相手のことをまず理解する~水鳥寿思(男子体操競技日本代表監督・強化本部長)
2022年12月26日更新
史上最年少の32歳で、体操男子日本代表の監督に就任。リオ五輪で12年ぶりの団体金メダル、東京五輪でも僅差の銀メダルへとチームを導いた水鳥寿思氏。だが、就任当初は「まったくうまくいかなかった」という。
水鳥寿思 Hisashi Mizutori
1980年、静岡県生まれ。両親と6人兄弟のほとんどが体操選手という体操一家で育つ。日本体育大学時代に日本代表初選出。2004年のアテネ五輪では団体の金メダル獲得に貢献。12年、ロンドン五輪最終予選を最後に現役引退。同年、男子体操代表監督・強化本部長に抜擢される。16年のリオデジャネイロ五輪では、12年ぶりの団体金メダルへと導いた。さらに東京五輪でも団体銀メダルへと導き、2大会続けてのメダル獲得を果たした。
自分の意見が代表の強化方針に
現役を引退した2012年から、体操男子日本代表の監督を務めることになりました。それまで指導者の経験は皆無。自分がそんな立場になるなんて、夢にも思っていませんでした。
一つのきっかけは、日本体操協会からヒアリングを受けたこと。当時、個人では内村(航平)が金メダルを取っていましたが、団体では2004年のアテネ五輪以降取れていませんでした。それで私がアテネの団体メンバーだったこともあり、意見を求められたのです。その際、「各種目のスペシャリスト育成」「選手主体の組織づくり」「ジュニアの育成強化」が必要という話をしました。
この3つがそのまま代表の強化方針になるのですが、これ自体は間違っていなかったと思います。ところが監督になり、いざ実践しようとすると、まったくうまくいきません。
なぜか。個人競技を長年やってきたこともあり、人や組織をいかに動かしていけばいいかを、私がまったくわかっていなかったからです。
方針を熱く語るも......
そもそも、選手が日本代表として活動する期間は年に2カ月程度だけ。普段はそれぞれの所属チームで練習しており、そこには当然コーチがいます。代表強化にはその理解・協力が不可欠。それで自らの方針を熱く語っていったのですが、なぜかまったく良い反応が返ってきません。
今思えば当然です。何の関係性もない私が突然正論を振りかざしてきたわけですから。「言っていることは正しいかもしれないけど、まずこの現状を見てくれよ。やりたくてもできないんだ」と思われたはずです。
幸いこれではいけないと気づき、それからは所属チームを毎週回り、「どういう思いでコーチをやってきたのか」「今どういう方針で指導されているのか」といったことを、ひたすら聞かせてもらうようにしました。
相互理解の大切さを学ぶ
この巡回は8年間続けたのですが、少しずつ関係性ができ、2~3年たった頃から徐々に物事がうまく回り出したように思います。自分の考えを理解してもらいたいければ、まずは相手のことを理解すること。相互理解の大切さを学びました。
ビジネスでも部門横断プロジェクトを率いる立場の方などは、同じような状況にあると聞きます。私の話が少しでも参考になれば幸いです。
一方、一指導者として育成で軸にしているのは、選手の自己実現をサポートすることです。そのためにはまず「その選手がどうなりたいか」をよく知る必要があります。ここでもやはり相手への理解が鍵ですね。
※月刊誌「THE21」2022年12月号掲載「私の人財育成論」より転載
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