企業がデータ分析のできる人材を育成する理由とは?
2021年12月21日更新
企業では、データ分析・統計のできる若手人材の育成に力を入れています。また、各大学でも専門学部が創設され、人気を集めています。そこで本記事では、今なぜデータ分析や統計に注目が集まっているのかを解説、データ分析の基本とその役割を紹介します。
なぜ今「データ分析・統計」が注目されているのか
「データサイエンティスト」という言葉は知っていますか? データを分析し、データに基づいて合理的な判断を行えるように、経営者や管理職者などをサポートする職種のことです。今、日本の大学では、このデータサイエンティストを育てる学部が増えています。そして、大手企業をはじめ、さまざまな企業でデータサイエンティストを採用したり、既存社員にデータ分析の教育を行ったりしています。
これはデータ分析・統計界隈で有名な話ですが、2009年、NewYork Timesに、Googleのチーフエコノミストであるハル・ヴァリアン氏の次のような発言が掲載されました。
"I keep saying that the sexy job in the next 10 years will be statisticians,"
"And I'm not kidding."
(私は、これからの10年で最も魅力的な仕事は統計学者になるだろうと言い続けているんだ。冗談でなくね。)
2009年時点では、データサイエンティストという言葉が一般的ではなかったので、「統計学者」という表現になっていますが、この発言のなかの「sexy job」が注目され、その後、Harvard Business Reviewでは「データサイエンティスト:21世紀で最もセクシーなジョブ」というタイトルで記事も出ました。
なぜ、ここまでデータサイエンティストをはじめとする「データ分析」や「統計学」というものが注目されているのでしょうか。その理由は大きく次の2つです。
(1)AI・IoTなどの最新デジタル技術を利用するにはデータが要だから
(2)従来どおりのやり方や今までの経験が通用しない世の中だから
データが複雑な世の中を「見える化」する
大学学部や大手企業でデータ分析ができる人を育てている主な理由は、先ほどの(1)に起因することが多いでしょう。しかし、私たちにとって最も重要なことは、(1)ではなく(2)なのです。
テレビドラマを見ていると、「刑事の勘」「主婦の勘」なんていうセリフが出てくると思います。皆さんのまわりに、この「勘や経験」で仕事をしている人はいませんか? コンピュータが職場に導入され始めた20年以上前などは、年配の部長が「俺のはコンピュータではなく、カンピュータだから」などと冗談を言っていたこともありました。
10年前、20年前は自分が仕事をしてきた経験に基づく「勘」を頼りに仕事をしていても結果が出ました。それは、現在に比べて、競争相手も限られていましたし、人々の生活も似ていたため、過去の経験が活かせたからです。
しかし、今はどうでしょうか? 現在はVUCA(ブーカ)時代と言われています。VUCAとは、Volatility(変動性)・Uncertainty(不確実性)・Complexity(複雑性)・Ambiguity(曖昧性)の頭文字を取った造語で、未来予測が難しい多様な世の中という意味です。つまり、VUCA時代の今は、過去の経験が通用しにくくなっており、ましてや、勘で仕事をしていたら失敗をしてしまうということです。
では、この未来予測が難しい多様な世の中では、時流に翻弄されるしかないのでしょうか? そうではありません。この複雑な世の中を見える化し、予測が難しいながらも未来予測をし、仕事を成功に導いていく鍵となるのが「データ」であり「データ分析・統計」なのです。
「データ分析・統計」が、荒波を乗り越えるための海図でありコンパスになりえるものだからこそ、今、世の中で注目されているのであり、これからのビジネスパーソンにとって必須スキルであり、最強の武器ともなるのです。
データ分析とは?
「データ分析」とは、データがもっている感情を読み解くことと言われます。それでは、「データの感情を読み解く」とはどういうことなのでしょうか。
数字の並びであるデータがだれかに語りかけたり、自分の想いを自ら発信したりするわけはありません。データの感情を読み解くとは、データがもつ特徴や傾向を読み解くということです。
データは、集めただけでは何もわかりませんし、とくに役にも立ちません。そのデータがもつ特徴や傾向を読み解くことによってはじめて「仕事に活かせる情報」となるのです。つまり、「データ分析・統計」とはさまざまな切り口でデータの特徴や傾向を読み解くことなのです。データの感情を読み解くためには、「データセンス」を磨いておくことも大事なことです。
ワイドショーやニュースで「データセンス」を磨く
「データセンス」を磨くためには、恣意的なデータの宝庫であるワイドショーやニュースなどを見ることがよいトレーニングになります。
例えば、次のような場面を想像してみてください。
新型コロナによる緊急事態宣言発出中に、東京都渋谷区で街頭インタビューを行い、20代の若者に「緊急事態宣言が明けたら、飲みに行きますか?」と質問し、回答スペースにシールを貼ってもらいました。その結果は、以下のようになりました。
この結果を見て、司会者は「いや~、80%の若者が飲みに行くって回答したんですよ。やっぱり若者は外に出ちゃうんですね~」とコメントしています。それを見ていたあなたはどう感じますか?
このシチュエーションで「やっぱり若者はダメだなぁ」と思ってしまったら、ワイドショーのつくり手の思うツボです。このように、番組内で数字情報が出たときが「データセンス」を磨くチャンスです。
この場合、
(1)シールが20枚しか貼られていないので、20人しかインタビューをしていないのだな。20人のインタビューしかしていないのに、20代の若者全体の意見のように伝えるのはおかしいな。
(2)そもそも緊急事態宣言中に渋谷の街中にいる人にインタビューしているのだから、緊急事態宣言が明けたら外出する可能性が高い人たちだよな。それって公平なデータではないな。
というように、「データ」の背景や番組製作者の意図などを考えてツッコミを入れることで「データセンス」が鍛えられます。テレビ番組以外にも、ネットニュースなども恣意的なデータが多数ありますので、そのような情報に触れて「データセンス」を磨くことができます。
データ分析の役割とは?
身のまわりにあるさまざまなデータは、さまざまな仕事に役立てられています。営業であれば、顧客の購買履歴データから次の提案を考えたり、商品を買ってくれている顧客データから共通点を探し出して、その共通点にマッチする見込み顧客を開拓したりすることができます。顧客の住所データから、今日の営業まわりの最適なルートを考えることもできます。
店舗などの小売であれば、過去の来店者数データをもとに来店者数を予測して、従業員のシフトを考えたり、商品の発注量を考えたりしています。また、気象データや近隣のイベントデータなどを活用する場合もあります。
製造であれば、製造計画に基づいて原材料を購入する際に、在庫データが正確でないと、正しい数量の原材料を購入することができません。また、ベテランの職人が行っている作業をデータ化することで、若手職人でも同じように作業ができるようになります。
日常生活の中で、ネットや動画を見ていると、自分が興味を示しそうな広告が出てきたりしませんか? これは、私たちの視聴データやネットでの購買データが利用されて、ユーザーに合いそうな情報がオススメされているのです。
このように、さまざまなところでデータは活用されています。そして、これらのデータを使って、現在起きていることの原因を考えたり、未来予測のように仮説を立てて、その仮説を証明したりすることがデータ分析の役割なのです。
データ分析・統計を学ぶ通信教育を開講!
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PHP通信ゼミナール
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※本記事は、PHP通信ゼミナール『「データ分析・統計」入門コース』のテキストの内容を抜粋編集して制作いたしました。