事例から学ぶメンターによる新入社員育成~実践のポイント
2021年3月 4日更新
メンターによる指導・育成は、業種業態を問わず、新入社員の定着と戦力化に大きな成果を上げています。本稿では事例から実践ポイントを学びます。
メンターと新入社員のコミュニケーション
メンターと新入社員のコミュニケーションについて、「傾聴」→「質問」→「承認」という手順で実施するのがポイントとなりますが、この「承認」で気をつけなければいけないのが「ほめ方」です。間違ったほめ方をすると、場合によっては、かえって悪い結果を招きかねません。
「ほめる」とは「根拠のある承認」を行うことです。「具体的な内容」をとりあげて称賛することが重要であり、それによって相手は「認められた」ことを実感できます。一方、「おだてる」とは「根拠に乏しい承認」を行うことです。ほめるべき具体的な内容がないままに称賛してしまうことで、むしろ相手に不信感を抱かせる可能性もあります。
参考記事:新入社員のメンターに求められる資質とスキル│PHP人材開発
「叱る」と「怒る」との違い
新入社員の中には、社会人としての常識やルール、マナーなどがまだ十分身についておらず、何らかの問題を起こしてしまう人もいます。そのため育成の初期の段階では、気づきや自覚を促すために「叱る」必要が出てくる場合もあるでしょう。
気をつけなければいけないのは、「叱る」ことと「怒る」ことは違うということです。「叱る」とは、「相手の立場に立った合理的な指導」を意味します。真剣な表情で、毅然として、しかし相手への期待を込めて叱らなければなりません。これに対して「怒る」とは、感情を爆発させて激しい言葉で相手を責めることを意味します。これではお互いの心に「しこり」が残ってしまい、下手をすると人間関係が壊れてしまうこともあります。
叱る際にはあくまでも冷静に、「具体的な理由を提示」しながら説明し、決して「相手の人格を否定」してはいけません。また「他人の目につかない場所で叱る」ことも重要です。
叱ったあとのフォローが大事
叱ったあとは、それを引きずらないように、気持ちを入れ替えてふだん通りに接することが大切です。ふだん通りに接しながらも、その後改善ができているかどうか、あるいは必要以上に落ち込んだりしていないかを観察し、適宜フォローしていきます。
叱ったあと、相手が努力して改善できた場合、その改善した部分についてきちんとほめて承認することが不可欠です。このように適切に叱ったりほめたりすることで、新入社員は一人前の社会人へと成長していくことができるでしょう。
新入社員のやる気を引き出す方法
新入社員に「やる気」を起こさせるのも、指導員の重要な役割といえます。同テキストでは、「やる気を引き出すのが上手な指導員」の3つの特徴が紹介されています。
やる気を引き出すのが上手なメンターの特徴
【特徴1】心配りや気づかいを欠かさない
いいメンターは、日頃から新入社員に対して、「どう、がんばってる?」「例の件、うまく進んでる?」といった具合に、タイミングよく声をかけています。このように気にかけることで、新入社員の心は落ち着き、メンターへの信頼度が高まっていきます。
【特徴2】迅速な対応を心がける
いいメンターは、承認すべきときにはすぐにその場で承認したり、質問や相談事に対して迅速に対応したりします。素早くレスポンスを返すことで、新入社員のモチベーションを高めていくことができます。
【特徴3】「言行一致」で共に歩む
いいメンターは、話すことと実際の行動との間に矛盾がありません。新入社員に指導したことを自身も実践することで、いいお手本になろうとします。これは「一緒に成長していこう」というメッセージにもなります。
事例に学ぶ指導・相談のポイント
実際の仕事での場面を想定した事例から、指導や相談のポイントを解説しましょう
ケース1:ミスをした新入社員が上司に報告しなかった
新入社員がミスを報告しない理由として、「大したことではないと甘く考えた」「叱られることを恐れて隠そうとした」「自分で取り返そうとして報告が遅れた」などの場合が考えられます。しかし対応が遅れることで、問題がより大きくなる危険性もあります。
メンターは日頃から、小さなミスでもすぐに上司に報告すること、うまくいきそうにないと感じた時点で早めに相談することの重要性を教えておかなければなりません。
また、自分の力量やこなせる仕事の量が把握できていない新入社員に対して、仕事の優先順位を決める手助けをしてあげることも大切です。
ケース2:上司との人間関係について相談された
新入社員が上司とうまくいかなくて、メンターに相談してくる場合があります。実際にはさまざまなケースがあると考えられますが、新入社員本人の上司との接し方に問題がある可能性もあるでしょう。
例えば上司が外回りから帰ってきたとき、すぐに新入社員が駆け寄って報告を行い、上司にいやな顔をされたとします。新入社員からすれば、「上司にいやな態度をとられた」と思い込んでしまうかもしれませんが、上司からすれば、帰社してすぐに急ぎの案件を処理しないといけない状況で、非常にタイミングが悪かったのかもしれません。
メンターは新入社員の相談を「傾聴」したうえで、上司がどういう状態だったのかを「質問」し、この場合は「報告のタイミング」について適切にアドバイスをすれば、問題を解決に導くことができるでしょう。
新入社員の定着と早期戦力化は、企業にとって非常に重要な課題です。メンターだけにすべてを任せるわけではありませんが、新入社員が相談しやすい身近な先輩としてメンターを配置することで、新入社員の成長が促進され、また、メンターのほうも、より一層、成長します。
人材開発部門としては、新入社員を迎える前にメンターを任命し、基礎知識や、対話を中心においた支援の実践的な方法について、しっかりと教育することが求められます。
※本記事は、PHP通信ゼミナール『新入社員指導・支援の実践コース』のテキストを抜粋・編集して制作しました。
森末祐二(もりすえ・ゆうじ)
フリーランスライター。昭和39年11月生まれ。大学卒業後、印刷会社に就職して営業職を経験。平成5年に編集プロダクションに移ってライティング・書籍編集の実績を積み、平成8年にライターとして独立。「編集創房・森末企画」を立ち上げる。以来、雑誌の記事作成、取材、書籍の原稿作成・編集協力を主に手がけ、多数の書籍制作に携わってきた。著書に『ホンカク読本~ライター直伝!超実践的文章講座~』がある。