タレントマネジメントとは? 目的や得られる効果、導入手順などを解説
2023年9月28日更新
タレントマネジメントとは、従業員の能力やスキルを把握し戦略的に活かす、人材マネジメントの手法の1つです。労働力人口の減少や市場を取り巻く環境の変化により、導入する企業は増えつつあります。本記事ではタレントマネジメントの概要や目的、実施するメリットや導入手順などを解説します。
INDEX
タレントマネジメントとは
タレントマネジメントとは人材マネジメントの手法で、従業員が持つ能力やスキル、資質などを把握し、企業経営に戦略的に活かす取り組みのことです。従業員と組織が発揮するパフォーマンスを最大化させ経営目標を達成することが、タレントマネジメントを導入する主な目的です。ここではタレントマネジメントの「タレント」の意味や、タレントマネジメントの発祥、日本企業における状況を解説します。
「タレント」とは
タレントには「才能・素質」という能力と、「才能がある人」という人を指す意味の2つがあります。企業活動においての「タレント」とは才能や素質だけでなく、その資質を持った人材そのものを指すことが一般的です。したがって、タレントマネジメントの「タレント」も、後者の意味で使われることがほとんどです。
従来は、優秀な人材を対象として取り組むことが主流でしたが、タレントマネジメントシステムの普及などによって、全社員を対象にする企業が増えつつあります。タレントマネジメントシステムとは、社員のスキルや経験値などをデータ化し、一元管理するツールのことです。
タレントマネジメントの発祥
タレントマネジメントという言葉は、1990年代に米国の大手コンサルティング会社のマッキンゼー&カンパニー社が発信した、「War for talent(人材育成競争)」という言葉が発祥とされます。
欧米企業を中心に広まったのは、2000年以降のことです。当時は、「優秀な人材の早期発掘、適正配置、育成支援に至る一連のプロセスを統合的に捉える人材マネジメント」として浸透していきました。当初は非凡な人材をいかに獲得するかが重視されていましたが、やがて現場のニーズに合った人材の確保を目指す取り組みへと変化しています。
日本企業における状況
日本企業においても、タレントマネジメントへの関心は、年々高まりつつあります。大手企業ほど導入割合が大きく、タレントマネジメントに対する投資も増加傾向にあるといえるでしょう。また社員だけでなく、アルバイトやパートタイムの従業員も対象とすることも特徴です。
タレントマネジメントが注目される理由
タレントマネジメントが注目されるのは、主に以下のような理由によると考えられます。
●人手不足感が慢性化している
●グローバル競争が激化している
●人材の多様化が進んでいる
●市場が急速に変化している
ダイバーシティ&インクルージョンを推進するためには、一人ひとりが能力を最大限に発揮できる体制と環境を整えることが不可欠です。従業員の能力やスキルを把握し戦略的に活かすタレントマネジメントの導入をふくめて、従来の採用法や人材育成の戦略を、根本から見直す必要性を感じている企業も少なくありません。
タレントマネジメントを導入する目的
タレントマネジメントの目的は、人事戦略を通じて売上や利益を上げる、事業拡大するなどの企業の経営目標を達成することです。具体的には、採用や人事配置、目標設定・評価などの通常は個別で行われている施策を統合し、各従業員が持つ能力を最大限に発揮できるように人材をマネジメントしていきます。
タレントマネジメントを行うことが目的になるといったような、手段が目的化してしまう事態は避けなければなりません。
タレントマネジメントの効果
タレントマネジメントを取り入れることによって得られる効果としては、以下のようなものが挙げられます。
●人材の発掘
●人材の育成
●人材の定着
●公平な評価
●スムーズな部署連携
それぞれの効果を確認しましょう。
人材の発掘
タレントマネジメントの導入によって、これまでは把握できていなかった各従業員の強みや意欲、実績などのデータが得られます。それによって、従業員が持つ潜在スキルを把握し、社内で埋もれている人材を発掘できます。
人材の育成
タレントマネジメントの活用により、従業員が持つスキルや強みなどを可視化でき、企業が求める人材像とのギャップを明確にすることが可能です。その差を埋めるための、効果的な教育を実施できます。必要とされる業務の経験を積ませたり、必要に応じて研修や能力開発プログラムを実施したりします。
人材の定着
タレントマネジメントは、育成した人材が社内に定着する効果も期待できます。従業員の能力やスキルに応じたポジションや報酬の提供、本人が描くキャリアビジョンと企業の方向性のすり合せなど、社内で活躍し続けてもらうための人事施策を行う基盤となります。
公平な評価
タレントマネジメントによって、主観の入らない、公正な人事評価の実現も見込めるでしょう。従業員の能力やスキル、キャリアなどのデータが一元管理され、スコアリングできるためです。従業員に納得性の高い評価制度は、モチベーションの向上につながります。
スムーズな部署連携
部署間のスムーズな連携も、タレントマネジメントを導入することで得られる効果の1つです。各従業員のデータを一元管理するため、それぞれが持つスキルや能力を全社的に活用しやすくなります。適性適所の配置転換や、柔軟な業務の振り分けが可能になるでしょう。
タレントマネジメントによって得られるメリット
ここまで、タレントマネジメントの導入効果について確認してきました。タレントマネジメントの導入効果によって得られるメリットは、主に以下の3つです。
●優秀な人材の獲得
●戦略的な人事の実現
●従業員エンゲージメントの向上
優秀な人材の獲得
タレントマネジメントを導入し、従業員に対して適切な育成や公正な評価を実施する企業は、イメージが向上します。その結果、採用活動においても求職者から好意的に受け止められ、優秀な人材の獲得が可能となるでしょう。
戦略的な人事の実現
タレントマネジメントの最大の目的は、人事戦略を通じて売上や利益を上げる、事業拡大するなどの企業の経営目標を達成することであることは、すでにお伝えしました。タレントマネジメントを導入し、経営目標達成に向けて従業員のスキルや能力に応じた育成や配置を行うことは、戦略的な人事にほかなりません。
従業員エンゲージメントの向上
タレントマネジメントによって適材適所の人材配置や適切な人材育成を行うことで、従業員エンゲージメントが向上するメリットがあります。従業員エンゲージメントとは、「企業に貢献したい」という従業員の自発的な意欲や、企業に対する愛着のことです。従業員エンゲージメントが高まると離職を抑制する効果が見込めます。
従業員エンゲージメントを向上させるには、その企業で働くことに対して喜びややりがいを感じてもらわなければなりません。そのためには、従業員一人ひとりの能力やスキル、キャリアビジョンに沿ったポジションや仕事を割り振る必要があります。タレントマネジメントは従業員のスキルや能力、やりがいを感じる仕事などを一元管理して可視化できる仕組みのため、納得感を得られる人材配置や育成が可能になります。
タレントマネジメントを実施する際のポイント
タレントマネジメントを成功させるためのポイントとしては、以下の2点が挙げられます。
●本来の目的を理解する
●社内で必要性を共有する
タレントマネジメントは、ほとんどの場合、経営目標を達成するために実施する取り組みです。最終的な目的が曖昧なまま始めてしまうと、制度やシステムの導入自体が目的化するリスクが懸念されます。
また、実施の必要性を社内で十分に共有することも、タレントマネジメントを成功させるために不可欠です。経営トップや人事部のみがその重要性を理解していても、現場の管理職や、対象となる一般の従業員にまで浸透していなければ、導入の成果は得られないでしょう。
特に、この取り組みの成功の鍵を握るのは、実際に従業員を育成する各部署の管理職です。従業員が潜在的な能力を発揮できるようになるか、期待どおりの成長を遂げるかは、管理職の理解や力量に大きく左右されます。部下の成長を促せない、あるいは阻害するといった管理職がいる場合は、配置転換などの対応を検討する必要があるでしょう。
タレントマネジメントを導入するステップ
タレントマネジメントを導入するステップは、以下のとおりです。
1.現状を把握する
2.課題を洗い出す
3.目標を設定する
4.結果分析と運用の見直しを行う
1.現状を把握する
はじめに、タレントマネジメントの対象となる従業員の人数を把握しましょう。そして各人のスキルや評価、目標などの情報をデータとして可視化できる状態にします。
なお、従業員のデータは常に最新の情報にアップデートしておく必要があるため、各部署に対して、日頃からデータ共有やヒアリングの依頼をしておくことが大切です。
2.課題を洗い出す
現状把握ができたら、可視化したデータからみえてくる課題や、経営戦略の実現に向けた人事戦略と照らし合わせて埋める必要のあるギャップを洗い出し、共有します。この工程は、人事部だけでなく経営層を巻き込んで行うことが重要です。
3.目標を設定する
経営戦略の実現に向けて洗い出した課題をもとに、タレントマネジメントの導入によって企業として達成したい目標を設定します。目標として挙げられるのは、以下のような内容です。
●多様性を意識した人材管理
●従業員エンゲージメントの向上
●次世代リーダー人材の選抜と育成
たとえば目標を「次世代リーダー人材の選抜と育成」とするのであれば、どのようなスキルや能力を持った人材を何人程度選抜するのかといったことを、この段階で詳細に決めましょう。
4.結果分析と運用の見直しを行う
タレントマネジメントの運用を開始します。設定していた目標と運用結果のギャップを確認し、その要因を分析します。必要に応じて目標の軌道修正や、運用する中で明らかになった課題の抽出を行いましょう。
タレントマネジメントシステムの活用が効果的
タレントマネジメントシステムとは、従業員が持つスキルや経験値、評価などをデータ化して、人事部あるいは企業として一元管理するツールのことです。タレントマネジメントでは、これらの膨大な情報を取得・管理するため、一元化して管理できるシステムを利用すると効率的です。ここからは、タレントマネジメントシステムの主な機能や選び方を解説します。
主な機能
製品によって詳細は異なるものの、タレントマネジメントシステムには、人事配置や採用、キャリア開発などに役立つ機能が搭載されています。一般的にタレントマネジメントシステムに搭載されている機能は、以下のとおりです。
●スキル・プロフィール機能
従業員の資質や適性・考え方・スキル・知識・経験などをデータベース化する、タレントマネジメントシステムの根幹的な機能
●採用管理機能
求人票の作成や応募者のスクリーニング、選考のスケジュール管理を行う機能など
●教育・研修管理機能
研修プログラムの作成や受講者の登録、進捗管理、受講履歴の管理を行う機能など
●キャリア開発機能
職務あるいは期待される人材像とのギャップにもとづき、キャリア開発計画案の策定や実施をサポートする機能など
●パフォーマンス管理機能
従業員別の目標設定や実績・評価管理、フィードバック管理を行う機能など
●コンピテンシー管理機能
高い業績をあげている従業員の行動特性を抽出し基準として、ほかの従業員を評価する機能など
●後継者育成・管理機能
重要な役職につく者の後継者の準備を支援する機能。後継者としてポテンシャルの高い人材を検索、あるいは後継者に必要な要素を可視化できる
選び方
タレントマネジメントシステムは、以下のような点に着目して選ぶとよいでしょう。
●目的に合った機能が搭載されているか
●カスタマイズ性に優れているか
●操作しやすいか
評価制度の運用や人材育成など、自社の課題に対応した機能を搭載したシステムを選ぶことが基本です。柔軟にカスタマイズできるかどうかもチェックしましょう。組織改正やその時々のニーズに合わせて、使いやすくカスタマイズできる仕様のシステムでないと、次第に使われなくなるでしょう。操作がしやすく、ITの知識がない従業員でも使いこなせることも重要です。
まとめ:タレントマネジメントを活用して企業力を強化させよう
タレントマネジメントとは、従業員が持つ能力やスキル、資質などを把握し企業経営に戦略的に活かす、人材マネジメントの手法です。労働力人口の減少が今後も続くことが想定される状況において、現有の人材が持つ能力やスキルを最大限に引き出し、活用していくことが求められます。
タレントマネジメントを成功させるには、導入する目的を正しく理解することや社内で必要性を共有することが不可欠です。タレントマネジメントを活用して、企業力を強化させましょう。