上司の武勇伝や苦労話は若手の「ウザい」の元になるだけ
2017年7月18日更新
頼まれもしない上司の武勇伝や暑苦しい苦労話に、若手社員はうんざり......。ジェネレーションギャップに悩む管理職に、若手とのコミュニケーションのあり方を、アドラー心理学の見地からアドバイスします。
「いまどきの若者は......」という言葉は古代エジプト人だかギリシャの哲学者だかの時代から言われていた、という都市伝説があります。いつの時代の若者も、かつて若者だった人たちから「ディスられて」いたわけです。ということは、当然の帰結ですが、逆もまた真なり。ディスってくるような相手と仲良くしようなんていう奇特な若者はいません。こんなジェネレーションギャップに悩む次長さんからご相談をいただきました。
【質問】飲料メーカーの営業次長です。ここ数年入社してきた若手社員とうまくコミュニケーションがとれません。やる気や覇気がまったく感じられず、何を言っても暖簾に腕押し、といった感じです。先日も営業資料にミスがあったので叱責したのですが、無表情で「すみません、気をつけます」を繰り返すばかり。前期末には、残業のあとに「俺がおごってやるから一杯行かないか?」と誘ったら「もう帰ります」とあっさり断られました。私が20代の頃は、先輩や上司に誘われたら喜んでついていったものです。また、新入社員歓迎会のとき、自分の新人の頃の「上司に盾ついた話」や「酒のうえでの大失敗」の話をしたら、潮が引くように周りから若手がいなくなりました。(52歳 飲料メーカー 営業部次長)
上司や先輩の昔話に若手社員はうんざり
お察しします。年齢から推測するに、おそらく筆者とおなじバブル期頃、昭和が平成に移行したころの入社の方ではないでしょうか。あの頃は何でもかんでも派手でしたね。会社の忘年会をクラブ(当時はディスコですが)貸し切りでやったり、納涼パーティと称してクルーズ船を貸し切ったり、社員旅行がオーストラリアだったり。忙しくて毎日毎日終電だったのも確かだけれど、なんだかアドレナリンが異常に分泌していて、毎日がワッショイワッショイとお祭りのようだったな......と懐かしく思い出す人もいらっしゃるのではないでしょうか。
でも、それはもはや、若手にとっては歴史上の出来事なのです。バブル期入社の「新人類」と言われた私たちが、年の離れた上司や先輩たちから「高度経済成長期はすごかったぞー!」だの、「俺の子どもの頃は戦後の復興期で......」だのと聞かされて、「また始まったよ」とうんざりしていたのとまるで同じなのです。おそらく高度経済成長期に新入社員だった皆さんは、「お前らは戦争を知らないから苦労というものがわかっておらん!」と説教されていたでしょうし、もっとさかのぼれば明治生まれの人は「幕末の混乱期がいかにすごかったか」を江戸時代生まれに繰り返し聞かされてうんざりしていたことでしょう。歴史は繰り返すのです。そしてもう平成も終わります。昔話や武勇伝は、同年代とするに限るのが、お互いの幸せのためでしょう。
若手とコミュニケーションをいかに育むか
では、年齢の離れた若手との間には、どのようにコミュニケーションを育んでいくべきなのでしょうか。年長者は若手に気を使い、若手の話におもねり、何でもかんでも若手に合わせなければ、うまくコミュニケーションをとることはできないのでしょうか? いいえ、違います。
アドラー心理学では「勇気づけのコミュニケーション」の重要性を説いています。「勇気づける」とき、相手との間に上下関係はありません。「勇気づける」とは、ありのままの相手に「共感」する態度であり、「相手の目で見、相手の耳で聴き、相手の心で感じること」「相手の関心に関心をもつこと」です。年長者が若手とコミュニケーションをとろうとするとき、どうしても、「よかれ」と思ったことを「教えてやる」という態度になりがちです。そこには、「共感」の姿勢はありません。若手からすれば「押しつけ」であり、反発を覚えても無理はありません。
ご相談の管理職の方も、「上司に飲みに誘ってもらうのはありがたいはず」「上司の過去の体験談を聴くのは面白いはず」という思いがあるのでしょうが、それが若手たちからするとどうなのか、彼らの気持ちになって考えてみる必要があるでしょう。その話はほんとうに「ありがたい」「面白い」ものなのでしょうか? そしてそれらは今彼らにとって「関心のあること」なのでしょうか? こうした問いかけを繰り返すことによって、自分のものさしによる押しつけをなくし、相手に共感する態度が身についていきます。
時間がかかるかもしれません。ですが、これを身につけられれば、相手との間に年齢差があっても、それがコミュニケーションの妨げにはならないはずです。
「相互尊敬・相互信頼」の関係を築く5つの条件
また、この「勇気づけのコミュニケーション」の大前提として、「相互尊敬・相互信頼」の関係を築くこと(「非正規社員のモチベーション・マネジメント」の回で詳しく解説しています)があります。そのために必要なのが以下の5つです。
1)感謝の気持ちを表明すること(感謝の出し惜しみをしないこと)
どんな小さなことでも「やって当たり前」と尊大な態度をとるのではなく、「ありがとう、助かるよ」と言葉に表すこと。「ありがとう」と言われて腹を立てる人はいません。
2)聴き上手に徹すること
「聴き上手である」ということは老若男女誰にでも好かれる、ということです。あなたは悩みがあるとき、「いい話をしてくれる人」と「よく話を聞いて、共感してくれる人」、どちらの人のところへ行きますか?
3)相手の(結果だけではなく)進歩・成長を認めること
その「進歩・成長」も「俺の若い頃と比べて」とか「同期の〇〇君と比べて」ではありません。目の前の彼や彼女の半年前、一年前と比較して進歩・成長したところに注目しましょう。
4)(ダメ出しではなく)ヨイ出しをすること
「ダメ出し」の反対概念であり、当たり前のよいところを伝えるのがヨイ出しです。「挨拶や電話応対が気持ちいい」「書類作成が正確・迅速」「お客様への気配りができている」など、その人のよいところを言葉に出して伝えることです。そうすると、言われた本人はさらに自力でキープし、よりよくしていってくれます。ちなみにあることないことチヤホヤおだてて相手を気分よくさせる「ヨイショ」ではありません。
5)失敗を許容し、次の成功へとつなげること
失敗をきつい言葉で叱責すると、相手の行動は委縮し、「叱られるくらいならやらないほうがマシ」となります。でも、失敗は成功の母。「なぜ失敗したんだ」「なんでこんなこともできないんだ」ではなく、「今回の失敗から学んだことは何か」「もしやり直せるなら、どこまでさかのぼってどこを改善するか」など、相手が具体的に納得のいく振り返りができるような質問をしてみてください。
日頃からしっかりとした相互尊敬・相互信頼の関係が築けていれば、ときに叱責したとしても、相手はしっかり受け止めようとします。何を言っても暖簾に腕押しというような、手ごたえのなさもなくなるでしょう。
いつの時代も、「リスペクトできる上司・先輩」と「ウザい上司・先輩」の両方がいます。どちらになるかは、その人の選んだ態度や言動で決まっていきます。職場がコミュニケーション不全に陥っていたり、管理職と部下の意思疎通がうまくいってなさそうだったりする場合、「勇気づけのコミュニケーション」や「相互尊敬・相互信頼」を育む5つのことについて、行動を促してみてください。これは、目の前にある問題の解決のためだけでなく、社内にお互いを尊重しあう勇気づけにあふれた風土を醸成していくためにも、全社的に取り組んでいっていただきたい課題でもあります。
永藤かおる(ながとう・かおる)
(有)ヒューマン・ギルド研修部長。心理カウンセラー。1989年、三菱電機(株)入社。その後ビジネス誌編集、海外での日本語教育機関、Web 制作会社など、20年以上のビジネス経験のなかで、人事・採用・教育・労務管理等に携わる。どの現場においてもコミュニケーション能力向上およびメンタルヘルスケアの重要性を痛感し、勤務と並行して学んだアドラー心理学を生かして現在㈲ヒューマン・ギルドにてカウンセリング業務および企業研修を担当。著書に『「うつ」な気持ちをときほぐす 勇気づけの口ぐせ』(明日香出版社)、PHP通信ゼミナール『リーダーのための心理学 入門コース』(監修:岩井俊憲、執筆:岩井俊憲・宮本秀明・永藤かおる、PHP研究所)などがある。