「業務」と「職務」のちがい―新入社員に伝えたいメッセージ
2021年4月26日更新
新入社員の方々にしっかり理解してほしいことの一つに、「業務と職務」という概念があります。仕事は大きく分類すると「業務」と「職務」の二つに分かれるという考え方です。
アマチュアとプロ
新入社員のみなさんのなかには、学生時代にアルバイトをして収入を得た経験のある人もたくさんいるでしょう。でも、アルバイトで一時的な収入を得ることと、社員として雇用され、会社から給料をいただくこととはまったく意味が異なります。つまり、会社と雇用契約を結び、労働の対価として給料を受け取る人は、新入社員であっても「プロ」と見なされるのです。そして、アマチュアと違って、プロにはプロに相応しい義務と責任を果たすことが求められます。
仕事には「業務」と「職務」がある
新入社員がそれぞれの部署に配属されると、その部署固有の仕事がその人に与えられるでしょう。例えば、営業部に配属になった人には、営業活動を通じて自社の商品・サービスの拡売に努める仕事が与えられます。同じように、開発部に配属になった人には開発関連の仕事が、経理部に配属になった人には経理関連の仕事が、それぞれ与えられるのです。
このように、その部署固有の仕事のことを「業務」と言います。給料をいただく以上、与えられた業務に全力投球し、一日も早く成果を出せるように精進することがプロに求められる義務なのです。
一方で、所属する部署に関わらず、組織を構成する一人ひとりが等しく担うべき仕事があります。例えば、床にごみが落ちていたら拾う、元気な挨拶をする、困っている人に声をかけサポートする、相手を思いやる、礼儀を守る、職場の行事に積極的に参加する等々。こうした仕事は、実践することが義務付けられているわけではありませんが、働きやすい職場づくりに欠かせないものです。こうした仕事のことを「職務」と呼びます。
「業務」と「職務」はどう違うのか
先述のように、業務とは、その人が所属するメンバーの一人として取り組むべき義務を伴う仕事のことです。一方、職務とは、その会社や組織に属する人が全員共通して担う役割です。
業務に比べて職務は、取り組まないからといってすぐに業績が落ちたり給料をカットされたりするわけではありませんし、取り組み状況も見えにくいため、とかく軽視されがちです。しかし、組織に属する一人ひとりが職務に真剣に取り組まなければ、活力ある職場づくりやお客様に喜ばれるサービスの提供などはとうてい実現できないのです。
新入社員・若手社員の中には、業務だけが仕事だと勘違いしている人が時々います。業務で成果さえ上げていれば、職場環境の向上や、他者への気配り・心配りなどは、自分の仕事ではないという考え方です。職場にこういう人が増えたらどうでしょうか。ギスギスした雰囲気になって、人間関係も悪化し、仕事上の成果も上がりにくくなるでしょう。こんな職場になることを願っている人はいないはずです。
そうであるならば、新入社員のみなさんは他の先輩・上司以上に職務を大事にし、より良い職場づくりに貢献していきましょう。
「職務」を大切にすることで得られるもの
職務を大切にすることで、実は新入社員や若手社員自身が得るものも大きいのです。それは、「愛される」自分になることです。
業務面ではまだまだ貢献できないけれど、せめて職務面でチームに貢献しようとがんばっている新入社員の姿を職場の人たちは見ています。イキイキした表情、キビキビした行動、ハキハキした受け答え、そうした当たり前のふるまいの一つひとつが、職場を活気づけ、「彼(彼女)が配属になってから職場の雰囲気が変わった」「彼(彼女)をサポートしてあげよう」という周囲からの評価につながるのです。
このように、職務を軽んじず、心を込めて実践することで、自分の周りにサポーターをつくることができます。そして、そうすることで、職場における自分自身の存在価値が高まっていくのです。
先輩や上司が率先して職務への取り組みを!
新入社員や若手社員に職務の大切さを理解させ、実践する姿勢を身につけるよう指導することはたいへん重要ですが、そのためにもまず、周囲の先輩や上司が率先して職務に取り組む姿勢を示すことが求められます。特に新入社員を迎える時期は、より良い職場づくりのためにお互いがなすべき職務は何なのか、一人ひとりが見つめ直す絶好の機会と言えるでしょう。
的場正晃(まとば・まさあき)
PHP研究所 経営共創事業本部 本部長
1990年、慶應義塾大学商学部卒業。同年PHP研究所入社、研修局に配属。以後、一貫して研修事業に携わり、普及、企画、プログラム開発、講師活動に従事。2003年神戸大学大学院経営学研究科でミッション経営の研究を行ないMBA取得。中小企業診断士。