「強い現場」に共通する2つの条件とは
2017年10月30日更新
「現場」「現場力」ということばがビジネス用語として定着した感があります。そこで今回は、企業の競争力の源となる「強い現場」、そこに共通する条件について、事例を通じて考えます。
「現場」の定義
年明けの仕事始めの日に、企業・団体のトップが語る『年頭所感』では、「今年は現場の力を強化して競争力を高めます」
「変化に機敏に対応する強い現場づくりが当社の課題です」
「権限移譲によって現場を強くし、お客様満足度向上に取り組みます」
など、現場に言及したメッセージが近年増加傾向にあります。
今や、「現場」はビジネス用語として定着した感があることばですが、その定義にはさまざまなものがあります。本稿では、「現場」とそれに付随する概念について、次のように定義づけたいと思います。
・「現場」
仕事の第一線、すなわち成果が具体的に生み出される場所のこと
・「現場力」
現場において望ましい成果を上げ続ける力のこと
・「強い現場」
メンバー全員がやる気と主体性をもっていきいきと活動し、各自の個性と能力が存分に発揮され、それがある方向に向かって結集されて前進し続けている現場のこと
なぜ「現場」が大切なのか
そもそも、なぜ現場が大切なのでしょうか? 変化の激しい現代の経営環境のもとでは、「過去のデータ」を分析しても将来を見通すことが難しくなってきました。今、必要なのは、目の前で起きている現実を見て、聞いて、そこから将来を洞察する知恵を生み出すことです。「神は現場に宿る」ということばの通り、問題を乗り越える知恵や事業を発展させるカギが満ち溢れている場が現場なのです。
一橋大学名誉教授 野中郁次郎氏が指摘しているように、「現場に行って脳と身体の両方で何かを直感し、イマジネーションで起承転結を考える――これを実践することなく、科学的に分析したとたん、細部のプロセスはすべて抹消されて、その意味が希薄になってしまう」(※1)のでしょう。だからこそ、リーダーは積極的に現場に出て現物と現実にふれ、将来につながるヒントを感じ取る努力を怠ってはいけないのです。
※1 『日本企業にいま大切なこと』野中郁次郎/遠藤功共著(PHP新書)
強い現場をつくる条件~「使命感」と「関係の質」
ではどうすれば現場を強くすることができるのでしょうか? その問いに対する答えを得るためにPHP研究所では、強い現場の定義に適った組織をピックアップし、その組織の風土やマネジメントの特徴などをつぶさに分析しました。
「強い個人と組織」を実現した取組み事例
◎高級自動車販売店「L社」
卓越したCSと業績を誇る「日本一のカーディーラー」
[実践内容]
・経営理念、行動指針を毎朝唱和する
・上記を意識して全スタッフが仕事をする
・閉店後、ミーティングを行い、理念・行動指針の実践状況を全員で振り返る
・ミーティング内容は本社経営陣と共有する
→理念・行動指針と日常行動が一致するようになる
◎ホームセンター「K社」
理念の浸透によって、離職率が大幅に低下
[実践内容]
・店長およびエリアマネジャーを対象に「経営理念+コーチング」研修を実施
・店長自身が、K社の理念を腹に落とし、店舗スタッフに伝える
・店長のコミュンケーションスタイルを、コーチング型のコミュニケーションに転換
→やりがいの向上、定着率の向上
◎外食チェーン「I社」
価値観の共通言語化で業績上昇
[実践内容]
・全店長が、I社の価値観に近い、某セミナーを受講
・セミナーの内容を店長が現場スタッフに教える
・セミナーで教えている概念を見える化
・仕事の中でその概念を実践させ共通言語化する
→従業員同士のコミュニケーションが良化
→定着率の向上
→業績向上の循環が実現
◎金融機関「N社」
本音の語り合いによって、業績急伸
[実践内容]
・N社の存在理由についてワークショップで語り合う
・職場の人間関係を良くするためのアイデアも本気で語り合う
→自分たちの仕事の意味を理解
→やらされ感から解放
→一人ひとりの内発的やる気で仕事をする
→互いに支えあう職場風土へ
→業績の急伸
その結果、強い現場に共通している特徴は「使命感の共有」と「関係の質の向上」であることが判明したのです。
もし、組織を構成する一人ひとりが仕事に対する使命感をもっていなければ(あるいはもっていたとしても低ければ)どうなるでしょうか。やりがい・働きがいを感じにくく、仕事で成果を出そうというこだわりや、誰かのためにがんばろうという意欲が高まりません。その結果、目標達成に向かう実行力が上がってこないでしょう。
一方で、組織の中の人間関係の質が良好なものでなければ、どういうことが起るでしょうか。お互いに味方であるという信頼関係が揺らいでいる状況のもとでは、自己開示し合うこともなく、相手の立場に立って発想し行動するということも少なくなります。その結果、一人ひとりがバラバラな「烏合(うごう)の衆」の状態に陥り、総合力が高まらないでしょう。
したがって、「使命感の共有」と「関係の質の向上」という2つの要素がなければ、強い現場をつくることはできないのです。パナソニック創業者であり、PHP研究所創設者 松下幸之助の経営の進め方もまさしく、この2つの要素にこだわったものでした。
松下幸之助の「5つの原則」
そして、松下幸之助の経営の進め方の根底にある考え方を、現代のマネジメント環境に当てはめて解釈し直し、整理・体系化した概念が「5つの原則」なのです。この「5つの原則」をフレームワークとして、自社・自部門の現状を見直すことによって、「使命感の共有」と「関係の質の向上」を実現するための課題が明らかになりますし、その課題を職場で実践することによって、強い現場をつくることができるのです。
的場正晃(まとば・まさあき)
PHP研究所人材開発企画部部長
1990年、慶應義塾大学商学部卒業。同年PHP研究所入社、研修局に配属。以後、一貫して研修事業に携わり、普及、企画、プログラム開発、講師活動に従事。2003年神戸大学大学院経営学研究科でミッション経営の研究を行ないMBA取得。中小企業診断士。