若手社員にリーダーシップ研修を実施する意義と目的は?
2019年6月14日更新
若手社員のうちから発揮できる、新しいリーダーシップの考え方やスキルを身につければ、職場全体の活性化やイノベーティブな風土づくりにつながります。
「リーダーシップ」の考え方は変わり始めている
昨今、企業が社員を育成していくうえで、「リーダーシップ」に対する考え方が大きく変化しつつあります。まずはリーダーシップについての一般論から確認しておきましょう。
従来、リーダーシップは次のように考えられてきました。
「権限を持つ人や役職者が発揮するもの(≒カリスマ性が必要)」
「引っ張る・まとめるなど、人やチームの前に出てする行動」
「天性のもの(才能によって決まるもの)」
こうした先入観から、企業や団体において、「若手社員」を対象にリーダーシップ教育が行われることは、これまでほとんどありませんでした。
若手社員のうちからリーダーシップを育てる必要がある
しかし、肩書きの上でリーダーとなるべき立場になってから、突然リーダーシップを身につけようとしても、もともと性質的にリーダーに向いていた人以外、そう簡単に身につくものではありません。実際、一人の営業社員あるいは技術者として抜群に優秀だった人が、リーダーの立場になって部下を持つと、期待される役割を果たせなくなる、というケースは決して珍しくないはずです。
そうした挫折を回避し、人材育成を計画的に進めるためにも、若手社員のうちから時間をかけてリーダーシップを身につけさせることが重要です。のちに昇進しても、戸惑うことなくすぐにリーダーとして働けるようにするためです。長い目で見れば、よい人材を長期間つなぎとめる「リテンション」にもつながっていきます。
リーダーシップの新しい概念・定義とは?
そこで、舘野氏が監修するPHP通信ゼミナール『若手社員のためのリーダーシップコース』から「全員発揮のリーダーシップ」の概念をご紹介しましょう。
そもそもリーダーシップとは、(1)「権限や役職などに関係なく、すべての人が発揮するもの」であると考えます。また、単にグループを強力に牽引するだけではなく、(2)「目的を達成するために、他のメンバーに影響を与える大小すべての行動」をリーダーシップだと捉えます。さらに、リーダーシップとは先天的に人に備わっているものではなく、(3)「誰でもいつでも学習して身につけられるもの」であると考えます。
こうした考え方は、リーダーシップに対するパラダイムシフトといっても過言ではないでしょう。つまりリーダーシップとは、カリスマ性を持つ一部の特殊な人間の専売特許ではなく、また表立って活躍する目立つ行動だけでもなく、天性の才能がなくても習得が可能という逆転の発想がここにあります。以上の要素をまとめて、舘野氏はリーダーシップを次のように再定義しています。
「職場やチームの目標を達成するために他のメンバーにおよぼす影響力」
このように考えると、リーダーシップの意味や意義がとてもわかりやすくなります。メンバーの一つひとつの行動や言動が影響力を持つことで、チームをリードしていく力になるわけです。これを会社の各部署のリーダーが習得するとともに、すべてのメンバーが各々の持ち場で上手に発揮すれば、計り知れないシナジー効果が得られるものと考えられます。
リーダーシップ行動とは率先垂範のこと
他のメンバーに影響を与えるためには、他のメンバーに対して何らかの働きかけをする必要があります。同通信教育では、これを「リーダーシップ行動」と読んでおり、次のように説明されています。
まず、リーダーシップの基本になるのは「率先垂範」です。率先垂範とは、自ら進んで動くことで、周りの人が「こういうふうに行動すればいいんだな」とわかるような行動です。たとえば、会議でだれも発言しない時に、最初に手を挙げて発言することで、他の人たちも発言しやすくなるというケースがあります。これが率先垂範です。
この例は、ごく小さなことのように思われるかもしれません。しかし、停滞していた会議を動かしたことでアイデアが出やすくなり、事業が大きく進展する可能性もあります。そう考えれば、率先して最初に発言し、他のメンバーに影響を与えたその行動は、非常に重要なリーダーシップ行動だったと評価できます。ここが大事なポイントです。
他のメンバーに影響を与えるリーダーシップ行動の三本柱
次に「率先垂範」が求められる場面としては、「個の確立」「同僚支援・環境整備」「目標設定・共有」という三つの柱が挙げられています。
「個の確立」とは、自分自身が成長するために行動を起こしたり、何か新しいことに挑戦したりすることです。成長したり挑戦したりするためには努力が必要です。周囲の人たちは、その人が努力している姿を見て影響を受け、「自分も頑張ろう」という気持ちになれるでしょう。
「同僚支援・環境整備」とは、周りの人たちが力を発揮できるように手伝ったり、雰囲気をよくしようとしたりする行動のことです。「会議でいちばん最初に発言して口火を切る」「忙しい人を率先して手伝う」「困っている人の話をよく聴く」といった行動をとることで、その職場によい影響を与えられます。
「目標設定・共有」とは、例えばその部署・チームの目標や理想を、部署全体・チーム全体で共有できるように、率先して他のメンバーに話しかけたりすることです。目標や理想に近づいていくために、メンバー同士でいい影響を与え合うことができれば、その部署・チームは一丸となって大きな力を発揮できるでしょう。
いかがでしょうか。
「リーダーシップ」に対する見方が少し変化したのではないでしょうか。これから数回に分けて、若手社員を育てていくうえで重要となる「全員発揮のリーダーシップ」を紹介していきたいと思います。
※本記事はPHP通信ゼミナール『若手社員のためのリーダーシップコース』を抜粋・編集して制作しました。舘野泰一氏監修の若手社員向けリーダーシップ開発研修や通信ゼミナールは以下をクリックしてご覧ください。
森末祐二(もりすえ・ゆうじ)
フリーランスライター。昭和39年11月生まれ。大学卒業後、印刷会社に就職して営業職を経験。平成5年に編集プロダクションに移ってライティング・書籍編集の実績を積み、平成8年にライターとして独立。「編集創房・森末企画」を立ち上げる。以来、雑誌の記事作成、取材、書籍の原稿作成・編集協力を主に手がけ、多数の書籍制作に携わってきた。著書に『ホンカク読本~ライター直伝!超実践的文章講座~』がある。