心理的安全性のつくり方8選! 定義や効果、維持する際の注意点を解説
2023年2月20日更新
少子高齢化で労働人口が減少するなか、少人数でも生産性の高い職場づくりに取り組む企業が増えています。そこで注目したいのが、心理的安全性です。今回の記事では、心理的安全性のつくり方や得られる効果、それを維持する際の課題や注意点を解説します。
INDEX
心理的安全性の定義
心理的安全性とは、他者の反応に怯えたり羞恥心を感じたりすることなく、自然体の自分を安心してさらけ出すことができる職場やチームの状態、雰囲気を表す概念です。
生産性を向上させるには、従業員一人ひとりの能力を最大限に活かして現場の力を高める必要があります。しかし「こんな意見を言ったら皆に否定されるかもしれない」と周りの反応が気になって自由に発言できないメンバーがいて、活発な議論ができないというケースは少なくありません。
そこで重要になるのが、心理的安全性です。メンバーが不安を感じずに仕事に取り組める状態は、どうしたらつくれるのでしょうか。
参考記事:「心理的安全性」とは?「ぬるま湯組織」が若手社員の成長を阻む│PHP人材開発
心理的安全性の始まりと将来性
心理的安全性は、ハーバード大学のエイミー・C・エドモンドソン教授が1999年に発表した概念です。論文のなかで使われていた「psychological safety」を和訳したもので、組織やチームのなかで誰が発言しても拒絶されない状態を表しています。
旧来的な考え方に意見しても阻害されず、前向きに話し合いができる職場環境やチームである場合は、心理的安全性が高い組織といえます。一方、上司や先輩、同僚など周囲の反応が怖くて意見できない場合は、心理的安全性が低いと判断されます。
心理的安全性の概念は、Google社が発表した研究結果から世界中で注目を集めるようになりました。
Google社の研究チームは、2012年から4年間にわたり、エドモンドソン氏の説を受けて、さまざまな職種のチーム状態を解明する調査をおこないました。
その研究結果によると、心理的安全性が高いチームは離職率が低かったり収益性が高かったりと、高い評価を得ていることが判明したのです。研究結果によって世界中の企業が心理的安全性の重要性に気づき、さまざまな施策を講じています。
日本は少子高齢化で労働人口が減少しており、少人数でも生産性の高い職場づくりに取り組む企業が増えています。また、働き方改革が推進されるなか、ひと昔前のような長時間労働の体制では、社会的に認められません。こうした状況下で、心理的安全性を重要視する企業は、今後も増えることが予測されます。
心理的安全性の維持がもたらす5つの効果
心理的安全性を高めるには従業員一人ひとりの意識改革が必要になるため、長期的に取り組まなければいけません。ただし、実際に取り組んで維持することで、企業にプラスになる効果が得られるのかと不安に感じる方もいるはずです。心理的安全性の維持がもたらす効果としては、次のようなものが挙げられます。
* 従業員エンゲージメントが向上する
* コミュニケーションが活発化する
* 優秀な人材の離職を回避できる
* ダイバーシティを推進できる
* 問題の早期発見でリスクを防げる
それぞれの効果について詳しく確認していきましょう。
1.従業員エンゲージメントが向上する
心理的安全性が高い職場やチームでは、従業員エンゲージメントが向上します。エンゲージメントとは、従業員の企業への信頼や仕事の貢献意欲を表す指標のことです。心理的安全性が高い職場やチームでは、自分の発言や意見が阻害されないため、従業員は対人関係において心配や不安を持たなくなります。
むしろ自分が積極的に発言することで職場やチームが活性化するため、仕事に対して前向きに取り組む従業員が増えるのです。会社に対して貢献したい気持ちも高まり、少しでもプラスになるように能動的な行動が増えます。
能動的に行動できる従業員が増えれば、個々のパフォーマンス能力も上がるため、生産性が向上したり利益が上がったりといった良い効果が生まれるのです。また、自分の能動的な言動や行動が結果につながれば、仕事へのやりがいも感じられるでしょう。
2.コミュニケーションが活発化する
心理的安全性が高い職場やチームでは、従業員同士のコミュニケーションが活発化します。周囲の意見や指摘を受け入れられる職場環境やチームであるため、発言に対するハードルが低くなり、従業員間でコミュニケーションが取りやすくなるのです。
会議で話すことだけではなく日常会話も増えるため、お互いの仕事内容を共有しやすく、問題やミスが発生したとしても、上司や先輩、同僚にすぐに相談できます。問題やミスが起きたときに上司や先輩にすぐに相談できるのは、「話すとマイナス評価になる」「自分の話は聞いてもらえない」といった心配や不安が生まれないためです。
職場やチーム全体で問題やミスに迅速に対処できるため、大きなトラブルに発展することを防げます。また、コミュニケーションの活性化により、従業員間で情報を交換できるのも特徴です。小まめに情報交換できればチーム全体の学習能力を上げられるため、新たなアイデアが生まれやすくなります。
3.優秀な人材の離職を回避できる
心理的安全性が高い職場やチームは、従業員一人ひとりのエンゲージメントが高くなるため、優秀な人材の離職を回避できます。近年日本は少子高齢化の進行によって労働人口が減少しており、人材不足の課題を抱える企業も少なくありません。
しかも、採用は売り手市場が続いており、企業の採用枠数に対して求職者数が少ない状況です。それなりの費用と時間をかけて採用活動を行っても、優秀な人材を確保できるとは限りません。また、労働者の就労意識の変化や転職市場の活性化によって、人材の流動化はますます進んでいます。従業員に、働く価値がない職場と判断されれば、人材が流出するおそれがあるのです。
職場やチーム内で心理的安全性が高まれば、仕事の悩みや不満も気軽に相談できるようになります。悩みや不満が解消されれば、人間関係の問題などによる人材の流出を回避することにもつながるでしょう。
4.ダイバーシティを推進できる
企業規模の大小にかかわらず、近年はビジネスのグローバル化が進んでいます。グローバル化に対応するには、人種や言語、宗教などの異なる多様な人材が活躍できる職場づくりが求められます。また、労働人口が減少するなかで、企業が競争に勝つためには、女性や高齢者、障がい者の採用も必要不可欠になってくるでしょう。
心理的安全性が維持された職場やチームであれば、さまざまな立場の人材が活躍できる働き方を実現できます。ダイバーシティの推進は、イノベーションの促進にもつながるはずです。
5.問題の早期発見でリスクを防げる
前述のとおり、心理的安全性が低い職場やチームの場合、業務で問題やミスが起きたときに自分から言い出せない従業員もいます。管理監督者が問題やミスを把握しておらず、放置されると、外部を巻き込む大きなトラブルに発展することがあるかもしれません。他社を巻き込んだ場合、補償金や賠償金が発生する恐れもあります。企業不祥事ということになれば、社会的にイメージを悪化させる事態にもつながるでしょう。
心理的安全性が高い職場やチームであれば、大きなトラブルや不祥事に発展するまえに従業員からの報告が得られ、管理監督者が対応に当たることができます。問題やミスは、早期に発見して対応することが何より大切なのです。
心理的安全性のつくり方8選
従業員一人ひとりの考え方や意識を変えるのは、簡単なことではありません。しかし、心理的安全性が低い職場やチームであっても、適した対策を講じれば改善できることも多いのです。心理的安全性を高める実践方法には、次のようなものが挙げられます。
* 職場で相談しやすい環境を作る
* 業務以外でも関係構築を図る
* 会議で発言する機会を与える
* チーム全員で共通認識を持つ
* 相手を尊重する気持ちを大切にする
* 評価基準を定期的に見直す
* メンタルの支援制度を設ける
* メンバーの入れ替えを検討する
それぞれの方法を詳しく確認していきましょう。
1.職場で相談しやすい環境を作る
心理的安全性を高めるには、職場で相談しやすい環境を作ることが大切です。だれもが積極的に相談してくれる場合は問題ありませんが、なかには疑問や不安を感じても相談できずにいる従業員もいます。上司が気づかずに放置すると大きな問題に発展しかねません。
ですので、上司や先輩のほうから積極的にコミュニケーションを取ったり、疑問や不安がないかと声をかけたりなど、相談しやすい雰囲気を作ることが大切です。上司や先輩は、相談の受け方にも気をつけたいものです。腕組みや怖い表情などの態度で応対すると、相談しにくくなるものです。ふだんから部下と接する態度に気を配る必要があります。
また、相談しやすい環境を作ったとしても、毎回上司や先輩に質問しないとわからない状況では、質問するたびに何度も手を止めて申し訳ないと感じることもあるでしょう。基本的な業務は本人が解決できるようにマニュアルの整備も進めましょう。本当に必要なときにだけ上司や同僚に頼れる環境を作れば、受け答えする側の負担も減らせるため相談しやすくなります。
2.業務以外でも関係構築を図る
職場やチーム内でのコミュニケーションは業務内容が中心になりますが、それ以外でもコミュニケーションが取れる関係を構築したいものです。たとえば、小休憩を取るときに雑談をしてみたり、ときにはチームでランチに行ったりするのもいいでしょう。
仕事以外のメンバーの為人を知ることが、関係構築につながります。従業員同士で良い関係を構築できれば、業務でも連携が取りやすくなります。部下や後輩から業務以外の話をすることは抵抗があるかもしれません。上司や先輩から距離を縮められるといいでしょう。
親睦を深めるために食事会や飲み会を実施する場合は、決して無理強いしてはいけません。強制参加にしてしまうと、会社そのものにネガティブな印象を持たれる可能性があります。場合によっては離職につながるおそれもあるため、従業員一人ひとりに配慮した接し方が求められます。
3.会議で発言する機会を与える
会議では、参加者全員が自由に発言できる機会を与えることが大切です。会議には時間の制限もあるため、はじめはうまくいかないかもしれません。まずは特定の人しか発言できない状態を変えることが重要です。
会議の進行方法を見直して、会議中に1人につき1回は発言する機会を与えたり、最後に感想を述べる時間を設けたりしましょう。進行方法を少し見直すだけで、会議がより有意義なものになるはずです。
特に、入社して間もない従業員の場合、会議で自分から発言するのはなかなか勇気がいるかもしれません。上司や先輩がいる前では緊張してしまい、発言できなくなることもあるでしょう。手当たり次第に参加者に発言の場を与えるのではなく、個々の性格や立場などにも配慮することが求められます。
4.チーム全員で共通認識を持つ
組織やチームが目指す目標や、守るべきルールが明文化されておらず、従業員が思い思いのやり方で自分の仕事を進めていると、関係性が悪くなり、課題の共有が進まず、お互いに要望を伝えにくい状態になります。
メンバーが同じ方向性で仕事に取り組めるよう、チームの目標やビジョン、ミッション、バリューを明文化して共有したり、ミーティングなどの機会にそれを確認することで、同じ方向性でコミュニケーションを取ることができるようになります。
5.相手を尊重する気持ちを大切にする
心理的安全性を高めるには、従業員一人ひとりが相手を尊重する気持ちを持つことが求められます。そのためには、リーダーが率先してメンバーに感謝の気持ちを伝えることが重要です。
逆に、たとえば、会議で勇気を出して発言した従業員の意見を頭ごなしに否定すると、「上司や先輩は自分の意見を聞いてくれない」とマイナスの感情をもってしまいます。その意見がリーダーの経験から考えて有効なものではないとしても、まずは、チームのために勇気をもって発言してくれたことに対して感謝の気持ちを示しましょう。従業員は「自分が必要とされている」と感じることが大切です。それが能動的な言動につながります。
ほかにも、毎日欠かさず挨拶をしたり、名前で呼んだりなど、お互いを尊重する気持ちは、ちょっとした態度で示すことができます。
6.評価基準を定期的に見直す
評価基準は従業員の給与や評価に反映されるため、定期的に見直すことが大切です。正当な評価を受けていないと感じている従業員は、周囲を気にして、自分の意見を言わなくなる傾向にあります。
評価基準は、皆が理解できるようにきちんと定め、周知しておくことが求められます。
7.メンタルの支援制度を設ける
従業員のメンタルをサポートする制度を設けるのもおすすめです。1on1ミーティングやメンター制度なども、従業員のメンタルをサポートする一助になります。
1on1ミーティングとは、上司と1対1でおこなう個人面談のことです。人事面談とは異なり、部下の成長をサポートするためにおこなわれます。対話型の面談であるため、相手によっては雑談を交えながら進めることで、業務上の問題や悩みを聞き出しやすくなります。継続的に実施すれば、上司と部下の間の信頼関係が深まるでしょう。
メンター制度とは、年齢の近い年上の先輩社員が若手社員をサポートする制度のことです。年齢が近いこともあり、悩みや不安を打ち明けやすく、精神的なサポートになります。
8.メンバーの入れ替えを検討する
メンバー同士の相性が悪い場合は、人材の入れ替えを検討することもできます。相性が悪いメンバーで仕事をすると、協力関係がないため、場合によっては業務の進行に影響が出たり、大きなトラブルが発生したりなどマイナスに働く可能性もあります。無視できないレベルであれば、人事異動でメンバーの入れ替えを検討する必要があるでしょう。
心理的安全性の測定方法は2種類ある
心理的安全性を高めていくために、まずは現状を把握することが大切です。対策を講ずるのであれば、その前後で心理的安全性を測定することがおすすめです。
心理的安全性は、7つの質問、3つのサインで確認できるといわれます。
1.7つの質問で測定する
心理的安全性という概念を発表したエドモンドソン氏によると、心理的安全性は7つの質問で測ることができます。ネガティブな質問とポジティブな質問の回答数で心理的安全性を測る方法です。質問事項には、次のようなものがあります。
* チーム内で課題や難しい問題を指摘し合える
* 仕事でミスをすると不利になることが多い
* メンバーに対して意見や指摘をしても受け入れてもらえる
* 自分と異なるという理由で他者を拒絶するメンバーがいる
* ほかのメンバーに助けを求めるのが難しい
* チーム内で自分の能力や才能が尊重され、活かされていると感じる
* 自分の努力を意図的におとしめるような行動をするメンバーはいない
回答には、「強く思う」「思う」「どちらとも言えない」「あまり思わない」「思わない」を用意します。ネガティブな質問に対して「強く思う」、「思う」、ポジティブな質問に対して「あまり思わない」「思わない」の回答が多い場合は、心理的安全性が低いといえるでしょう。
2.3つのサインを確認する
3つのサインから心理的安全性を測定する方法もあります。業務のやり取りから心理的安全性を測るため、チームリーダーが活用しやすい方法です。
3つのサインには、次のようなものがあります。該当するサインが多く見られるほど、心理的安全性が高い職場といえます。
* 職場に笑いとユーモアがある
* ポジティブな発言が多い
* ミスについて話す機会がある
心理的安全性を維持する際の4つの注意点
心理的安全性を高めるための施策を講じるにあたって、注意すべき点をご紹介します。場合によっては、逆効果になることもあるため注意が必要です。
* 時間をかけて関係を構築する
* チームメンバーは友達ではない
* 気が緩まない対策をおこなう
* 楽ができる職場を作らない
1.時間をかけて関係を構築する
心理的安全性の構築には、時間をかけて取り組みましょう。取り組みを始めたからといって、人の考え方や行動がそう簡単に変わることはありません。一つひとつの取り組みについて効果をみながら、時間をかけて関係を構築することが大切です。
2.チームメンバーは友達ではない
心理的安全性を高めるために従業員同士の精神的な距離を縮めることは大切ですが、チームのメンバーは友達ではありません。リラックスしすぎて馴れ合いの関係にならないように注意しましょう。
また、仕事とそれ以外の時間でメリハリをつけないと、生産性が落ちる可能性もあります。心を許せる関係を構築することは大事ですが、仕事とプライベートが混ざったり、慣れ合いの関係にならないよう注意しなければいけません。
3.気が緩まない対策をおこなう
心理的安全性が高い職場やチームは、心が安らいで気が緩む従業員もいます。職場の緊張感がなさ過ぎると仕事で手を抜いてしまい、それがトラブルに発展することがあるかもしれません。他者を巻き込む問題に発展した場合は、企業イメージの低下や信用を失うリスクもあります。労働環境に変化を与えながらも、気が緩まない対策をおこなうことが大切です。
4.楽ができる職場を作らない
心理的安全性を向上するための施策を講じる際には、楽ができる職場を作ってはいけません。近年はパワハラやモラハラを意識しすぎるあまり、部下や後輩を叱れない上司が増えています。パワハラやモラハラを必要以上に気にし過ぎると、業務に支障が出ることがあります。上司が必要な時に部下を叱ることはパワハラではありません。叱るときには叱る、褒めるときには褒めるといったように、メリハリをつけて対応することが大切です。
まとめ:心理的安全性のつくり方を理解して人事施策を進めよう
少子高齢化による労働人口の減少や働き方改革により、各企業で生産性向上が課題となるなか、心理的安全性の概念が注目されています。心理的安全性を高める取り組みは、効果が出るまでに時間がかかるため、継続的に粘り強く取り組むことが求められます。
心理的安全性の定義を正しく理解したうえで、ポイントをおさえて人事施策に取り組みましょう。