ウェルビーイングとは? 意味や注目される背景、取り組み事例を紹介
2023年8月22日更新
ウェルビーイングとは、従業員の健康が保たれ、働きやすい職場ややりがいのある仕事によって、心身ともに満たされた状態を表します。価値観の多様化や働き方改革の推進を背景に、注目を集めています。本記事ではウェルビーイングの概要や導入するメリットを解説し、企業の取り組み事例を紹介します。
ウェルビーイングとは
ウェルビーイング(Well-being)とは、直訳すると「幸福」や「健康」という意味です。心身が良好で、社会的にも満足できる状態にあることを表しています。心身ともに健康で、自分が幸せだと感じる従業員は業務のパフォーマンスが高いとされ、ウェルビーイングに注目する企業が増えています。
ここでは、ウェルビーイングの指標とされる5つの要素や、ウェルフェアとの違いについてみていきましょう。
5つの要素
ウェルビーイングな状態にあるかを測る指標とされるのが、以下の5つの要素です。
- Positive emotion(ポジティブな感情):嬉しい・楽しいなど、前向きな気持ちを持っている状態
- Engagement(何らかの対象への没頭):時間を忘れて物事に取り組んでいる状態
- Relationship(人間同士の良好な関係):他者から援助を受け、自分も誰かに何かを与えてお互いに良好な関係を築いている状態
- Meaning(人生の意義):自分は何のために生きているのかを考え、生きがいを意識している状態
- Accomplishment(達成感):プライベートでも仕事でも、何かを達成することで充実を感じている状態
これら5つの要素を軸に、ウェルビーイングを実現させるための施策を考えていくと良いでしょう。
ウェルフェアとの違い
ウェルビーイングと似た概念に、ウェルフェア(welfare)があります。ウェルフェアとは福利厚生のことで、給与や賞与などの労働対価に加え、従業員とその家族に提供する報酬のことです。どちらも従業員の健康を守ったり働く意欲を向上させるものですが、ウェルビーイングは目的であるのに対し、ウェルフェアはそれを実現させる手段のひとつということができます。 ウェルフェアのサービスは会社ごとにさまざまな種類があり、そのどれもがウェルビーイングの実現を目指しています。
日本の現状
ウェルビーイングに関連して、世界各国の国民に「最近の自分の生活にどれくらい満足しているか」を訪ねる世界幸福度ランキングがあります。2023年の調査で、日本は137カ国中47位という結果になりました。前年の146カ国中54位という順位よりは上昇したものの、先進国としてはかなり低い位置にあり、主要7カ国(G7)では最下位です。
ランキング上位の国と比べて「健康寿命」は上回り、1人あたりGDPでも差はなかったものの、「人生の自由度」「他者への寛容さ」「社会的支援」「経済水準」といった項目では下回っています。
日本人の意識としては、ウェルビーイングの概念はまだ浸透していないといえるでしょう。
参考:World Happiness Report 2023
松下幸之助とウェルビーイング
パナソニックグループ創業者、PHP研究所創設者の松下幸之助は、経営者として従業員の健康づくりにも熱心に取り組んでいました。「健康管理も仕事のうちと考え、心を躍らせて仕事に取り組むことを基本に、それぞれのやり方で心身の健康を大切にしてほしい」(松下幸之助『社員心得帖』、PHP研究所)と語っています。良い仕事は、心身の健康と、「心を躍らせて」取り組むことから生まれると実感していたのではないでしょうか。
さらに、松下幸之助は1937年9月に松下電器健康保険組合、1940年11月に松下病院を開設します。1965年4月には、"1日休養、1日教養"のスローガンのもと「週休2日制」を導入しました。
その後、1986年3月に松下記念病院が竣工し、松下電器(現パナソニック)従業員とその家族、地域の人々に現在も利用されています。企業における福祉制度の整備という側面から、ウェルビーイングの実現に寄与してきたといえるでしょう。
参考:他社の先がけとなった画期的制度の導入 | 松下幸之助.com
参考:病気に対する心持ち | 松下幸之助.com
ウェルビーイングが注目されている背景
幸福度に関しては他国に後れをとっているものの、近年は日本でもウェルビーイングに注目が集まっています。注目されている背景には、価値観の多様化などさまざまな要因があげられます。
ここでは、ウェルビーイングが注目されている背景をみていきましょう。
多様性の尊重
日本や世界でウェルビーイングが注目されているのは、価値観が多様化していることがあげられます。近年、特に若年層において物質的な豊かさよりも精神的な豊かさを重視する人々が増えています。職場でもダイバーシティの推進を働き方改革の一環に据えるなど、多様な個性を尊重しようという動きが活発になってきました。
違う意見を持った従業員同士が議論を交わすことで、画一的ではない斬新なアイデアが生まれやすく、企業の競争力を高めるなどのメリットがあります。異なる価値観を持つ人材がその能力を十分に発揮できる環境を整備することは、それぞれの価値観が尊重されるウェルビーイングにつながるといえるでしょう。
人材不足の解消
少子高齢化で労働人口が減少し、人材不足に悩む企業が増えています。このような状況の中で、ウェルビーイングを実現させることが、人材の定着に役立ちます。
企業は利益を追求するだけでなく、従業員の幸福を考えることで、企業への信頼や愛着といった従業員エンゲージメントを獲得できます。ウェルビーイングを実現できる企業は採用市場でも求職者の人気を集め、人材不足解消が期待できるでしょう。
働き方改革の推進
多くの会社が働き方改革を推進していることも、ウェルビーイングが注目される背景となっています。働き方改革で従業員に働きやすい環境を提供するためには、ウェルビーイングを考慮した労働環境の整備が求められます。例えば、対面とリモートを組み合わせ、業務によって働く時間と場所を柔軟に選択できれば、従業員一人ひとりの生産性アップが期待できます。
どのような制度や環境があれば従業員の幸福度が上がり、仕事にやりがいを感じられるのかという視点に立ち、改革を進める企業が増えています。
SDGs達成への取り組み
SDGs達成に取り組む企業が増えていることも、ウェルビーイングが注目されている理由のひとつです。SDGsとは、2015年9月25日に国連総会で採択された、持続可能な開発のための17の国際目標を指します。国連加盟193ヵ国が、2016年から2030年の15年間で達成するために掲げられた目標です。
17の目標の3番目には「すべての人に健康と福祉を(Good Health and Well-Being)」とあり、SDGs達成への取り組みの一環としてウェルビーイングが注目されています。
ウェルビーイングを導入するメリット
ウェルビーイングの導入は、企業に多くのメリットをもたらします。ここでは、代表的な3つのメリットを紹介します。
健康経営を実現する
ウェルビーイングを意識した経営は、「健康経営」に結びつきます。健康経営とは、健康管理を経営的な視点で捉え、戦略的に実践することです。従業員への健康投資を行うことで従業員の心身の健康を維持し、モチベーションを高めます。生産性がアップし、組織が活性化するなどの効果も得られ、業績向上にもつながります。
経済産業省では健康経営を推進しており、「健康経営優良法人認定制度」を創設しました。優良な健康経営に取り組む法人を見える化し、「従業員の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に取り組んでいる企業」として社会的に評価を受けられる環境の整備を進めています。
近年は大手企業を中心に、福利厚生の充実や柔軟な働き方を取り入れるなど健康経営を実践する企業も増えています。
参考:健康経営(METI/経済産業省)
生産性を高める
ウェルビーイングを意識した環境で従業員の心身が安定すると、働く意欲ややりがいが高まります。心身が健康になることで病欠や不注意の事故が減り、集中力や判断力の向上を図れるでしょう。製品やサービスの質も高まり、顧客満足度アップにつながるのもメリットです。
従業員が幸福感を高めることで、創造性も高まります。さまざまなアイデアが集まりやすく、イノベーションの創出も期待できるでしょう。
さらに、ウェルビーイングはESG投資も推進します。ESG投資とは、環境(Envionment)、社会(Social)、企業統治(Governance)に配慮した企業への投資のことです。ウェルビーイングへの取り組みは社会(Social)に該当します。
SDGsの目標の中で人々が企業に取り組んでもらいたい項目は、「すべての人に健康と福祉を」がトップという調査結果もあります。ウェルビーイングに取り組む姿勢は社会的評価を受け、投資のリターンにつながることにもなるでしょう。
参考:財務省|ESG投資について
離職率が下がる
ウェルビーイングを重視した経営は、ワークライフバランスの実現にも近づきます。働きやすい環境は従業員の離職を防止し、定着率を高める効果が期待できるでしょう。
また、ウェルビーイングに取り組む企業は、社会からポジティブなイメージで捉えられます。ブランド力が向上し、求職者も集まりやすく人材採用においてもメリットがあります。
価値観が多様化するなか、就職・転職活動で重視されるのは給与・待遇ばかりではありません。働きやすい環境ややりがいのある仕事を提供する企業は、求職者にとって大きな魅力です。
ウェルビーイングに取り組む企業の事例
ここでは、ウェルビーイングに取り組む企業の代表的な事例を紹介します。
Google:心理的安全性を高める
Googleは、従業員のウェルビーイングを実現する経営をしている企業として高い評価を得ています。同社ではチームの生産性を高めるため、「プロジェクト・アリストテレス」と呼ばれる調査を実施しました。その結果、生産性を高めるには、心理的安全性が重要であるという結果を得ています。
心理的安全性とは、組織の中で自分の考えや気持ち、意見を誰に対しても安心して発言できる状態ことです。心理的安全性が確保されることによって意見交換が活発になり、積極的にアイデアを提案できることが生産性の向上へとつながります。
Googleではリーダーとメンバーが定期的に面談を行うなど、心理的安全性を高める取り組みを積極的に行っています。
参考:Google|「効果的なチームとは何か」を知る
味の素:「こころとからだの健康」を推進
大手食品メーカーの味の素では、「味の素グループで働いていると、自然に健康になる!」を目指し、さまざまな取り組みを行っています。そのひとつが、2018年10月にオープンした従業員専用のWebサイト「My Health」です。
ここでは一人ひとりの健康診断の結果や生活習慣データについて、労働時間や有給取得日数など就労データと合わせて総合的に確認できます。健康状態を可視化し、健康状態やパフォーマンスの変化に気づけるという仕組みです。
また、日々の食事や運動記録などのデータを入力すると、AI管理栄養士が個別にアドバイスをくれるアプリ「カロママプラス」も導入しています。
味の素では働き方改革にも早くから取り組んでおり、2017年にはテレワークを導入しています。セキュリティが確保され、従業員が集中して勤務できる場所であれば自宅やサテライトオフィスなど、いつでも・どこでも勤務できる「どこでもオフィス」という制度です。
全従業員を対象に、テレワークの実施場所や利用回数の上限を大幅に緩和しています。取り組みは社外でも評価され、2018年には「第18回テレワーク推進賞会長賞」を受賞しました。
参考:味の素社の社員食堂に潜入!従業員が「自然に健康でいられる」企業の取り組みとは? | ストーリー | 味の素グループ
丸井グループ:「Well-being経営」を目指す
商業施設のマルイなどを傘下に持つ丸井グループでは、「Well-being経営」を目指して活動しています。同社は、「丸井グループのサービスによって心が豊かになる」という価値や信頼を作り上げるには、自らが「しあわせ」を感じられる従業員が増え、ワークエンゲージメントの高い組織へと変わり続けていくことが重要だと考えています。
同社ではウェルビーイングの専門部署「ウェルビーイング推進部」を設置し、従業員が中心になり、ユニークな取り組みを行っているのが特徴です。
2016年には健康経営推進プロジェクトを発足し、ウェルビーイング推進部がサポートする取り組みを開始しました。熱意を持った従業員が自ら手を挙げて参加するプロジェクト活動を中心に進められています。取り組みは社外からも高い評価を受け、2018年からは5年連続で「健康経営銘柄」にも選ばれました。
参考:人と社会のしあわせを共に創る「Well-being経営」 | 重点テーマ2 | サステナビリティ | 丸井グループ-maruigroup website-
まとめ:ウェルビーイングで生産性を高めよう
ウェルビーイングは従業員が心身ともに健康で、やりがいを感じながら働ける職場をつくる取り組みです。生産性を高め、離職を防止するなどのメリットがあります。多様性の尊重や人材不足の解消などを背景に、導入する企業も増えてきました。
ウェルビーイングに取り組む企業は求職者や投資家からも注目され、人材確保や投資リターンの獲得なども期待できます。生産性の向上や人材の定着に課題を感じている場合、ウェルビーイングを実現するための施策を取り入れることも解決に向けた選択肢のひとつといえるでしょう。