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パワハラを生じさせない職場とは?

2016年8月23日更新

パワハラを生じさせない職場とは?

職場のパワハラ(パワーハラスメント)が社会問題となっています。発生してしまうと、企業の社会的責任が大きく問われ、生産性の低下も免れません。対策はあるのでしょうか? パワハラを生じさせない職場づくりを、アドラー心理学に学びます。

パワハラ上司と言われるのが怖い? 

「僕たちが若い頃は、上から理不尽に怒鳴られるのなんて当たり前でしたよ」

「ちょっとやそっときついこと言われたからって、今の若い子は何でもかんでも『パワハラだ、モラハラだ』って言うんですよね。まったく根性がないなって思う」

「バカにバカって言って何が悪いんです?」

「仕事ができない子に『もう会社に来なくていい』って言ったんです。そんなの、ちょっと出ちゃった言葉に過ぎないのに本気にして辞めちゃって。人事から文句言われたんですけど、私が悪いんですかね」

多少脚色はしていますが、これは飲み会の席で40代~50代の方がおっしゃっていたことです。また、こんな声も。

「チームリーダーになったのですが、すごく気を使います。なんか下手なこと言って訴えられたりしたら嫌だから」

「派遣社員がダラダラ仕事をしていて、前々から伝えていた締切に間に合わなさそうだったから、『帰る前に、この仕事を終わらせてもらわないと困る』って言ったんです。もちろん時間外手当も支払っています。そうしたらその後、派遣会社を通じて『パワハラされた』と言われてしまって、厳重注意を受けたんです」

そもそも「パワハラ」とは?

「ハラスメント」や「パワハラ」という言葉が広く一般に知れ渡るようになったのは、ここ15年~20年ほどではないでしょうか。筆者が社会人になった平成元年には、部下いじめやら、お局様による若手女子イビリ的なものは存在していましたが(おそらくこれはいつの時代もあるものなのでしょう。「お局」という言葉自体、江戸時代の大奥のものですし)、「パワハラ」という概念は職場の誰もがほぼもちあわせていませんでした。

そもそも「ハラスメント」とは、さまざまな場面での“嫌がらせ、いじめ”を言います。そして、「職場のパワーハラスメント(パワハラ)」とは、「同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内での優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為」(厚生労働省『あかるい職場応援団』より抜粋)を指します。

パワハラというと、上司から部下へのものと考えがちですが、職場内での優位性は地位によるものとは限らないので、先輩・後輩間や同僚間、さらには部下から上司へといったものも含まれます。

組織である以上、どんな職場でも起こりうるのがパワハラです。「うちの職場に限って絶対にパワハラなんて起きるわけがない!」という人は、起きないと信じたいだけの話でしょう。下の立場の人間は嫌といえないことも多いものです。

発生してしまうと大ごとになり、企業の社会的責任が大きく問われます。また、社会的信用も失墜します。そのようなことになればもちろん社員全体のモチベーションを下げることにつながり、生産性も大きく下がるでしょう。パワハラが起きている会社に勤めていることを誇りに思える人はいません。

パワハラ発生の要因と対策

パワハラの発生要因にはいろいろなものがあります。企業体質、業務内容などの組織要因もあれば、行為者や被害者の性格的なものおよび人間関係などの個人要因もあるでしょう。しかしながら、どのパワハラにも共通して言えるのは、「認識の大きな違い」ではないでしょうか。

行為者側は「パワハラをしてやろう」とは思っていません。「自分は相手を指導している」「仕事ができるようにしてやっている」「一種の愛情だ」という思い込み、信念がある。でもそれを被害者は「指導」「成長への支え」「愛情」とはとらず「嫌がらせされた」と感じている。では、この認識の違いはどうやったら解決できるのでしょう?

ちなみに一発で効く劇薬のようなものは一切存在しない、ということだけは最初に申し上げておきます。では何が? それは、一にも二にも、「平常時のコミュニケーション」の重要性に凝縮されます。

もし自分の部下や同僚の口調や性格がきつければ、その人が後輩や部下を抱えたときにきつい口調を使い、当たりをきつくすることは予想可能です。それをきちんと指摘し、話し合える土壌があるか。パワハラはセクハラと異なり、密室で加害者と被害者二人きりで行なわれることは少なく、たいてい「その他大勢」という目撃者がいます。被害者のみならず、その人たちが会社のしかるべき相談窓口や加害者より上の立場の人に通報できる土壌があるか。

また、「ハラスメント」について研修を行ない、立場の上下関係なく正確な知識を得ることにより、ハラスメントそのものを減らすこともできますし、適切な「指導・指摘」を「パワハラだ!」と騒ぎ立てるような幼稚な発想も減らすことができます。

「相互尊敬・相互信頼」。これはアドラー心理学を学ぶなかで、良好なコミュニケーションを築くために不可欠なものとして重要視されている概念です(「非正規社員のモチベーション・マネジメント」の回で詳しく解説しています)。

立場の上下に関わらず、相手の尊厳を大切にし、礼節をもって接する「尊敬」の気持ちと、条件(性別、出身大学、有能さ、肩書等)に関わらず相手を信じる気持ちである「信頼」を、お互いにもちあえる職場。少なくとも、もとうとする姿勢を上の立場の人が率先して見せることにより、パワハラを生じさせない職場に変革させていくことはできると信じています。

「アドラー心理学に学ぶ『勇気づけ』の職場づくり」一覧はこちら

通信教育「リーダーのための心理学入門コース」はこちら

永藤かおる(ながとう・かおる)

(有)ヒューマン・ギルド研修部長。心理カウンセラー。1989年、三菱電機(株)入社。その後ビジネス誌編集、海外での日本語教育機関、Web 制作会社など、20年以上のビジネス経験のなかで、人事・採用・教育・労務管理等に携わる。どの現場においてもコミュニケーション能力向上およびメンタルヘルスケアの重要性を痛感し、勤務と並行して学んだアドラー心理学を生かして現在㈲ヒューマン・ギルドにてカウンセリング業務および企業研修を担当。著書に『「うつ」な気持ちをときほぐす 勇気づけの口ぐせ』(明日香出版社)、PHP通信ゼミナール『リーダーのための心理学 入門コース』(監修:岩井俊憲、執筆:岩井俊憲・宮本秀明・永藤かおる、PHP研究所)などがある。

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