独占禁止法とは? 規制行為と企業のコンプライアンス
2021年9月 1日更新
独占禁止法と、その規制行為をご紹介します。企業のコンプライアンスにおいて、これだけは知っておきたいという内容です。
独占禁止法とは
私たちの生活は、さまざまな商品・サービスに支えられて成り立っています。「よりよい品質のものを、より安く手に入れたい」と誰もが願うでしょう。そういった願いを叶えるのが、企業同士の競争です。つまり、価格や品質、サービスについて企業間競争に勝つために各企業が日々努力し、研鑽する。そういった企業活動が、資本主義の原則なのです。
しかし、本来であれば競争しあうべき企業同士が、結託し業界ぐるみで価格をつり上げてしまったり、ライバルの参入を不当な方法で妨げてしまうとどうなるでしょうか。企業は努力することなく利益を手に入れることができます。そして消費者は、努力を失った企業の怠慢のせいで、必要以上にお金を支払うことになり、不利益をこうむってしまうのです。
この法律は、私的独占、不当な取引制限及び不公正な取引方法を禁止し、事業支配力の過度の集中を防止して、結合、協定等の方法による生産、販売、価格、技術等の不当な制限その他一切の事業活動の不当な拘束を排除することにより、公正且つ自由な競争を促進し、事業者の創意を発揮させ、事業活動を盛んにし、雇傭及び国民実所得の水準を高め、以て、一般消費者の利益を確保するとともに、国民経済の民主的で健全な発達を促進することを目的とする。
独占禁止法 第一条
独占禁止法(私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律)は、企業の公正で自由な経済活動を促し、消費者の利益、生活を守ることを目的とした法律です。大企業、中小企業を問わず、すべての企業がこの法律の規制対象になります。
独占禁止法に違反すると、高額な課徴金を課せられたり、刑事告発を受けて刑罰が科せられます。また、自分たちさえ儲かれば何でもするというイメージを消費者に与えることになり、企業は大きなダメージを受けてしまいます。
正しい競争を行なうためにも、企業活動を円滑に行なうためにも、独占禁止法を理解することは、企業人にとって必須の課題だといえるのです。
独占禁止法の規制行為
独占禁止法で規制されている3つの行為について見ていきましょう。
(1)「私的独占」の規制
独占禁止法では、1つ、もしくは複数の企業が意図的に市場を支配すること、そして、その支配した状態を保つために、企業間の競争を妨げる行為を規制しています。
排除型私的独占
入札で自社のみに適合する仕様書をつくるように発注元に働きかけ、他社の入札を妨げるなどの行為です。このように、競争相手を排除し、市場における競争を制限する行為は、独占禁止法で規制されています。
支配型私的独占
同業種のライバル企業に役員を派遣するなどして、自社の都合に合わせて価格設定など他社の事業活動を操作する行為です。このような行為は、他社の事業活動を支配することで、市場の競争を制限することになり、独占禁止法の規制対象になります。
私的独占は、特定の企業が他の企業を排除・支配し、健全な企業間競争を阻害するものです。独占禁止法で厳しく規制されています。
(2)「不当な取引制限」の規制
独占禁止法では、競争関係にある2社以上の企業が、販売価格や供給数量などを取り決めるカルテルや談合を制限しています。
カルテル
同じ業種の各企業が、競争を避けて価格や生産量を取り決めることです。その代表的なものに、価格カルテルがあります。これによって、企業間での価格競争をなくし、不当に高い価格を維持することが可能になります。もちろん、最終的に消費者が不利益を被ることはいうまでもありません。
談合(入札談合)
工事などの入札の際、入札者同士が、事前に入札金額や落札者を決めることです。発注者は、本来はより安く発注できるはずのものに適性以上の金額を支払うことになってしまいます。
カルテルや談合は、いずれも企業の健全な競争を阻害する悪質な行為です。資本主義の根幹を揺るがすものであり、発覚すれば厳しい制裁が科せられます。
(3)「不公正な取引方法」の規制
公正な競争を阻害するおそれのある行為も独占禁止法では規制されています。公正な競争を阻害するおそれのある行為とは、自由な競争を妨げていること、競争が価格・品質・サービスを中心としたものでないこと、企業の自主的な判断で取引が行なわれていないなどの行為のことです。これらの行為を「不公正な取引方法」といい、具体的には以下のような行為が該当します。
不公正な取引方法
共同の取引拒絶/その他の取引拒絶/差別対価/取引条件等の差別取扱い/事業者団体における差別取扱い等/不当廉売/不当高価購入/ぎまん的顧客誘引/不当な利益による顧客誘引/抱き合わせ販売等/排他条件付取引/再販売価格の拘束/拘束条件付取引/優越的地位の濫用/競争者に対する取引妨害/競争会社に対する内部干渉 など
このなかから、代表的なものについて見ていきましょう。
再販売価格の拘束
独占禁止法では、自由な価格競争を促進するために、本やCDなど定価販売が認められている一部の例外を除き、売主が卸売業者に卸売価格を指定したり、小売店に対して小売価格を指定することを禁止しています。
たとえば、卸売業者に取引停止などの圧力をかけ、小売店などに一定価格よりも高く販売するように指示する行為などです。
優越的地位の濫用
取引先にとって、自社との取引が欠かせないものであることを利用して、取引先に理不尽な負担を課すことは、『優越的地位の濫用』とみなされ規制の対象となります。
発注者が納入業者に対し、他社の棚の陳列作業を手伝うように強要する行為などが、優越的地位の濫用にあたります。
不当廉売
商品を原価割れの不当に安い低価格で継続的に販売し、体力の弱い競争相手を排除する行為は、『不当廉売』として独占禁止法違反にあたります。たとえば、大手スーパーチェーンが、仕入れた商品を原価よりもはるかに安い金額で継続的に販売することです。これにより、
同地域の小規模スーパーは、顧客離れなどで経営が困難になってしまう可能性があります。
社員の無知、無関心から~コンプライアンスの重要性
独占禁止法に違反した場合、課徴金や罰金で財務上苦しくなる、また企業の信用が失墜し、市場での競争力が低下するなどのリスクが考えられ、コンプライアンスの観点からも企業にとって計り知れないダメージになってしまいます。怖いのは、独占禁止法に対する無知・無関心から自覚がなく法を犯してしまうことです。
自分が働いている会社を守ろうとすること、会社に貢献しようとすることは、企業人として当然です。だからといって、消費者や他の企業を犠牲にする行為は、正しい企業のあり方だとはいえません。
独占禁止法の精神をベースに、正々堂々とライバル企業としのぎを削り、よりよい製品・サービスを世に生み出していく。これが、私たちに求められる仕事のあり方ではないでしょうか。
出典:『早わかりシリーズ 企業コンプライアンス編 これだけは知っておきたい「独占禁止法」』
監修:木目田 裕(きめだ ひろし)