雇用延長 社会人後半の人生設計~なかなか言えない不都合な真実
2016年7月 7日更新
65歳までの雇用延長が義務化されたことによって、さまざまな問題が起こってきています。企業の人事部や経営サイドではなかなか言えない「不都合な真実」について、海老一宏氏がズバリ解説します。
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企業の人事部や経営サイドではなかなか本音が言えないでしょうから、今日は皆さんが社会人として歩んできた道を総括し、実は誰でも気づいているはずの「不都合な真実」について書きたいと思います。
社会人として歩む道
思い起こせば入社して20代は、社会人としてのしきたりや公式な場での言葉遣い、人との接し方などあらゆる基礎を叩き込まれた時代だったと思います。これが身についていないと大きな仕事はできないので、どうしても必要なプロセスでした。この間は会社から客観的に見れば、半分以上が教育投資です。新人研修でリーダーに「給料もらいながら教えてもらえるのだからありがたいと思いなさい……」なんて、多くの人が言われたのではないでしょうか?
30代は実戦の切込み隊長として期待され、ひたすら場数を踏む“キャリア形成時代”、勢いもあり若くて無理もききますから、会社はここで先の教育投資を回収します。
40代はチーム戦のリーダーとして部下を動かしながら、より多くの成果を上げるべき時代です。早くも力尽きてしまう場合を除き、人を動かすことの大変さ、その先に一人ではなし得ない大きな仕事の醍醐味が待っています。ここで成功のパターンやマネジメントスタイルは、良くも悪くも確立することが多いでしょう。
輝きを失う55歳の役職定年以降の10年間
さて、話を比較的大規模な企業に絞って考えてみると、前回の記事「65歳定年制が個人に与える影響を考える」でも触れたとおり、ごく一部の例外を除けば、その先には55歳前後で役職定年という人事制度が待っています。この関門は役員となる1%かそれ未満を除けば全員が通るようになっており、誕生日を過ぎた翌月1日から部下をもたない一般職に格下げ、当然給与は良くて7掛から半減ということが多いようです。
その意味するところは、(すみません、これからが不都合な真実です)これ以降はピークを過ぎたただの人、はっきり言って使いづらく、かえって会社の成長を妨げる(こともある)、本音では「過去の功績に感謝はするが辞めていただきたい方々」です。60代以降は、自他ともに完全にリタイヤ待ちメンバーとして認識されるようになってしまいます。
一般に大企業は新人を「選んで」採用できます。今後の見通しでいえば、日本の人口動態からすれば若年層は減ってゆきますが、マクロで見ればここに外国人やAIが加わりますので、一定の年齢で人も循環させないと大きな組織は壊死してしまう危険があります。また、大企業の営業活動はマスの時代感とともに変化しますので、時代感覚が合わなくなれば前線メンバーたりえない……という現実も避けて通れません。
このように書くと「そんなことはわかっている」とおっしゃる方もいると思いますが、多くの方は50代を「やや不安ながらも漠然と」迎え、のっぴきならなくなってから現実の厳しさに呆然とし、あわてて次の道を探そうと動き出すのです。このタイミングが50代後半、なんの準備運動もトレーニングもしないでいきなり試合に出ようとしても、そもそも出場チャンスはないし結果がでるはずもないのは自明の理です。
そういう方々は、役職を離れた時点で自尊心やいい意味での自信がなくなり、邪魔をしないようにと精神的我慢を強いられる数年により、第一線で活躍されていたころの輝きを失ってしまいます。大変残念なことです。
65歳定年制の義務化が本格稼働すれば、役職定年以降定年まで10年もあります。企業にも当事者個人にも長すぎる「我慢」の期間、双方に悪影響が出るのは想像に難くありません。
40歳以降こそ「新規事業」の企画に最適
そこで私からひとつ提案があります。
それは、40歳くらいから「新規事業」を企画する特別カリキュラムのトレーニングを開始するというものです。これは、職場での工夫改善とは次元が違い、新商品やサービス・新規事業分野の開発など、企業のイノベーションを起こすレベルを目標にします。
通常は企業内で新規事業といえば、突破力や柔軟性を重要視して若手を登用する流れになりがちです。しかし、本来企業における新規の価値創造には有形無形の経営資源の把握を前提に、マーケット分析や攻めるべき分野の絞り込み、リスクマネーと投資・回収期間のシミュレーションなど、実に多岐にわたる知見が必要です。本来はベテランにこそ相応しい分野なのではないでしょうか。
この教育システムのポイントは、第一に新規事業分野の開発ができれば今後もフェードアウトではなく、引き続き大きく会社に貢献できる可能性があること、そしてもう一方で、この教育により転職や独立によって第二の人生をスタートする準備ができる、企業と個人、双方にプラス効果が期待できるところにあります。
次回はこの提案についてもう少し詳しくお伝えしたいと思います。