戦略人事を実現するには?~階層別教育・人材育成の見直し方も解説
2026年6月25日更新

戦略人事とは、経営戦略を人と組織の面から実現する人事のあり方です。言い換えれば、人事部が「人事労務管理や研修を実施する部署」から、「経営戦略を人と組織で実現する部署」へ変わることといってもよいでしょう。多くの企業で戦略人事が進まない理由は、必ずしも制度や仕組みの不足ではありません。経営戦略が人材要件に翻訳されておらず、管理職・現場まで落ちていないからではないでしょうか。
INDEX
戦略人事とは経営戦略を遂行するためのもの
「戦略人事」は「戦略的人的資源管理(Strategic Human Resources Management)」の略で、自社の経営戦略を実現するための人材マネジメントのことです。経営目標の達成と人材マネジメントを紐づけた人事のあり方、考え方であり、これまでの日本企業の人事部ではやや欠けていた視点かもしれません。
1990年代にアメリカの経済学者デイブ・ウルリッチ氏が提唱し、欧米の企業では戦略人事は当たり前のものとなっています。日本では注目を集めているものの、胸を張って「実践している」といえる企業は少ないでしょう。
人的資本経営と戦略人事
戦略人事は、人的資本経営の一環として求められるものです。「人的資本経営」とは人材を「資本」として捉え、その価値を最大限に引き出して中長期的な企業価値の向上につなげる経営手法です。これまで人材は「資源」(human resources)と考えられてきました。人件費という言葉もあるように、資源でありコストという考え方です。
昨今の成熟市場では、企業は技術力だけで競合と差別化を図ることが難しくなってきました。そこで、人材を「資本」(human capital)と考えて積極的に投資し、より大きなリターンとして革新的なアイデアやイノベーションをもたらそうと考える企業が増えてきたのです。企業の持続的発展のために人的資本経営への取り組みを重視する投資家も増えています。経営戦略の確実な遂行をめざす戦略人事においても、人材を資本とみるか、資源とみるかで、自ずと手の打ち方は変わってくるでしょう。
従来の人事戦略との違い
これまでの人事戦略は、日々の人事全般に関わる業務で発生する課題を抽出・改善し、生産性を高めていく戦略が主でした。例えば、人材不足を解消するために採用活動を計画する、社員のモチベーションを高めるために人事評価制度を見直すといった内容があげられます。
これに対し戦略人事は、経営目標を達成するための戦略を策定することといえます。より高いビジネスの理解が求められ、競合他社との差別化などを目的に人材の適切なマネジメントを行います。具体的には、経営戦略と関連づけた採用や人材育成・配置、評価などがあげられます。
戦略人事における採用活動の一例となるのが、企業側から人材をスカウトするダイレクトリクルーティングです。定期採用や求職者の応募を待つ従来の手法と異なり、自社から積極的にアプローチして最適な人材を獲得するという活動は、経営戦略を達成するための戦略人事の典型といえるでしょう。
また、経営戦略を実現するために、階層と職能に応じた必要なスキル・能力を洗い出し、不足を補うための人材育成も戦略人事には欠かせません。ただ儀式的に社員を集めて研修をするだけでありません。体系的、計画的に知識やスキルを高めるために企業内大学(コーポレートユニバーシティ)を設置する、自己啓発支援などで学びの機会を提供するなど、経営目標達成のために社員がスキルアップを図るサポートを行うことも戦略人事のひとつといえるでしょう。
戦略人事が注目される背景
戦略人事が注目されるのは、少子高齢化による労働人口の減少により採用市場の競争が激化していることも理由のひとつです。経営戦略の達成に必要な人材を確保するのはますます困難になってきており、どの企業もパフォーマンスの高い人材確保に苦慮しています。人材の就業ニーズや価値観・働き方も多様化しており、それに合わせた企業側の変化も必要です。
また、近年はグローバル化の進展、AIなどのテクノロジーの進歩もめざましく、事業環境は激しく変化しています。グローバル化による世界市場への移行により、人材の多様化もこれまでとは比較になりません。変化に対応し、イノベーションをもたらす人材、組織風土づくりも急務になっています。人事部門もこれまでのような日常的な管理業務を行うだけでなく、経営者の視点に立って人材を採用・育成・活用する戦略人事の考え方が求められるようになっているのです。
なぜ、人事は変われないのか
戦略人事という言葉は、人事部門の人であればだれもが知っているはずです。その必要性に異を唱える人も少ないでしょう。ただ、日本企業ではその重要性を理解しながらも、実際には従来と何も変わっていないというのが現状かもしれません。
まず、戦略人事は経営戦略の遂行が目的であるわけですから、経営層からの明確な経営戦略の提示がなければなりません。人事部門はこの点を認識し、トップの方針、戦略をしっかり理解しなければなりません。
そこで問われるのが「トップは人事をどれだけ重視しているか、信用しているか」ということです。「企業は人なり」とは多くのトップが口にします。しかし、大事なことはそれを具体的な教育研修や評価制度、職場環境づくりといった人事施策に落とし込み、実行することです。この点まで実行できている企業は少なく、戦略人事で人事部門の真価が問われるポイントといえるのです。
また、従来の情実中心の人事から経営目標にリンクする戦略人事にシフトするうえでは、大きな変化を余儀なくされます。社員の働き方にも影響がありますし、評価制度の改革は痛みを伴うこともあり、社員の反発を招くかもしれません。そのため、組織そのものが現状維持傾向となり、戦略人事への移行を難しくしているといえるでしょう。
これまでの人事部の役割は業務は給与や労務管理など定型的なオペレーション業務が中心でした。もちろん採用や教育研修、人事評価制度の整備など、企業業績に影響する重要業務も担ってはきましたが、成熟市場におけるイノベーションの必要性が高まる中で、経営戦略の遂行にどこまで貢献できていたかという点には疑問が残ります。
そうした中で出てきたのが戦略人事の考え方です。戦略人事は経営戦略を実現するために必要な人材のマネジメントを目的とします。そのため、経営層のパートナーとなって積極的に経営に参画し、人事施策を行うことが求められるようになったのです。定型的なルーティンワークを行い、既存事業を維持するための制度や仕組みを整備するだけでなく、経営戦略に直接関わり、市場での優位性を保つために人材面から貢献していくことが強く求められる時代になったのです。
戦略人事に必要な機能

戦略人事における人事部門は従来のような管理業務ではなく、経営者のビジネスパートナーとして積極的に関わる姿勢が求められます。そのために必要な機能は、次に紹介する4つです。
HRビジネスパートナー(HRBP)
HRBPとは「Human Resource Business Partner」の略です。人事(HR)とビジネスパートナー(BP)が協働する機能を指します。戦略人事のもとで人事は経営者や現場リーダーのパートナーとなり、経営を協働していかなければなりません。そのためには、経営トップやリーダーの考え方や企業方針の深い理解が必要です。
また、人事は会社側と現場の橋渡しも担います。会社の理念や方針を現場に伝えるとともに、従業員のニーズや現状を把握し、戦略策定を講じていくことが大切です。
センター・オブ・エクセレンス(CoE)
「エクセレンス(excellence)」とは優秀という意味で、センター・オブ・エクセレンスは人事業務について優秀な知識・スキルを持ち、コンサルティング業務を行う機能のことです。主にビジネスパートナーをサポートする機能を担います。
例えば、採用活動についてはただ選考業務を行うだけでなく、人材要件や採用方法、採用時期など具体的な計画を策定することがCoEの役割です。そのほか、人事評価や人材育成などの制度設計・開発などを行います。
戦略人事において人事はプロフェッショナルとなり、経営層や現場の従業員をサポートしなければなりません。
オペレーション部門(OPs)
オペレーション部門は、戦略人事の施策を運用する機能です。労務管理や従業員の勤怠管理・給与管理・各種手続きなど従来の人事で行ってきた機能を担います。戦略人事でも日常業務を効率的にこなしていくことが欠かせません。必要に応じ、アウトソーシング化の推進も行います。
戦略人事のもとではオペレーション部門もただ事務作業をこなすことにとどまらず、CoEが策定した各種施策を運用・管理していく役割があります。
タレントマネジメント
タレントマネジメントとは、従業員一人ひとりの能力や経験、適性、キャリア志向などを把握し、採用・配置・育成・評価・登用に活かす取り組みです。
戦略人事では、経営戦略の実現に必要な人材を明確にし、その人材をどのように確保・育成・配置していくかを考える必要があります。そのためには、従業員のスキルや強み、今後の成長可能性を可視化し、組織全体で活用していくことが欠かせません。
たとえば、次世代リーダー候補の発掘、管理職への登用、専門人材の育成、適材適所の配置などは、タレントマネジメントの重要な領域です。人材情報を蓄積・分析することで、勘や経験だけに頼らない人材活用が可能になります。
人材開発が個人の成長や能力開発に焦点をあてるのに対し、タレントマネジメントは、その人材を組織の中でどのように活かすかに重点を置きます。人材の育成と活用を結びつけることで、戦略人事の実効性を高めることができます。
OD(組織開発)&TD(人材開発)
ODとは「Organization Development」の略で、組織開発を意味します。企業理念を社内に浸透させ、組織文化を醸成しながら戦略人事のために必要な組織開発を行う機能です。
TDは「Talent Development」の略で、人材開発という意味です。理想の組織を作るために必要な人材を育成し、活躍してもらうことを目的とします。
ODが組織にフォーカスして組織をあるべき方向に導くのに対し、TDでは個人に焦点をあて、経営戦略の達成に必要な知識やスキル、マインドを養います。
ODとTDは表裏一体の関係にあり、どちらが欠けても成り立ちません。両方の達成を目指すことが戦略人事の推進に不可欠です。
戦略人事の進め方
戦略人事を実際に導入し推進していくためには、ステップを踏む必要があります。戦略人事は経営戦略から人事の諸活動に落とし込むため、まずは経営戦略の理解が必要です。
順にみていきましょう。
経営戦略の理解を深める
戦略人事の目的は経営戦略の実行であり、会社ビジョンの確認は必要です。何を達成し、現状の課題や改善点はどこにあるのかを見極めていかなければなりません。経営者の視点に立って理解することで、企業の方向性に合わせた採用や人材配置、人材育成ができます。
経営戦略の理解を深めるにあたり、経営層にその意識が不足しているという課題があります。経営戦略やビジョンが明確でない場合は、その策定を進めなければなりません。経営戦略は戦略人事の基盤であり、経営戦略の策定を通して人的マネジメントを行いやすい組織に変えていく必要があります。
経営陣が明確な経営戦略を策定していても、人事部門が戦略人事についての理解が進んでいないと、導入は難しくなります。人事担当者は従来の人事制度の考え方から抜け出し、経営者と同じ目線で人材マネジメントを行うことが求められます。自社内に適任者がいない場合は、専門的な知識を持つ人材の新規採用なども必要になるでしょう。また外部のコンサルティングの活用も選択の一つです。
経営目標達成に必要な人材像(コンピテンシーモデル)を明確化する
経営戦略の理解を深めることで、達成に必要な人材像が見えてきます。経営戦略を達成するために必要なスキルや能力などから、求める人材像を設定しましょう。「自社に合う人材」といった抽象的な人物評価ではなく、抽出した課題の解決に応えられる明確な人材要件を定義します。いわゆる「コンピテンシーモデル」を具体化し、明示することがポイントです。
人材確保のロードマップを描き、人事制度を再構築する
人材像を定めたら、人材確保の施策を検討します。とはいえ、人材確保はどこの企業においても重要な課題であり、希望する人材をすぐに採用できるとは限りません。採用施策の見直しを行うとともに、現有戦力の育成に力を注ぐことが大切です。そのためにも中長期の経営計画や経営目標をトップと共有し、ロードマップを描いて、いま打てる手を着実に打っていくという姿勢が求められます。人事制度の再設計にも取り組みましょう。
社内に戦略人事を周知する
社員に戦略人事の推進を理解してもらうことも忘れてはなりません。旧来の終身雇用や年功序列といった制度にどっぷりつかった社員の中には、戦略人事について「総論賛成、各論反対」というようなことはよく起こります。
社員の理解・共感を得るためにはどのような説明が必要か、どのように戦略人事を浸透させるか。経営陣と協力してすすめていく必要があります。もっとも戦略人事は企業の競争力確保、イノベーションの推進、やりがいある職場づくりなど、社員にもメリットがあります。ていねいに説明をし、社員の理解・共感を得てすすめていきましょう。
戦略人事を実現するには階層別教育の見直しも
戦略人事を実現するには、経営戦略を人材育成に落とし込むことが欠かせません。採用や配置、人事制度の整備だけでは、経営戦略は現場の行動に変わらないからです。そこで重要になるのが、階層別教育の見直しです。
階層別教育とはご存じのとおり、新入社員、若手社員、中堅社員、管理職、経営幹部など、階層ごとに求められる役割や能力に応じて行う教育のことです。従来は、役職や年次に応じた研修として実施されることが多くありました。
しかし、戦略人事の視点では、階層別教育は単なる研修メニューではありません。経営戦略を、各階層に求める役割・能力・行動へ翻訳するための仕組みです。
たとえば、新任管理職には、部下を管理する力だけでなく、事業方針をチームの目標に落とし込み、メンバーの成長を支援する力が求められます。中堅社員には、現場の中核として後輩を支え、課題解決を推進する役割が期待されます。若手社員には、指示を待つだけでなく、自律的に学び、主体的に行動する姿勢が必要になります。
このように、経営戦略から必要な人材像を定義し、階層ごとの役割期待に落とし込むことで、階層別教育は戦略人事を実現するための重要な手段になります。
階層別教育を見直す際は、前年踏襲で研修テーマを決めるのではなく、まず自社の経営課題や事業戦略を確認することが大切です。そのうえで、各階層にどのような役割を期待するのか、どのような能力・行動を身につける必要があるのかを整理します。
戦略人事とは、人事部だけが新しい制度を作ることではありません。経営戦略を実現するために、人と組織の成長を設計することです。その意味で、階層別教育は、戦略人事を現場に根づかせるための実践的な入口といえるでしょう。
まとめ:経営戦略の実現を支える戦略人事
戦略人事とは経営戦略を実現するため、人材を最大限に活用するマネジメントです。企業の経営目標や経営計画の実現と人材マネジメントを直結させ、経営を支えていくという重要な責務があります。そのためにも、戦略人事の担い手には、 専門知識と経験を持つプロフェッショナルが求められます。経営戦略についての深い理解も必要です。そう考えれば、人事部門の役割は今後ますます大きくなり、やりがいを強く感じられる仕事になるのではないでしょうか。



































































![[新版]できる社員の仕事術マスターコース](/atch/tra/IBI.jpg)
![[新版]中堅社員パワーアップコース](/atch/tra/IAJ.jpg)




















![[新版]会社の数字入門コース](/atch/tra/AFC.jpg)












![[金融編]「美しいペン字」練習講座](/atch/tra/DFC.jpg)





![[新版]ケースで学ぶ 実践!コンプライアンス ~社会人として求められる考え方と行動~](/atch/el/95139_01.jpg)
![[ケーススタディ]今こそ知っておきたい コンプライアンス50 ~違反防止で終わらない。価値を高める行動へ~](/atch/el/95140_01.jpg)















![[テレワーク時代の]社会人やっていいこと・悪いこと](/atch/dvd/I1-1-065.jpg)






















![ホスピタリティ・マインド[実践3]心くばりで感動を共有しよう](/atch/dvd/A1-2-036-1.jpg)
![ホスピタリティ・マインド[実践2]気くばりで顧客満足度アップ](/atch/dvd/A1-2-035-1.jpg)
![ホスピタリティ・マインド[実践1]品格あるマナーで好感度アップ](/atch/dvd/A1-2-034-1.jpg)







![私たちのコンプライアンス[4]](/atch/dvd/I1-1-073.jpg)






![ストレスチェック制度対応 [改訂版]セルフケアからはじめるメンタルヘルス・マネジメント](/atch/dvd/I1-1-040.jpg)





![みんなで実践[異物混入対策]SNS炎上防止とクレーム対応](/atch/dvd/I1-1-035.jpg)
![みんなで実践[異物混入対策]現場改善で異物をなくす](/atch/dvd/I1-1-034.jpg)










































