変化の時代に成長するために大切なこと~「学習棄却」と「内省」
2020年8月 4日更新
変化の時代を生きる上で大切なのは、既存の常識にとらわれない柔軟な発想と、すべてから学ぶという謙虚な姿勢をもって自らを成長させ続けることでしょう。 本稿では、「学習棄却」と「内省」についてご紹介いたします。
シングルループ学習とダブルループ学習
米国の組織心理学者C・アージリスとD・ショーンは「シングルループ学習」と「ダブルループ学習」という二種類の学習スタイルを提唱しています。
シングルループ学習とは、既存の考え方や行動の枠組みに従って問題解決を図ることを意味します。([例]社員教育のためには、集合研修を実施するという従来の枠組みの中で発想する)それに対して、ダブルループ学習は思考・行動の枠組みを常に新しいものへとバージョンアップを図っていくことを意味します。([例]集合研修という従来の枠組みではなく、新しい枠組み「オンライン研修」で社員を教育しようと発想する)
学習棄却の重要性
変化することが常態化した昨今、これまでの成功体験や常識が通用しにくくなってきました。一所懸命取り組んでいるのに成果が出ない状況があるとするなら、考え方や行動の拠りどころになっている枠組みが現在の環境に適合していないのかもしれません。
変化の激しいこれからの時代を生きるためには、組織も個人もシングルループ学習だけでは競争優位を保つことは難しいでしょう。環境に適応しながら生き残るためには、ダブルループ学習によって、古い枠組みを捨て去り、新しい知識や枠組みをインストールし続ける営みが不可欠です。ところが、「捨てる」という行為(=学習棄却)が案外難しいのです。
内省が学習棄却を促進する
そこで、既存の古い枠組みを捨てる上で注目したいのが「内省」です。内省とは、自分自身と向き合うことですが、具体的には「今日一日、うまくいったことは何か、うまくいかなかったことは何か」「明日をどんな一日にしたいか」といった問いに対する答を考え、できれば文字にして書き出すのです。それによって、多くの気づきが得られることが脳科学の研究からも明らかにされています。
また、松下幸之助は「今日一日をふりかえり、失敗や成功を見出し、その味をかみしめる。これが体験である。内省することなしにポカンと暮してしまえば、これは体験にならない」と述べ、内省(幸之助の言葉で表現すると「自己観照」)の重要性をことあるごとに強調していました。
仕事や人生において成功を収めるためには、体験を通じて自らの考え方を確立・強化させることが大切ですが、それと同時に古くなった枠組みを捨て去る柔軟性をもつことも重要です。日々の内省を通じて何ごとにもとらわれない素直な心をもち続けること、これが、これからを生きるすべての人びとに求められる「成長するためのコツ」といえるでしょう。
的場正晃 (まとば・まさあき)
PHP研究所人材開発企画部部長
1990年、慶應義塾大学商学部卒業。同年PHP研究所入社、研修局に配属。以後、一貫して研修事業に携わり、普及、企画、プログラム開発、講師活動に従事。2003年神戸大学大学院経営学研究科でミッション経営の研究を行ないMBA取得。中小企業診断士。