なぜ若手社員は会社を辞めるのか? 早期離職対策・3つのポイント
2023年9月24日更新
若手社員が会社を辞める理由と、人事や受け入れ側がとるべき早期離職への対策について考えます。
若手社員が辞める理由
労働人口不足を背景に、人材の採用・定着が最も重要な経営課題の一つになりました。ところが、企業規模の大小や業種にかかわらず、せっかく採用した人材が定着しないという悩みを抱える企業は非常に多いのが現実です。
雇用環境の変化(終身雇用・年功序列制度の廃止)や、若者世代を中心にした職業観の変化などを背景に、もはや会社を辞めることが特別なことではなくなりました。では、具体的にはどんな理由で若者が会社を辞めるのか、統計データをもとに現状を見てみましょう。
2017年度に内閣府が行った、就労等に関する若者の意識を調査した『子供・若者の意識に関する調査』(全国の16歳から29歳までの男女10,000名対象)によると、離職の理由として、
- 仕事が自分に合わなかったため
- 人間関係が良くなかったため
- 労働条件が良くなかったため
こうした状況に対応するためには、ハード面(賃金、福利厚生、就業条件などの見直し)とソフト面(成長実感、やりがい、有能感などの喚起)の両面からのアプローチが考えられますが、「ハーツバーグの動機づけ理論」(※1)で明らかにされたように、ハード面の取り組み効果には限界があります。そこで、ここではソフト面の取り組みについて考えてみましょう。
※1「ハーツバーグの動機づけ理論」
人間の仕事における満足度は、ある特定の要因が満たされると満足度が上がり、不足すると満足度が下がるということではなくて、「満足」に関わる要因(動機付け要因)と「不満足」に関わる要因(衛生要因)は別のものであるとする考え方
成長実感を与える~離職に歯止めをかけるポイント(1)
パーソル総合研究所が実施した『働く10,000人の成長実態調査』(2017年)によると、「働くことを通じた成長を重要だと感じている人」の割合が78.2%に上る一方で、「働くことを通じた成長を実感できている人」の割合は49.4%に止まっていることが明らかになりました。これらの数字が示しているように、多くの人(特に若者世代)は成長実感を欲しているにも拘わらず、その感覚を味わえていない人が少なくないという現状が垣間見えます。
昨今の若者は、自分が成長できる仕事(職場)かどうかで会社を選ぶ傾向が強まっています。したがって、彼らを定着させるためには下記の観点から自社の教育体制を見直す必要があるでしょう。
- 若年層(入社1~3年)の教育研修の充実
- エンプロイアビリティ(雇用される能力)を高める教育のメニュー充実
- キャリアについて考える教育の実施
- 現場のOJTを強化するための仕組みづくり(上司の教育)
使命感をもたせる~離職に歯止めをかけるポイント(2)
米国ギャラップ社が世界中の企業を対象に実施した従業員のエンゲージメント(仕事への熱意度)調査によると、日本は「熱意あふれる社員」の割合が6%しかありませんでした。(調査した139カ国中の132位)
なぜ、日本企業のエンゲージメントが低いのか? それは働く一人ひとりの仕事に対するプライドの低さに起因していると指摘されています。「自分の仕事が社会からどう求められ、どう役に立っているのか」を考えることもなく、ただ忙しく業務を処理するだけの繰り返しのなかで、若者たちはやりがいを喪失し、会社を去っていくのです。
建設機械大手のコマツでは、経営理念「Komatsu Way」を現場に落とし込む取り組みを通じて社員の定着率向上に成功しました。この事例が示唆しているように、担当業務と経営理念のつながりを理解させ、仕事に対する使命感を感じられるような環境を作ることで離職防止に一定の効果を上げることができるのです。
密なコミュニケーションをとる~離職に歯止めをかけるポイント(3)
離職を助長する一番の原因がコミュニケーションの不足であると言われています。「成長実感」や「使命感」を感じさせるにも、相互の対話が必須であることは言うまでもありません。
既述の通り、成長実感を得られていない人が多いという調査結果がありますが、ほんとうに彼らは成長していないのでしょうか。「成長していない」と感じているのはあくまでも本人の主観であり、周りから見れば「成長している」のかもしれません。でも、本人と周囲とのコミュニケーションが不足していると自分を客観視できず、「成長していない」と思い込んでしまうケースが案外多いのではないでしょうか。
使命感の喚起についても密なコミュニケーションが欠かせません。立教大学経営学部の舘野特任教授は、「若手社員は先輩や上司の話を聞きたいという強い願望をもっている」と指摘しています。例えば「なぜ、そんなに仕事に頑張れるのか?」「どういう点に仕事のやりがいや喜びを感じているのか?」「仕事のモチベーションの源泉は何なのか?」等々、彼らには聞いてみたい質問がいっぱいあります。しかしながら、職場では忙しいこともあるし、照れもあって誰もそういう自分のストーリーを語ってくれません。
昨今、研修のやり方にも変化の兆しが見え始め、職場ぐるみで仕事の意義や職場を良くするためのアイデア出しをする「ファミリートレーニング」形式の研修(≒組織開発)が増えてきました。また、上司-部下の対話を制度的に実施する「1on1ミーティング」を導入する企業も急速に増えてきました。こうした取り組みには、現状のコミュニケーション不全を打破し、相互の対話を促進して職場の活力向上、人材が定着する組織風土づくりを目指そうという意図があるのです。上司や先輩が意識的に若手社員とコミュニケーションをとっていくような風土を作っていくことが離職防止の上でもっとも重要なのです。
選ばれる企業を目指して
人材が定着する企業でなければ、今後の企業存続はより一層難しくなるでしょう。難しいテーマではありますが、幸い、お手本となる成功企業事例(リクルート、P&G、日本アイ・ビー・エム、コマツ)が存在しますので、こうした成功事例に学びつつ、自社が取り組む課題に優先順位をつけ、できるところから手をつけてみてはいかがでしょうか。そして、地道な取り組みによって企業体質が変わり、選ばれる企業に進化した暁には、人材が定着するだけではなく収益性やブランド力など、総合的な経営力が向上するでしょう。
的場正晃(まとば・まさあき)
PHP研究所 人材開発企画部兼人材開発普及部部長
1990年慶應義塾大学商学部卒業。同年PHP研究所入社、研修局に配属。以後、一貫して研修事業に携わり、普及、企画、プログラム開発、講師活動に従事。2003年神戸大学大学院経営学研究科でミッション経営の研究を行ないMBA取得。中小企業診断士。