コミュニケーションのズレを誘発する3つの思考・行動パターン
2023年12月 4日更新
ダイバシティの推進やワークスタイルの選択肢の拡大は、各社とも取り組みを強化するべき経営課題と言えます。しかし、その一方で、こうした取り組みの陰で職場のコミュニケーションの質が低下し、さまざまな問題発生の原因になっているという指摘もあります。そこで本稿では、職場のコミュニケーションの質を高めるための考え方と手法を考察いたします。
コミュニケーションのズレが相互理解を難しくする
職場の人間関係において、相手が何を言わんとしているのかがよくわからなかったり、言っていることの真意を間違えて解釈したりすることが頻繁に生じがちです。そのたびに、「彼(彼女)の言うことはよくわからない」「こちらの思い(状況)をなかなか理解してもらえない」といった反応が、関係する双方の内側で起こります。
こうしたコミュニケーションのズレを放置しておくと、「言った、言わない」とか、「そういうことを言ったのではない」といったトラブルにつながり、職場の生産性を大きく低下させてしまうのです。
参考記事:今どきの若手社員はコミュニケーションが苦手? 関係を構築するためのポイントを紹介│PHP人材開発
「メタモデル」が指摘する3つの思考・行動パターン
なぜ、こうした事態が発生するのでしょうか。
人はコミュニケーションを取るとき、自分がもっている情報や抱いている感情をすべて伝えるわけではなく、伝えるものと省くものを選択する傾向があります。また、事実を客観的に伝えるよりも、そこに自分なりの解釈を加えた主観的な伝え方をしがちです。
NLP(神経言語プログラミング)の創始者である、リチャード・バンドラーとジョン・グリンダーは、こうした人間の思考・行動特性に着目して、「メタモデル」という理論を構築しました。このモデルによると、人がもっている情報や感情を伝達する際、3つの行為が誘発されやすくなるとされます。その3つとは、省略、歪曲、一般化です。
- 省略
- 歪曲
- 一般化
自分がもっている情報・感情のうち、相手に伝えるのはごくわずかで、その他の大部分を省略し、伝えないこと
自分の価値観のフィルターを通して客観的な事実を解釈し、主観的な主張に変容 させること
すべての事象は同じ意味をもっていて、例外が認められないと思い込むこと
これら3つの思考・行動パターンが、前述のコミュニケーションのズレを生み出す原因であったのです。
コミュニケーションの質を高める効果的な質問
ほとんどの人が、3つの思考・行動パターンに陥っている。そういう前提に立ったうえで、コミュニケーションの質を高めるには効果的な質問をしていくことです。
- 省略されたメッセージ
- 歪曲化されたメッセージ
- 一般化されたメッセージ
「クレームの電話がありました」⇒「何に関するクレームですか?」
「私より彼のほうが優秀です」⇒「どういう点で優秀なのですか?」
「彼は不まじめだ」⇒「彼が不まじめだと思う根拠は何ですか?」
「あの会社の経営は危ない」⇒「なぜ、そう言えるのですか?」
「私は評価されていない」⇒「評価されていることは一つもないですか?」
「我々は業界トップでいるべきだ」⇒「トップでなくなったらどうなりますか?」
こうした質問によって、省略されたメッセージを補うことができますし、根拠のない思い込みやとらわれに陥っていることに相手が気づき、コミュニケーションのズレが徐々に解消していくでしょう。
コミュニケーションの基本は傾聴と想像
ここまで、コミュニケーションのズレが生じる原因と、その対処法としての質問の仕方について言及してきました。ただ、質問が効果を発揮するには、まず相手の話をしっかり傾聴することと、そこから得られた情報をもとに相手の内面の状態を想像することが不可欠です。
相手の話を傾聴していると、省略されているメッセージに気づきますし、どのような歪曲・一般化がされているのか、その傾向を把握することもできるでしょう。そして、なぜそのような思考・行動パターンを取るのか想像してみると、相手がもっている価値観・信条等が見えてくるでしょう。
労働環境・職場環境が大きく変わり、コミュニケーションが難しい時代になった今こそ、表面的ではない深いレベルでの相互理解が重要性を増しているのです。
的場正晃(まとば・まさあき)
PHP研究所 人材開発企画部兼人材開発普及部部長
1990年、慶應義塾大学商学部卒業。同年、PHP研究所入社、研修局に配属。以後、一貫して研修事業に携わり、普及、企画、プログラム開発、講師活動に従事。2003年、神戸大学大学院経営学研究科でミッション経営の研究を行ないMBA取得。中小企業診断士。