新入社員のレジリエンスを高め、成長を促すマネジメントとは?
2021年2月18日更新
新入社員のレジリエンスを高めるために、人材開発部門や上司は、どのように指導すればいいでしょうか。成長を促すマネジメントをご紹介します。
精神的にもろい傾向がある新入社員
最近の若者は、精神的にもろい傾向があるといわれます。仕事で失敗したり、職場で上司から厳しく叱責されたりしたことがきっかけとなって、メンタルダウンを起こし、休職、離職につながってしまうケースも少なくありません。
一方、若者たちのそうした傾向とは裏腹に、グローバル競争の進展とともに、企業や個人を取り巻く環境は今後一層厳しさを増すことが予想されます。また、コロナ禍によってリモートワークが奨励され、企業活動がオンライン化するなど、歴史的な転換期にある今、働く人にも刻々と変化する状況に適応していく力が求められています。
今注目されている「レジリエンス」とは?
そこで今注目されているのが「レジリエンス」です。
全米心理学会は、レジリエンスを「逆境やトラブル、強いストレスに直面したときに適応する精神力と心理的プロセス」と説明しています。困難に直面しても、その環境に適応して、そこから回復する力、再起する力、というとわかりやすいかもしれません。
部下を管理する上司や人事担当者には、社員のレジリエンスを鍛えるマネジメントが求められているといえるでしょう。
参考記事:レジリエンスとは? 意味や高める方法を解説│PHP人材開発
レジリエンスはトレーニングで鍛えられる
もともとレジリエンスが高い人もいるかもしれませんが、レジリエンスは大人になってからでもトレーニングをすることで鍛えることができます。物事の捉え方を変えてみたり、自分の強みを把握したりすることで、鍛えることができるのです。
困難を乗り越える「修羅場体験」
レジリエンスを鍛え、自己肯定感を高めるためには、意図的に「修羅場」をつくってそこに対象者を追い込み、乗り越える体験をする教育研修が効果的です。
中堅企業A社では、2009年から、新入社員を対象にした修羅場体験研修を実施して成果を上げています。二週間にわたる合宿研修の期間中、次々に出される課題に取り組むため、受講者の大半がほぼ二日間の徹夜を強いられます。彼らにとっては初めて体験する修羅場ですが、それを乗り越えることによって、「自分にもできた!」という自信が芽生え、配属後の厳しい仕事環境でも折れない強さが身につくのです。
実際、この会社では修羅場研修を導入してからメンタルダウンを起こす若手人材の比率が下がってきたという報告がされています。ただし、闇雲に厳しくすると潰れてしまいますので、相手の状況をよく観てよく聴いてあげつつ、「共にこの厳しさを乗り越えよう」というメッセージを送り続ける配慮が必要です。相互の信頼関係が土台になければ厳しい指導も逆効果になりかねません。
弱い自分に打ち克つ「成功体験」
新入社員を指導・育成する上では、小さな「成功体験」をできるだけたくさん積ませることを心掛けるといいでしょう。成功体験とは、別の言い方をすれば、自分の弱さに打ち克つ体験とも言えます。仕事の厳しさを実感し始めた新入社員たちには、それを意識させるとともに、受け入れ側の上司や指導員にも、彼ら彼女らをしっかりサポートすることが求められます。
例えば、どんなに眠くてもがんばって毎日早く出社する、人付き合いが苦手だけれども、ちょっと勇気を奮って積極的に職場の人たちとコミュニケーションを図る、等々。それぞれが自分の限界をほんの少しずつでもいいから超えるよう導き、そして承認していくことが、新入社員にとっての成功体験の積み重ねにつながり、弱い自分に打ち克ったという自信につながります。その自信がレジリエンスを高めることになるのです。
相手に合わせたサポートやコミュニケーション
新入社員のレジリエンスを鍛える過程においては、上司や指導員のサポートが欠かせません。一口に新入社員といっても、性格や考え方、行動パターンはみな違います。仕事をするにあたって体育会系のノリを好む人もいれば、論理性を重視する人もいます。また、自信満々の人もいれば、気弱な人もいます。
このように一人ひとりの個性が千差万別ともいえるほど異なっているにも関わらず、画一的な指導をしてしまうと、ある人には効果的であったとしても、ある人には適合しないということが起こってしまいます。したがって、それぞれの人の個性に合わせてサポートやコミュニケーションのとり方を変えていくことが重要になってくるのです。
新入社員を「ほめる」場合
たとえば、新入社員を「ほめる」という行為を例にとって考えてみましょう。相手の心にヒットするほめことばは一人ひとり違います。「優しいね」と言われることをうれしく感じる人もいれば、「誠実だね」ということばに反応する人、「創造性が豊かだね」に反応する人もいます。相手の心に響くことばをかけていくことが、指導育成上重要であることは言うまでもありません。
個別指導の前提となる観察
相手に合わせた個別指導を行う上で大前提になるのが、相手をよく知るということです。そのためにも上司や指導員は、新入社員に興味関心をもって、日頃から一人ひとりとコミュニケーションを密に取り、相互理解を深める必要があるでしょう。
密なコミュニケーションによって相手を知り、それに応じて指導法を使い分けていく、そのことを面倒だと切り捨ててしまってはそこで終わりです。新入社員を育てるためには、それ相応の一手間と覚悟が必要になることを、ご認識いただきたいと思います。
厳しい指導は必要ない?
最近の多くの職場では、上司が部下を厳しく叱責する場面が少なくなりました。その背景には、先述のとおり若者が精神的にもろくなっており、ちょっとした上司の言動がきっかけでメンタルダウンを起こしかねないこと、またそうなってしまうと、パワハラや管理不行き届きとして上司の責任が問われる恐れがあること、などの要因があるように思われます。
優しい上司ばかりになると......
職場から厳しさが失われ、優しい、ものわかりのいい上司ばかりになってしまうと、組織は徐々に弱体化していきます。関西に拠点を置くプロ野球の某人気球団の成績が低迷した時期には、厳しい監督がチームを去り、優しい指導者が監督として選手の指導・育成にあたったことが、その原因の一つであると、多くの専門家が指摘しました。
人間は概して易きに流れる傾向があります。したがって、組織としての成果を上げるためには、必要に応じて厳しい指導、厳しいマネジメントも求められるのです。
厳しさを受けとめる人間関係の構築がカギ
しかし、前述の通り、部下に厳しく接することができない上司が増えているのが多くの組織の実態です。それは、メンタルヘルスやパワハラの問題もありますが、上司と部下との人間関係に大きな問題が隠されているように思われます。
中国古典『呻吟語』には、次のようなことばがあります。
「君子教人而後責人、体人而後怒人」
君子は、相手を責める前に教えることを優先させ、相手を怒る前に相手の身になって考えてやることを優先させる――上司として厳しい指導をするためには、日頃からよく教え諭し、親身になって相談にのってあげることが大切だ。この二つがあれば、厳しく叱っても相手はきちんと受け止め、成長の糧にするだろう。現代風に解釈するとこんなところでしょうか。
人を育てる上で大切なことは、相手が厳しさを前向きに受け止めることのできる信頼関係を構築しておくことです。
そのためには、上司や指導員がまず、新入社員に興味関心と愛情をもって接し、円滑なコミュニケーションによって相互の絆を強める必要があるでしょう。そこから人が育ち、持続的な成果を生み出す「強い組織風土」が醸成されていくのです。
的場正晃(まとば・まさあき)
PHP研究所 人材開発企画部兼人材開発普及部部長
1990年、慶應義塾大学商学部卒業。同年PHP研究所入社、研修局に配属。以後、一貫して研修事業に携わり、普及、企画、プログラム開発、講師活動に従事。2003年神戸大学大学院経営学研究科でミッション経営の研究を行ないMBA取得。中小企業診断士。