので、いざという時に従業員が迷わないよう、判断基準を設けておくと良いでしょう。
また、カスタマーハラスメントは初期対応が重要であり、適切な対応の手順を決めなければなりません。業務内容や業務形態に合わせ、対応方法や報告、情報共有の方法など、さまざまな場面を想定したマニュアルを作り、全従業員に周知してください。

マニュアル作成には、悪質クレーム対応の先進企業の事例を参考にすることが有効です。
書籍『現場責任者のための「悪質クレーム」対応実務ハンドブック~カスタマーハラスメント対策の手引き~』(発行:PHP研究所)は、公益社団法人消費者関連専門家会議(ACAP)のプロジェクトメンバー20人が共同制作という形で携わっています。プロジェクトメンバーは、様々な現場の対応経験を持つ企業、組織のお客様対応部門のプロフェッショナルばかりです。
具体的な対応方法を詳説しているため、自社に照らし合わせたマニュアル作成のベースとして活用できます。

『「悪質クレーム」対応実務ハンドブック』について詳しくはコチラ

従業員の研修

従業員の研修も大切です。マニュアルを作って周知しただけでは、いざカスタマーハラスメントの被害を受けたときに正しく対応できない可能性があります。
頭では理解していても、実際に遭遇して行動に移せない場合もあります。冷静に対処するためにも、自社の現場を想定したロールプレイングを取り入れた研修が有効です。

相談窓口の設置

カスタマーハラスメントの被害を受けた従業員が、すぐに相談できる体制づくりも欠かせません。相談窓口の設置を検討しましょう。

上司も、相談を受けたらいつでも適切なアドバイスができるように準備する必要があります。緊急の相談にも対応できるよう、対応手順を整理し、場合によっては産業医などの専門家につなげることも必要です。

社外の相談窓口

カスタマーハラスメントが社内だけで解決できない場合、警察や弁護士など社外の機関に相談する体制が必要です。緊急を要する不法行為は110番に電話しますが、緊急性はないものの、警察に相談をしたい場合は警察相談専用電話 「#9110」で対応してくれます。

いつでも相談できる弁護士を決めておくのもよいでしょう。警察が対応できないような案件でも、個別に相談することができます。

従業員のメンタルケア

従業員のメンタルケアも、企業が果たすべき安全配慮義務の一つです。カスタマーハラスメントの被害を受けた従業員は大きなストレスを抱えることが多いため、従業員がカウンセリングを受ける機会を設けるなど、あらかじめ対策を講じておく必要があります。

日頃から、休息や休暇を与えるなど、従業員が少しでもリラックスして仕事に取り組めるように仕組みを整えておきましょう。

カスタマーハラスメントへのNG対応

カスタマーハラスメントが起きたときに、やってはいけないNG対応があります。対応が遅かったり、相手の話を遮ったりすると、状況を悪化させてしまう可能性があります。ハラスメントをする顧客を刺激せず、適切な対応をしなければなりません。

ここでは、カスタマーハラスメントの対応で避けるべき行動を2つ紹介します。

対応が遅い

カスタマーハラスメントの対応が遅れると迷惑行為が悪化する可能性があるため、迅速に対応することが必要です。
例えば、コールセンターなどで電話を保留にしたまま長時間待たせたり、担当をたらい回しにしたりすることが挙げられます。さらに被害を大きくしてしまうでしょう。

カスタマーハラスメントも基本的に会社の商品・サービスに何らかの問題があったという視点を持ち、素早く対応することが大切です。

話を遮る

相手の話を遮るのも、避けるべき対応です。暴言を吐かれても感情的にならず、冷静に対応しなければなりません。

話を遮られた相手は、さらに逆上してしまう可能性があります。当然ながら、同じような暴言で対応してしまうことも絶対にNGです。相手からどれだけひどい暴言を浴びせられたとしても、こちら側の暴言を正当化することはできない上に、さらにカスタマーハラスメントを行う口実を与えてしまいます。

書籍『現場責任者のための「悪質クレーム」対応実務ハンドブック~カスタマーハラスメント対策の手引き~』(発行:PHP研究所)は、小売り・店舗販売、外食、金融、メーカー、サービスなどの業種別に計50のケーススタディを収録しています。
それぞれのケーススタディには、実際に悪質クレームを受けた場面を想定したお客様と従業員、およびその上長の「対応話法」を掲載しています。また、具体的な対応術も3つのポイントにコンパクトにまとめていますので、具体的かつ効果的な対応を知ることができます。

『「悪質クレーム」対応実務ハンドブック』について詳しくはコチラ

カスタマーハラスメントの裁判例

カスタマーハラスメントが犯罪になり、顧客が逮捕された事例もあります。いくつか紹介しましょう。

衣料品店で商品に問題があるというクレームをつけて店員に土下座をさせ、その様子を撮影してSNS上に公開した事案があります。土下座や謝罪を強要する行為は、刑法223条1項の強要罪にあたるとして、土下座を強要した顧客は逮捕されました。
その後も、コンビニなどで店員に土下座を要求し、逮捕される事例が相次いでいます。

ほかにも、飲食店で店員の態度に立腹した客が、店員に退去を求められた後も店に居座り続け、不退去罪で逮捕された事例があります。

裁判例も少なくありません。保険会社の担当者と保険金請求についての交渉をしていた顧客が、複数回、長時間の電話をかけてきたという事案では、業務妨害行為禁止の仮処分が認められています。
裁判では、「行為が権利行使としての相当性を超え、法人の資産の本来予定された利用を著しく害し、従業員の受忍限度を超えて業務に及ぼす支障の程度が著しい場合には、業務妨害行為にあたる」とされました。
企業の業務に対する悪質な妨害に対し、「業務遂行権」に基づく差止請求ができることが明らかにされた事例です。

まとめ

カスタマーハラスメントは従業員の離職や企業イメージの悪化など、さまざまな被害をもたらします。カスタマーハラスメントは近年増加の傾向にあり、被害を防止するためにはマニュアルの作成や相談窓口の設置などの対策が必要です。

対応にあたる従業員のメンタルケアもしっかり行い、安全配慮義務を果たさなければなりません。理不尽なカスタマーハラスメントに屈しないために、万全の体制を整えましょう。

『「悪質クレーム」対応実務ハンドブック』について詳しくはコチラ

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