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部下に怒鳴ってしまう管理職~怒りの感情をコントロールするには

2017年6月27日更新

部下に怒鳴ってしまう管理職~怒りの感情をコントロールするには

部下のちょっとした失敗に対して、感情的に怒って職場の雰囲気を悪くする管理職がいます。自分でもそのことに気づいているのですが、怒りの感情をコントロールすることができません。気持ちよく働ける職場づくりのため人材開発担当としてどうアドバイスすればよいのか、アドラー心理学に学びます。

【質問】私は上司から厳しく叱咤されて育てられたせいか、腹を立てるとつい怒鳴ってしまいます。ほんの些細な部下のミスでも、目くじらを立て責めてしまうこともあります。そのため部下が萎縮してしまい、職場の雰囲気も常にピリピリしています。よくないのでやめなければと思うのですが、感情をコントロールすることができません。どうすれば感情的に怒ることをやめることができるでしょうか。教えてください。(44歳男性 大手ハウスメーカー 国内営業部 課長)

「怒り」を全体論でみる

「わかっちゃいるけど、怒ってしまう」「やめようと思うけど、目くじらを立てて怒鳴ってしまう」。人間の行動をこのような形で考えることを「要素論」といいます。

「要素論」とは、意識と無意識、理性と感情、心と体のように、人間を部分に分け、それぞれが相反する要素だと考えるもので、アドラー心理学が誕生する以前の、科学的思考に基づく理論です。「部下に怒鳴ってしまう」を例にすると、自制して怒鳴らないほうがいいと「頭(理性)ではわかっているけれど、(感情がいうことをきかないために)怒鳴ってしまう」ということになります。

しかし、人の心は科学とは違います。意識と無意識とを分けることはできませんし、理性と感情、心と体も分割できません。アドラーは、「人間は全体としてひとつの生命体であり、部分に分けてはならない」といっています。つまり、人間は「部分」にはっきり分けることはできないし、「部分」をかき集めても人間にはならないということです。これを「全体論」といいます。

アドラー心理学では、「要素論」ではなく「全体論」で考えます。「部下に怒鳴ってしまう」ことを全体論でとらえると、「怒りという感情を使用して、部下を思いどおりに動かそうとして怒鳴った」となります。「要素論」でとらえたときは「感情という自分でコントロールできないもののせいで怒鳴ってしまった」と、どこか他人事のような受け止め方ですが、「全体論」でとらえると、「自分の意志でその方法を選択している」ことがはっきりと見えてきます。まずはそれを自覚することが必要です。

「怒り」をコントロールする3ステップ

「怒り」を抑制するのは、ストレスが溜まるだけでよいことではありません。怒りは思った以上にコントロールできるものです。無理に抑え込もうとせず、うまくコントロール方法を身につけましょう。「怒りのコントロール法」は、以前「言われたことしかやらない部下にイライラしているあなたへ」でも紹介しましたが、ここでもう一度、怒りをコントロールする3ステップについて、もう少し掘り下げておさらいしておきましょう。

(1)相手役と目的があることを認識する

怒りには、必ず相手がいます。相手は他者であることがほとんどですが、自分である場合もあります。この場合は自責の念となります。

怒りをコントロールする第1ステップは、「相手役(誰に対して)」と、以下の「目的(何のために)」を冷静に認識することです。

[怒りの目的]

1.支配:親と子、上司と部下、先生と生徒などの関係において

2.主導権:夫婦間、同僚間、友人間などの関係において

3.権利擁護:国家間では領土紛争、個人間では携帯を見られたくないなど

4.正義感:電車で老人に席を譲らない、順番を守らないなど

怒りの目的の根底には、「~であるべき」「~しなければならない」という信念があり、それを裏切られたときに怒りがわいてきます。

(2)「怒り」を客観視する

第2のステップの準備として、まず自分自身の怒りに「あだ名」をつけてください。たとえば、私は「いかりや長介」と名づけています。私の受講生の中には「いか・えび・たこ」や「イカリング」と命名されている方もいます。自分が怒りを連想する言葉で、口から出やすく笑ってしまうようなものにしましょう。

そして、怒りの感情が芽生えたと感じたら、このあだ名を心の中で3~4回唱えます(約6秒)。このとき怒りの源にある1次感情を探すようにします。それは「仕事の失敗への心配や不安」「部下への失望」「期待を裏切られた落胆や悲しみ」であったりします。この1次感情を自覚すると、感情の高まりが静まり、「怒り」を客観的に捉えることができるようになります。

(3)4段階の「わたし」メッセージで発信する

最後のステップは、「怒り」を感じた相手への発信です。以下の4段階をベースに、「わたし」を主語にして伝えます。

[相手への伝え方]

1.相手の行動を指摘する

2.相手の行動に対する自分の感情(第1次感情)を伝える

3.相手の行動の影響(結末)を伝える

4.改善案を相手に託す思いで伝える

では、この内容を「あなた」メッセージと「わたし」メッセージでそれぞれ発信した場合の例を見てみましょう。

例)「仕事で同じミスを繰り返す部下に対して上司が……」

わたしメッセージとあなたメッセージ

この例のように、「あなた」メッセージは主語が「あなた」であるのに対して、「わたし」メッセージの主語は「わたし(あるいはこれ)」です。自分が言われる立場である部下だった場合、同じ内容でも後者のほうが負担にならないのは明白ですよね。

厳密にいうと、「わたし」メッセージは、不安・心配・落胆などの陰性感情を伝える場合、「勇気づける方法」というよりは、「勇気をくじかない方法」になります。しかし、相手に託す思いとして、最後に喜び・感謝などの陽性感情を使うと(例であげた「私も助かるよ」など)、勇気づけのメッセージとして使うことができます。

人材育成担当者がまず実践する

ご相談のケースのような管理職の方が身近に見られたときは、人材育成担当者として、ぜひ怒りをコントロールする3ステップの実践を勧めてみてください。

その際、怒りにあだ名をつけることや、これまでは「あなた」メッセージで発信していたのを「わたし」メッセージに変えることなどに、抵抗感を示す人もいるかもしれません。そんなとき、実体験と交えてこれらを紹介することができれば説得力が増します。ですので、あなた自身にも、ぜひ怒りにあだ名をつけて、3ステップを実践していただきたいと思います。

「感情をコントロールして発信」を実践していくことができれば、部下を萎縮させることもなくなり、職場の雰囲気を明るくすることができます。そしてそれは、部門の成果や会社全体の業績にもつながっていくものです。「自己改革なくして組織改革なし」です。人を育てる立場にある管理職や人材育成担当者から、まず変わっていくことが大切です。

「アドラー心理学に学ぶ『勇気づけ』の職場づくり」一覧はこちら

通信教育「リーダーのための心理学入門コース」はこちら

宮本秀明(みやもと・ひであき)

1982年、スタンフォード大学中退。広告業界から数社の研修会社を経て、現在㈲ヒューマン・ギルド法人事業部長兼シニアインストラクター。ロジカルシンキング、ファシリテーションからマナー教育まで、幅広いコミュニケーションの研修を担当。米国と日本双方のビジネス経験を生かし、それぞれのよさを融合させた、和魂洋才型の研修プログラムを独自に開発。受講生の目線に立った習得しやすいカリキュラムの構成力、やる気を促す講師手法には定評がある。著書に、『マンガでよくわかるアドラー流子育て』(岩井俊憲監修、かんき出版)、PHP通信ゼミナール『リーダーのための心理学 入門コース』(監修:岩井俊憲、執筆:岩井俊憲・宮本秀明・永藤かおる、PHP研究所)などがある。

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