ビジネスマナーは型を教えるだけでいいのか?
2016年3月18日更新
多くの企業が入社時にビジネスマナー研修を実施します。ところが、研修でしっかりと教えたマナーが、職場では実践できないという新入社員が増えています。
入社時にビジネスマナーを徹底的に叩き込んでいますか?
一般的に、武道や華道、茶道では、最初に「型」をしっかり教えます。いわゆる「形から入って心に至る」という教育です。礼儀作法を忠実に模倣し、それを繰り返し実践することで形を支える心が育っていくという考え方です。一つひとつの作法がなぜ今の「型」をとっているのか、その意味を考えながら、実践のなかから深く心を学んでいくのです。
ビジネスマナーも同様に、まずは型どおり、徹底的に「体に覚え」させ、「姿勢として根づかせる」ことが重要です。マナーを体得することは、習慣的に繰り返す地道なものです。地道にいつも型を意識して実践を繰り返すことで、周囲に良い印象を持ってもらえるようになっていきます。
入社時にビジネスマナーを徹底的に教えておかないと、配属後に職場の上司や先輩の悪い影響を受けてしまい、「この程度でいいのだ」と中途半端なマナーしか実践できないようになります。これでは元も子もありません。
昨年入社した新入社員は、マナーがしっかり身についていますか? 研修直後は実践していた挨拶、おじぎ、身だしなみ、言葉遣いが、1年経った後もしっかり実践できている人は少ないのではないでしょうか。新入社員研修で徹底的に教えていないと、すぐに楽なやり方に流されてしまいます。
型の意味を理解させ、徹底的にロールプレイング
マナーというのは、心を表現することが最も大切です。心を体得しないまま、型だけを実践させるから、時間が経つと疎かになってしまうのです。それを防ぐためには、研修ではまず「なぜビジネスマナーが重要か」「なぜこのような型をするのか」、そして「相手は何を期待しているのか」「相手に心を伝えるためには、どうすればいいか」を考えさせます。このステップを踏んだ後に、ロールプレイングで基本行動を反復訓練させるから、マナーを継続的に実践できるようになるのです。
では、どのようなロールプレイングを実施すればいいのでしょうか? 「挨拶」「指示の受け方」「報・連・相」にはじまり、「電話応対」「来客応対」「お客様訪問」まで、職場配属後、すぐに実践しなければならないケースをつくり、繰り返し練習をさせるべきです。そのロールプレイングをビデオに収録し、本人に見せてフィードバックするとさらに効果的です。そうすることにより、自分の意識すべき点が客観的にわかるため、劇的に習得することができます。そのビフォア・アフターに人材開発担当者や経営者は驚かれます。
スマートフォンやSNSのマナーは事例をあげて考えさせる
一方、スマートフォンやSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)などの使用マナーはまだ確立していませんが、だからと言って、これらのマナーをマニュアル的に教えてはいけません。たとえば「メールやLINEで『今日休ませてください』と伝えるのはダメ」「TwitterやFacebookで会社の写真を投稿してはいけない」と言葉で伝えてもあまり効果がありません。多くの企業で教えていると思いますが、現在でも「決算前の忙しい時期なのに、メールやLINEで『有給は〇日から〇日に取ります』と伝える」「Twitterにプライベートの写真を投稿するのはいいが、社会常識を逸脱し会社のイメージを落とす写真(たとえば線路に入っている写真や、公共の場で裸になっている写真)を投稿する」など社会人としての意識が欠落していることによる問題が発生しています。
それらを防ぐためには、マナーの意味やコンプライアンス、秘密情報の保護などの観点まで教えることが必要です。「相談というプロセスがなく、用件だけを送られて来ると、結論をいきなり通知してくるという手抜き感があるため、相手に理解・納得してもらう内容はメールやLINEではしない」や、「TwitterやFacebookで非常識な写真を投稿すると、お客様から信頼を失うことがある」ということを具体的な事例を挙げながら教えなければなりません。そして「上司や同僚が怒り、信頼がなくなる」「お客様の信頼を失い、会社が倒産することもある」など、分かりやすく伝え、それをすることでどのような損害や問題を引き起こすのかまで考えさせる研修に改善すべきです。
何を考えているのかわからない新入社員が増えていませんか?
新入社員のコミュニケーションスキルの低下も問題となっています。原因としてあげられるのが、両親が共働きであること、核家族化、兄弟の減少、テレビゲームの普及などにより、現実世界でのコミュニケーションが希薄になっていることです。さらに、スマートフォンやSNSの普及により、面と向かって話さなくてもある程度のコミュニケーションができること。メールではコミュニケーションができるのに、対面になると、うまくコミュニケーションが取れない人も増えています。そのため、信頼関係をつくることができない、自分の考えや想いを伝えることができない。そして、「一体、何を考えているのかわからない」という新入社員の問題が、多くの職場で発生しています。
そうしたなかで、昨今の新入社員研修で重要度が増してきたのが、職場のコミュニケーション、特に「雑談力」です。「年配の人や相性が悪い人、苦手な人はどのように考えているか」などをディスカッションし、相手の立場に立って物事を見る視点を養います。相手の心や考え方を察することにより、価値観や育った時代背景の違いを考えられるようになります。
最近の新入社員にコミュニケーション力をつけさせるのは、簡単なことではありません。私は、この問題で悩んでいる教育担当者に、次のようなことをおすすめしています。
1)上司との世代間の考え方の違いを考えさせる
2)上司の想いや期待を伝える
3)話しかけ方・褒め方・聴き方などのマインドとテクニックを教える
4)新入社員から個人的な話を積極的にするように促す
5)仕事以外のことで上司に興味を持つように促す
マナーは「型から入るもの」と一般的に理解される方が多いと思いますが、私が伝えているマナー研修で大切なことは、「なぜそうするのか」「相手はどう思っているのか」という意味や深い心を教えることです。
茅切伸明(かやきり・のぶあき)
株式会社ヒューマンプロデュース・ジャパン 代表取締役。
慶應義塾大学商学部卒業後、(株)三貴入社。 その後、(株)日本エル・シー・エー入社。 平成1年3月 住友銀行グループ 住友ビジネスコンサルテイング(株)(現SMBC コンサルティング(株))入社。セミナー事業部にて、ビジネスセミナーを年間200 以上、企業内研修を50以上担当し、他社のセミナーを年間50以上受講する。 平成18年4月 (株)ヒューマンプロデュース・ジャパンを設立。「本物の教育」「本物の講師」「本物の教育担当者」をプロデュースするという理念を掲げ、現在まで年間500以上、累計8,000以上のセミナー・研修をプロデュースするとともに、セミナー会社・研修会社のコンサルティング、セミナー事業の立ち上げ、企業の教育体系の構築なども手掛ける。
著書に、『実践社員教育推進マニュアル』、通信教育『メンタリングで共に成長する新入社員指導・支援の実践コース』(以上、PHP研究所)、『だれでも一流講師になれる71のルール』(税務経理協会)