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松下幸之助「カーラジオ開発」に学ぶ発想の転換

2022年1月 5日更新

松下幸之助「カーラジオ開発」に学ぶ発想の転換

2022年、新しい年がスタートしました。ここ数年、世界と比較して日本経済の不振が際立っていましたが、今年はその状況から脱却できるでしょうか。わが国の経済を支える日本企業が復活するために必要なのは、大胆な発想で組織のあり方や仕事の進め方を見直し、新しい価値を生み出すことでしょう。

松下幸之助(PHP研究所創設者/パナソニックグループ創業者)は、困難に直面するたびに斬新な発想でイノベーションを起こし、事業を発展させてきました。本稿では、幸之助のエピソードを取り上げつつ、そこから今の時代を生きる私たちが何を学ぶべきか、考えてみたいと思います。

松下幸之助のエピソード「カーラジオの開発」

昭和36年、カーラジオを製造していた松下通信工業(現パナソニックモバイルコミュニケーションズ)に、納入先のトヨタ自動車から、価格を20%下げてほしい、という要望が来ました。その対応を幹部が協議しているときに、松下幸之助が通信工業を訪れました。
「今日は何の会議や」
「トヨタさんから大幅な値引き交渉がありまして......。それで会議をしているのです」
そこで幸之助はこう言いました。
「この話は断わるのが筋かもしれん。しかし、トヨタさんは、どうしたら日本の自動車産業を維持できるか苦しんでいる。それを考えると、まず"できない"という考えを捨てること。そして、一から新しい方法を生み出してみてはどうか。5%下げるより30%下げるほうが容易な場合が多い。それは発想が変わるからだ。この際、思い切ってラジオの設計そのものを見直してみてはどうか。部分的な改良ではそれだけの値下げはできん」
その後1年あまりして20%の値下げに応ずることができ、しかも適正な利益が生まれるようなカーラジオが誕生しました。抜本的な設計変更と、生産ラインの見直しによって、技術者たちの努力が実ったのです。

自由な発想を阻むもの

このエピソードが物語っているのは発想の転換の大切さです。仕事をするうえで、過去の経験や常識を参照することは大切ですが、それらに固執し過ぎると、自由な発想が妨げられかねません。
経営者が判断を間違える理由の一つに、「過去の成功体験」があると言われます。かつて自分が現場の第一線で仕事をしていた20年前の成功体験をベースに意思決定をする結果、現在の経営環境と合っていない施策をとってしまうのです。
変化の激しい環境下では、陳腐化した過去の成功体験や常識は足かせになります。したがって、それらを意図的に捨て去って(=学習棄却;unlearning)、ゼロベースで発想する必要があるのです。

現実を直視する「素直な心」

「万物流転」ということばのとおり、世の中は常に変化していますので、とらわれのない、オープンな心で目の前の事象をありのままに捉える必要があります。
松下幸之助は、そうした心を「素直な心」と表現し、生涯、その大切さを説きました。
素直な心になるためには、人の話に耳を傾けたり(=傾聴)、日々の内省を通じて自分を客観視(≒メタ認知)したり、常識を疑う(≒クリティカルシンキング)などの取り組みを継続する必要があります。一朝一夕でなれるものではありませんが、素直な心に近づくことで、ものごとの本質を見抜く洞察力や判断力が高まるのです。

知恵を出す努力からイノベーションが生まれる

かつて日本経済が強さを発揮していた時代には、松下幸之助や本田宗一郎氏(本田技研工業・創業者)、盛田昭夫氏(ソニー・創業者)など、名経営者と言われるリーダーたちが各企業・各業界を牽引していました。彼らは、資質や環境面で恵まれた状況にはありませんでしたが、努力と知恵で難局を乗り越え、偉業を成し遂げてきたのです。
現代を生きる私たちビジネスパーソンが学ぶべきは、まさにこの点です。つまり、先行きの見えない状況のもとでも、考えて考えて考え抜き、知恵を絞り出す努力を続けることです。そして、その過程で新しい発見や創造がなされ、イノベーションが実現するのではないでしょうか。

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的場正晃(まとば・まさあき)
PHP研究所人材開発企画部部長
1990年、慶應義塾大学商学部卒業。同年PHP研究所入社、研修局に配属。以後、一貫して研修事業に携わり、普及、企画、プログラム開発、講師活動に従事。2003年神戸大学大学院経営学研究科でミッション経営の研究を行ないMBA取得。中小企業診断士。

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