階層別教育のご提案

公開セミナー・講師派遣

通信教育・オンライン

DVD・テキスト他

中原淳氏が語る「なぜ『話し合いの作法』が必要なのか」

2022年8月31日更新

中原淳氏が語る「なぜ『話し合いの作法』が必要なのか」

「話し合い」が、現代社会において極めて重大な意義を持っているのにもかかわらず、その意義を認めない人や、それに絶望する人が増えていると中原淳氏(立教大学経営学部教授)は語ります。本稿では中原氏の著書『話し合いの作法』(PHPビジネス新書)の一部を抜粋編集してご紹介します。

INDEX

話し合いは面倒くさい?

私は、過去20年にわたり「企業の人材開発」や「大人の学び」について研究してきました。人材マネジメントの観点から、企業のOJTを立て直すお手伝いをしたり、管理職やリーダー育成の支援を行ったり、組織の内部を調査し、コンサルティングを行ったり、たくさんの研修やワークショップに登壇したりしてきました。そうした実践の中から紡ぎ出される知恵を形式化したり、言葉にして、論文や書籍といったかたちで、社会に発信してきたつもりです。

私は、私自身の研究を「科学の力を活用して社会課題にアタックし、その知見を社会にフィードバックすること(科学や論理の力を使って現状を見える化すること)」だと考えています。科学や論理の力を使って見える化した「現実」に向き合い、人々が未来について対話するヒントやきっかけが生まれれば、私としては望外の喜びです。

近年では、社会貢献活動の一環として、小学校・中学校・高校・大学などの教育機関での学びや、そこに生きる先生方の働き方や学びについても、国の機関などで意見を述べたりしています。企業の研究をある程度突き詰めていくと、どうしても、企業の「前工程」にある「教育課程」が気になるものです。あくまで、社会貢献の域を出ないものではありますが、私のような「企業の研究者」が教育機関の課題解決にお役に立てるところもあるのかな、と思い、人材マネジメントの観点から助言させていただいております。

加えて、私は「いっかいの教師」でもあります。東京大学を皮切りに大学院教育に携わり、これまで数十名の大学院修了生を研究室から輩出してきました。
数年前からは、立教大学に研究室のスタッフとともに移籍し、そこで教鞭をとり、毎年、多くの学生・大学院生を社会に送り出しています。
企業活動の最前線に側面から関わりつつ、教育現場から学生を社会に送り出す。
これらの経験を通じて、私が今、「多くの人々にこれを伝えられたら、人々の間に、よりよい暮らしや学び方、働き方が生まれるのに」と強く思っていることがあります。それが、本書のテーマである「話し合いの作法」です。

私が危惧しているのは「話し合い」が、この現代社会において極めて重大な意義を持っているのにもかかわらず、その意義を認めない人や、それに絶望する人が増えている実感を抱いているからです。
「話し合いは、面倒くさい」「話し合っても、何も決まらない」「話し合いは、時間の無駄だ」と考える人が増え、社会から「話し合い」が失われているように感じるのです。もちろん、そもそも日本には「話し合い」に苦手意識を感じている人々が多いことも、あるでしょう。

読者の皆さんも、「話し合い」について、どんなイメージを持っているか、少し考えてみてください。
大好き、楽しい、面白い、いつまでもやりたい......こんなふうに思う人は、おそらく、あまり多くはないのではないでしょうか。
話し合いは、面倒くさい、嫌なもの、なるべく避けたい、他人事......そんなネガティブなイメージを持っている人のほうが多いのではないでしょうか。

しかし、それは皆さん1人ひとりのせいではありません。
実は、「話し合いの作法」について、多くの人々が、しっかりと学んでいない。実践経験を積めていない。そのことに「問題の本質」があると私は考えています。

あなたは「話し合い」を学んだことはありますか?

ここで本書における「話し合い」を定義します。本書で「話し合い」とは、人々が、「ともに生きる他者と対話を行いながら、自分たちの未来を自分たちで決めていく(自己決定・決断していく)コミュニケーション」と定義します。
その上で、話し合いに関連する要素をさらに子細に分解していくと、話し合いとは次の4つの要素を満たすコミュニケーションといえそうです。

  • 話し合いとは、人々が身近な他者とともに働いたり、暮らしていく、学んだり、暮らしていくために
  • 自分が抱く意見を、お互いに伝え合い(=対話)
  • 「他社との意見の別れ道」を探り合い、メリット・デメリットを考え、
  • 自分たちで納得感のある決断を行い、ともに前に進むこと(=決断)

人は、社会においては、ひとりだけでは生きていけません。
ここで示した話し合いのプロセスによって、人々はこの世に存在し、他の人々と協力し合いながら、ともに生きることができるようになるのです。

しかし、自分たちの身の回りを見渡してみると、現実は厳しいものです。
日々の会議、新人研修、管理職研修などでのコミュニケーション、あるいは学校の授業中、ホームルーム、委員会やクラブ活動でのコミュニケーションにおいて、話し合いは成立していますか?

そもそも、話し合いの作法について学んだことのある人はいるでしょうか。
もちろん、最近の学校では「アクティブ・ラーニング」や「主体的・対話的で深い学び」といったインタラクティブな授業が注目されています。教育機関で学んだり、働いたりしている限り、「話し合い」についてまったく触れないことや接しないことは少なくなっていると思います。

読者の現場の先生方の中には、「いや、そんなものは、すでに既存の教育課程で教えているよ」とおっしゃる方もいらっしゃるかもしれません。
それは、教育を受けてきた側の私たちも同様です。「そんなものは誰でもできる」と言う方もいるかもしれません。「子どもの頃、学級会とかでよくやったよ」「中学校の委員会で話し合いをしたよ」「高校のときにクラブ活動でよく話し合ったよ」と言う方もいるかもしれません。

しかし、私たちの身近で起こっている「話し合い」は、本当に「成立」しているでしょうか? 誰もが意見を持ち寄り、それらが受容され、納得感をもって、物事が決められているでしょうか?
そう問われると、おそらく、急に自信がなくなってしまうのではないでしょうか。
さらに、あなたの周囲では本当に「話し合い」が「しっかりと教えられて」かつ「しっかりと学ばれている」といえるでしょうか? もし、それが「できている」のであれば、「学ばれたもの」は、「しっかりと実践できている」でしょうか?

私は、20年にわたり企業の人材開発の現場で受講生と接して、大学でもたくさんの学生たちと関わってきました。そんな私個人の経験に関する限り、残念ながら、先ほどの一連の問いに対する答えは「否」です。
むしろ、私たちは「話し合い」が「ここかしこ」で求められる社会を生きていながら、それについて「しっかりと教えられた経験」はなく、「しっかりと学んだ経験」もない、というのが私の教師としての「肌感覚」に合うところです。むしろ、「話し合いとして成立していない話し合い」を多数経験してきて、「話し合い」が嫌だったり、苦手意識を持つ方々に私は数多く会ってきました。

「話し合い」について、「しっかりと教えられておらず」「しっかりと学んでいない」とするならば、「話し合い」を「しっかりと実践すること」は期待できません。

企業の話し合いは機能不全に陥っている

実際、企業や教育の現場では、どのような「話し合い」が行われているのか。私が見てきた限り、実にさまざまな問題が起きています。
まず企業では、来期の計画、新しいプロジェクトの進め方、職場で起こった問題の解決など、職場やチームでさまざまな話し合いがもたれています。しかし、私が様子をのぞいてみると、話し合いが「機能不全」に陥っていることが少なくありません。
例えば、このような「残念な話し合い」が頻発しています。

  • リーダーが権力を用いて結論に誘導して、自由な意見交換を妨げる
  • 参加メンバーが人の話を聞かず、自分の言いたいことをどんどんかぶせて発言する
  • 一応ファシリテーターはいるものの、話題がグダグダで何も決まらない
  • リモートで会議はしているものの、誰からも反応がない

さらに、話し合いの末、アクションプランは決まったものの、メンバーが「俺は知らない」という態度を貫き通し、「誰も実行しないアクションプラン」も珍しくありません。
このような「残念な話し合い」の様子について、企業で働いている人なら、誰しも心当たりがあるのではないでしょうか。 

私は、管理職研修やリーダー研修で多くのリーダーと接しますが、職場で話し合って物事を決めることに苦手意識を持つ人は少なくありません。
「恥を忍んで言いますが、部下と話し合うためには、いったい何からはじめればいいのでしょうか?」という質問を受けたことも十指に余るほどあります。
また、「管理職である私が答えを知っている」「メンバーは管理職の言う通りに動けばいい」という気持ちを引きずり、メンバーから多様な意見を引き出せないリーダーや管理職は、実に多いのです。

このような負の連鎖をこれ以上生み出さないためにも、私たちは今こそ、大人も含めて、話し合いのスキルをインストールするべきだと私は思います。それこそが、本書を執筆しようと思った私の本意です。

中原淳監修DVD教材「経験を成長につなげる1on1」

学生時代までさかのぼっても、誰も話し合いを学んでいない

ビジネスの場においても、教育現場においても、「話し合い」に対して、皆が苦手意識を持ち、よい「話し合い」が生まれていない。その最大の理由は、ひとえに「話し合いの作法」が、「しっかりと教えられていないから」だと思います。しっかりと教えられていないものは、しっかりと学び取ることもできません。

一方で、皮肉なことに、社会における教育機関を含め、「話し合い」の機会が豊富に存在しています。委員会、学級会、クラブ活動、部活など、さまざまな局面で話し合いの機会があります。話し合いは、その作法が「教えられていない」にもかかわらず、「話し合いの実践機会」だけが豊富に存在するのです。

かくして、話し合いについて、「教えられ、学ばれていない」にもかかわらず「実践しなくてはならない」という「ねじれの状況」が出現します。その論理的帰結は「話し合い自体の質の低下」と、そこから生まれる「負の学習」です。「話し合ったって、どうせ時間の無駄」「話し合ったって、しょうがない」といったあきらめや無気力は、かくして「学び取られる(学習される)」のです。

この問題に関連して、戦後を代表する教育者の1人、大村はまさんは、こんな言葉を残しています。

「話し合いは、悪い癖がついてしまいますと、まず直すことは不可能です。話し合いに対する興味を失い、その重要性を軽蔑するようになってしまいます。話し合いなんて時間つぶしでつまらない。みんな聞いてもきいても黙っていて、何も言わない人がいるとか、愉しく話せないとか、話し合っても、結局は、自分で考えたのと同じだ。話し合いがなくても、結局自分自分でやればいいんだ、とそういうふうになってしまいます。

※苅屋夏子(2012)『大村はま 優劣のかなたに 遺された60のことば』(筑摩書房)

悪い癖をつけてしまってはダメなのです。話し合いの効用を高めるためにも、今こそ、話し合いの作法についてしっかりと教え、学び取る機会をつくらなければなりません。

今こそ、「話し合いの作法」をインストールせよ

企業も学校も、話し合いの作法やスキルをインストールできる場所がない。これではいつまで経っても良質な話し合いができるようになりません。特に話し合いの作法は、いわばOS(Operating System : パソコンの基本ソフトウェア)のようなものです。OSがなければ、コンピュータがどんなに優秀な性能を持っていても、機能すらしません。

そこで私は、すべての人が「話し合いの作法」というOSをインストールできる本が必要だと感じ、本書を執筆するに至ったわけです。
どのように「話し合いの作法」を伝えればいいのか。執筆にあたり、私は既存の関連書籍をチェックしていきました。すると、興味深いことに気がつきました。それは「話し合いがなんたるか」を「命題」のかたちだけで伝えようとしている点です。

例をあげるとすれば、次のような形式です。

 ・話し合い(対話)とはXである(肯定の命題)
 ・話し合い(対話)とはYではない(否定の命題)

しかし、どんなにこの種の命題を重ねようとも、対話が何たるかは、なかなか伝わりません。そこで私は1つの仮説を持ちました。
それは、「話し合いを命題の連鎖だけで語ること」には限界があるのではないか。むしろ「話し合いをイメージすること」「よい話し合いのイメージを、なるべく解像度の高い状態で、読者に抱いてもらえるようにすること」が重要なのではないかというものです。

そこで本書では、話し合いのイメージを、言葉だけでなく、イラストや図、そして事例をふんだんに使って、伝えることを試みます。命題を追うだけではなく、イメージや事例を通して、よい話し合いのイメージを、本書を通じて多くの人々と共有したいと願っています。これが成功するかはわかりません。この私のチャレンジが奏功することを心より願っています。

一方、最初にお断りしておきたいこともあります。本書で、私は、持てるものすべてを賭けて、話し合いのイメージを伝えることをお約束します。しかしながら、残念ながら、こうも断言できるのです。

・「話し合い」ができるようになるためには、本書だけで学んではいけない
・「話し合い」は「座学」でうまくならない
・「話し合い」を為すためには、最低限の知識を仕入れた上で、自ら話し合いを実践して、経験から学び振り返る他はない

話し合いは書籍だけで学ぶことはできません。「話し合いは、話し合いを自ら為すことの中で、経験から学ぶ」しかないのです。さらに言うなら、話し合いの中で起きたプロセスを、適宜、「振り返ること(リフレクション:reflection)」が極めて重要です。

読者の皆さんには、本書で学んだ知識を、ぜひ、あなたの身近にいる、気の置けない仲間と話し合いの中で実践していただきたいと思います。「ああ、あそこイマイチだったな」と思ったことを、また次の話し合いでチャレンジしていく。そんな試行錯誤を何度も何度も繰り返すことで、経験学習(背伸びするくらいの経験にチャレンジし、そのプロセスを振り返ることで学ぶこと)が進み、話し合いがうまくなっていくと思います。

さらに言えば、この本は1人で読むよりも、ゼミの前に全員で読む、職場で話し合いをする前にメンバー全員で読んでいただくことをおすすめします。すると、話し合いの作法が共有でき、共通言語で話せるようになるので、話し合いがかなり楽になるはずです。

この本を著そうとする私自身も、話し合いがすこぶる得意か、というと、そうではありません。もちろん20年弱の教育経験を通じて、いくぶんなら、人に伝えられるものはあります。しかし、この本の執筆を機に、自らの課題も含めて、自分が培ってきたノウハウを文字に記そうと思います。文字に記しにくいものを、あえて、言葉に記すことで、自らの課題や思い込みも明らかにしたいと思っています。私は本書を通じて、私自身をアップデートする機会にしたいと考えています。

ニッポンの話し合いをアップデートする旅のはじまりです!

中原淳著『話し合いの作法』

中原淳著『話し合いの作法』

ふと気づくと、「偉い人」やリーダーしか発言していない会議、長時間話しても、有意義な結論が出ない打ち合わせ......こうした「残念な話し合い」が今、日本のいたるところで発生している。しかし、著者は、現代の職場やチームでは、多様な人々とともに「答えのない問い」に挑み、試行錯誤しながら、その先に解決を目指す必要があるため、「話し合い」の重要性は今後ますます増していく、と語る。そこで本書では、メンバーの相互理解を促す「対話の作法」と、納得感ある結論を導く「決断の作法」を合わせた、「話し合いの作法」について、わかりやすく丁寧に解説。職場や組織で発生する「分断・対立・多様性」を乗り越え、チーム・メンバー全員の力で成果を生む技術がここにある!

アマゾンで購入する

法人のお客様へ

上司部下、メンバー同士のコミュニケーションの質の向上に、1on1ミーティングの定着に、本書をおすすめいたします。社員教育のための一括購入をご検討の方、研修のご提案をご希望の方は、お問い合わせページからご一報ください。

お問い合わせはこちら

中原淳監修「フィードバック研修」のご案内

新着記事企業は人なり~PHPの人づくり・組織づくり

  • 公開セミナー
  • 講師派遣・研修コンサルティング
  • 通信教育
  • eラーニング
  • DVDビデオ教材

×