コミュニケーション力を高める「図解化」の技術――4種類の図形型とは?
2021年5月25日更新
コミュニケーションが十分でなかったために発生する仕事のトラブル。その多くは、言葉の行き違いによる伝達の不備と考えられます。そこで、日々の報連相や会議などの場で、そうした問題を解決する「図解化」のポイントを解説します。ページ末の動画もあわせてご覧ください。
INDEX
相手に伝わるコミュニケーションとは
「なるべく早く」の略語である「なるはや」という言葉は、ビジネスの現場でもよく使われています。長年一緒に仕事をして相手のことをよく理解している場合は別にして、「なるはや」をどう受け取るかは人によって大きく異なります。頼んだほうは「1時間以内」のつもりでいっているのに、頼まれたほうは「今日中にやればよい」と考えるかもしれません。
そもそも人は「聞きたいこと」を「聞きたいように」聞くものです。「他人とのコミュニケーションは必ずすれ違う」という前提で、伝達の方法を工夫することが肝要です。
相手に何らかの情報を伝えて、その情報が正確に伝わり、相手に理解してもらうためには、まずその情報が「自分が伝えられる話題」である必要があります。伝える側にそのことを伝える力がなければならない、ということです。これに加えて、前述のように「相手が聞きたい話題」でなければなりません。聞く側が「聞きたい」と思わなければ、最初からその情報は相手の耳に十分に届かないからです。
つまり、「自分が伝えられる話題であること」と「相手が聞きたい話題であること」という二つの条件を同時に満たすことによって、初めて相手に伝わるコミュニケーションが成立するということです。
「MECE」で伝わっているかを確認
コミュニケーションを成立させるためには、情報を伝える側はもちろん、受け取る側の姿勢も重要です。具体的には、相手から伝えられた情報について、具体的なイメージを自分の中でいったん整理し直してから、それを相手に話して確認をとります。
その際に有効なのが「MECE(ミーシー、ミッシーと発音)」という考え方です。「MECE」とは、「Mutually(お互いに)」「Exclusive(重複せず)」「Collectively(全体に)」「Exhaustive(漏れがない)」の頭文字をとった用語で、一言でいえば「漏れなく、ダブりなく」という意味になります。つまり受け取った情報に対して論理的思考を働かせ、「必要な情報がすべてそろっていて、なおかつ重複していない状態」であることを相互に確認するということです。
図解化で情報を「見える化」する
繰り返しますが、他人とのコミュニケーションは常にすれ違う可能性があります。また、自分に伝えることが可能で、かつ相手が聞きたいことしか相手には伝わりません。さらに情報を受け取る側も、自分が「漏れなく、ダブりなく」理解できているかを確認する必要があります。
この人間対人間の難しいやり取りをレベルアップするために、非常に有効な方法が「図解化」です。伝えたい情報を適宜図解化することで、情報の「見える化」が図られます。人によって解釈や受け取り方が異なる言葉だけでなく、図による「視覚情報」を加えることで、相手の理解度が格段に高まり、より正確に伝達されるようになるのです。
「図解化」とは「分けて説明する方法」のこと
「図解」とは文字通り「図を使って説明すること」です。これをもう少し掘り下げると、「図」は「土地の区域を分けること」であり、「解」は「刀で牛を裂いて分けること」という意味になります。つまり図解とは、「ものごとを分けて説明すること」であると考えられます。
例えばある工場で、一週間のうち木曜日と金曜日の残業がどうしても長くなり、働き方改革における時短がなかなか進んでいなかったとします。
これを改善するためには、会議でただ漠然と話し合うのではなく、報告者が、それぞれの曜日でどんな作業を行っているかを細かく「分けて」図にすることが重要です。図解化して視覚情報に置き換えることで、問題点が明確に浮かび上がってくるでしょう。
そして木曜日にやっていた作業の一部を火曜日に、金曜日にやっていた作業の一部を水曜日に振り分けることで、生産量を落とすことなく残業時間を減らせるようになるかもしれません。つまりこれは、伝えるべき内容を客観的に図解化したことで情報が整理され、「それまで見落としていた問題点」に気づけたということです。これが「図解化」の効用です。
4種類の図形型を目的に応じて使い分ける
図解化の方法としては、目的に応じて次の4種類の図形型を使い分けます。
(1)マトリクス図形型
「A製品とB製品」「強みと弱み」といった「対比」を示す図形。「マトリクス型」と「ベクトル型」の2つのフレームワークがあります
マトリクス型
例えば「A社の加工機械」と「B社の加工機械」の「導入のメリット」と「導入のデメリット」を比べたいときには、マトリクス図形型のフレームワークの一つである「マトリクス型」を用いるのが最適です。下のように情報を図解化し、会議等でこれを共有して話し合うことにより、自社にとってどちらの加工機械を導入するほうがベターなのかが判断しやすくなるでしょう。ここではメリット、デメリットを簡単に記していますが、実際には「漏れなく、ダブりなく」という「MECE」の考え方に基づき、必要な情報をしっかりと書き込むことが大切です。
ベクトル型
マトリクス図形型のもう一つのフレームワークとして、十字型の矢印で表を作成する「ベクトル型」も活用しましょう。例えば縦軸の上方向の矢印を「効果が大きい」、下方向の矢印を「効果が小さい」とし、横軸の左方向の矢印を「取り組みが難しい」、右方向の矢印を「簡単に取り組める」と定めて、比較する情報が表のどのあたりに位置するのかを「分布図」のように書き込みます。これにより次のような分析が可能となります。
(2)プロセス図形型
情報を時系列で整理し、どのように「変化」したかを示す図形。「Before→After型」と「3~5つの矢印型」の2つのフレームワークがあります
Before→After型
時間の経過によって生じる変化については、プロセス図形型のフレームワークの一つである「Before→After型」を用いて表します。これは非常にシンプルな図形で、枠を左右に二つ並べてその間を右向きの矢印で結び、左側の枠に「Beforeの情報」、右側の枠に「Afterの情報」を記入して変化を確認します。
例えば「ある年の上半期と下半期の会社全体の売上高の変化」を見たり、「作業工程の改善策を講じる前と後の不良品の発生率の変化」を見たりするなど、企業活動におけるさまざまな「プロセス」が分析しやすくなるはずです。
矢印型
仕事の段取りや改革の手順など、企業活動における何らかの取り組みや計画を「時系列で整理」するのに適しているのが、プロセス図形型のもう一つのフレームワークである「矢印型」です。
具体的には、文字が書き込める右向きの矢印型の枠を横に並べて、段取りや手順を左から順に書き込んで確認できるようにします。人間が意識を向けられる情報量には限界がありますので、矢印の数は3つから5つまででまとめてください。矢印型の図のまとめ方の例をいくつか紹介します。
(3)ロジックツリー図形型
ものごとの因果関係を家系図のような形で表して「階層構造」を示す図形。直面する何らかの課題や問題点を整理したり、解決策を導き出したり、構成要素を階層化して説明したりする際には、家系図のような形のロジックツリー図形型が便利です。
例えば「新規顧客を増やしたい」という課題があるとしたら、これをツリーの頂点の枠に書き込みます。次にその解決策として、大きく「商品の認知度を高める」ことと「商品の用途を広げる」という2つの考え方があった場合、頂点の枠から2つの枠に枝分かれした図を書きます。さらに「商品の認知度を高める」方法として「新聞に公告を出す」ことと「SNSを活用する」という2つの選択肢があった場合、これをさらに枝分かれさせた枠に書き込みます。「商品の用途を広げる」方法も、同様にツリーを展開していきます。
抽象的なテーマからスタートし、左から右(上から下)に向けて、枝分かれすればするほどより具体的な方策になるように図を作成することで、解決策が導き出されます。その他、「本社・支社・営業所」という組織構成をツリーにまとめたり、クレームの内容を分類してツリーにまとめたりすることで、視覚的に理解しやすくなります。
(4)ベン図形型
数学の「集合」で使用した複数の丸で情報をグループ分けし、部分的に重なる円を用いて、複数の要素の集合間の関係を示すものです。
例えば1つの商品の「強み」が10項目あったとして、これを1つの円に書き込みます。これに対して「お客様のニーズ」がやはり10項目あったとして、これを1つの円に書き込みます。両者の項目のうち5項目が共通していたとしたら、その5項目は、2つの円が重なりあった部分に位置することになります。この分析をもとに、共通する項目に重点をおいて宣伝広告に力を入れることで、顧客を増やせる可能性が高くなるでしょう。
言葉で表現しにくい複雑な情報は、図解化することによって相手に伝わりやすくなります。社員の「図解化の技術」を高めることで、意志の疎通が図られ、業務内容の進化にもつながるのです。
多部田憲彦氏が語る「図解コミュニケーションの有効性」
通信教育『「図解化」の技術入門コース』の執筆・監修者の多部田憲彦氏が「図解コミュニケーションの有効性」について解説しています。ぜひご覧ください。
※本記事は、PHP通信ゼミナール『「図解化」の技術入門コース』のテキストを抜粋・編集して制作しました。
森末祐二(もりすえ・ゆうじ)
フリーランスライター。昭和39年11月生まれ。大学卒業後、印刷会社に就職して営業職を経験。平成5年に編集プロダクションに移ってライティング・書籍編集の実績を積み、平成8年にライターとして独立。「編集創房・森末企画」を立ち上げる。以来、雑誌の記事作成、取材、書籍の原稿作成・編集協力を主に手がけ、多数の書籍制作に携わってきた。著書に『ホンカク読本~ライター直伝!超実践的文章講座~』がある。