eラーニングとは? 導入の仕方やメリット、成功のポイントを解説
2023年4月18日更新
仕事に必要な知識やスキルを身につける学習方法として、多くの企業でeラーニングの導入が進んでいます。導入して人材育成上の成果を出すには、社員にeラーニングで学ぶ重要性を理解してもらうことが大切です。今回はeラーニングの種類や活用方法、導入するメリットを解説します。
INDEX
eラーニングとは? 主な種類と活用法
eラーニングは、インターネットを活用し、パソコンやタブレット、スマートフォンなどを介して学習を行う方法です。学習者が自分のペースで学習を進めることができるのが特徴で、企業では社員研修の一環として人材育成に活用されています。
インターネットに接続できる環境があれば、社員は時間や場所にとらわれず、時間が空いたときに学習できます。また、eラーニングシステム(LMS)を活用すれば、企業の人事部門が社員の学習状況を管理することも可能です。
ここでは、eラーニングシステムの種類や活用方法を詳しく確認していきましょう。
eラーニングシステム(LMS)の主な種類
eラーニングシステムは、インターネット上で教材を配信できるツールです。英語ではLearning Management Systemと表記され、頭文字を取って「LMS」と略されています。LMSでは、受講者の基本情報を登録して学習進捗を管理できるのが特徴です。
eラーニングシステムを活用すれば、教材の動画やテスト配信などが行えます。社員研修の目的に合わせて複数を組み合わせて配信することも可能です。システム内で配信した動画やテストはいつでも編集できるため、状況に応じて内容の改善や更新をおこなえます。
参考記事:eラーニングの基礎となるLMS(学習管理システム)とは? 機能やメリット、選び方を解説│PHP人材開発
eラーニングの活用例
多くの企業ではeラーニングの導入が進んでおり、さまざまな場面で活用されています。たとえば、入社年数や役職に分けて必要な知識やスキルを習得してもらう階層別教育です。階層によって求められる役割、必要な知識やスキルが変わるため、階層に応じた教材を提供できるeラーニングが活用されています。たとえば新入社員研修や中堅社員研修、管理職研修などが、それにあたります。
eラーニングシステムは、全社員研修にも有効です。従来の研修方法では講師から受講者へのアプローチが一方通行になりがちですが、eラーニングを活用すれば必要なときに復習できるため、学習の定着にも有効です。多くの企業で、コンプライアンスやハラスメント防止、安全、食品衛生など、テーマ別の研修に利用されています。
1950年代にスタート。eラーニングの歴史
eラーニングは、1950年代に登場したCAI(Computer Aided Instruction)から発展を遂げてきたものです。CAIはコンピューターを教育に用いるシステムであり、当時はアメリカを中心に世界各国で研究・開発が実施されていました。
1990年代にはインターネットの普及に伴い、eラーニングの土台となったCBT(Computer-Based Training)やWBT(Web-Based Training)へと発展しました。
CBTとは、CD-ROM教材を中心とした学習方法を指します。WBTはインターネットを利用した学習方法で、教材やプログラムをサーバ上で一括管理できるのが特徴です。
CBTやWBTが発展したのち、eラーニングという言葉が2000年代に誕生しました。スマートフォンの急速な普及により、時間や場所に縛られずに学習ができるため、遠隔地にいるにも利便性が高いことから、eラーニングはますます注目を集めるようになりました。
さらに、2019年から拡大したコロナウイルス感染でオフラインでの研修実施が難しくなり、eラーニングを導入する企業が一気に増加しました。現在は、大手企業だけではなく中小企業でも利用が進み、今後もさらなる導入拡大が予測されています。
eラーニングの費用相場
eラーニングの導入費用は、オンプレミス型とクラウド型で変わります。オンプレミス型とは、自社でサーバーやシステムを構築して運用する形態です。IT環境を自社で開発するため、カスタマイズ性が高く、独自のシステムを構築できます。自社サーバーで社内ネットワークを構築するため、情報漏洩するリスクが少なくセキュリティが高いのも特徴です。
一方のクラウド型は、サービス提供事業者が管理するサーバーやネットワークを介してシステムを利用します。オンプレミス型とは異なり、自社でサーバーやシステムを構築する必要がないため、初期投資を抑えられるのが特徴です。インターネット環境があれば社内外から自由にアクセスできるため、在宅ワークやリモートワークにも対応できます。
初期費用を抑えたいのであれば、クラウド型を利用するのがおすすめです。サービスによって初期費用の有無や運用費に違いがあり、利用する社員の数に応じたボリュームディスカウントが用意されているサービスもあります。オンプレミス型は、ネットワークの構築費用に加えてサーバーの設置代や自社で運用するための人的リソースが必要です。クラウド型に比べると、オンプレミス型は費用が高くなる傾向にあります。
「6W1H」で考える│eラーニング導入時のポイント7つ
eラーニングを導入し、期待した効果を得るためには、6W1Hの観点を踏まえて準備することが大切です。eラーニングの導入における6W1Hには、次のようなものが挙げられます。
- eラーニングの利用目的を明確化する(Why)
- 施策の対象者を明確化する(Whorm)
- 目的に合った学習システムを見極める(What)
- LMSを置くサーバー、端末を確認する(Where)
- 開始時期を決定する(When)
- 管理・運用に必要なチーム体制を整える(Who)
- 利用促進につながる活用方法を検討する(How)
1.eラーニングの利用目的を明確化する(Why)
eラーニングの導入効果を得るために、はじめにやっておきたいのが利用目的の明確化です。まずは、自社でどのような人材育成の課題を抱えているのかを洗い出してみましょう。自社の経営目標や課題を基点にして考えれば、自ずと利用目的が明確になるはずです。
自部門だけで考えるのではなく、社内でヒアリングしてみるのもいいでしょう。この段階で自社の課題と利用目的を明確にしておけば、eラーニング導入の必要性も論理的に説明できるため、経営層の理解も得やすくなります。
2.対象者を明確化する(Whorm)
eラーニングの利用目的を明確にできたならば、教育施策の対象者を確認しましょう。たとえば全社員を対象にするのか、それとも特定の階層を対象にするのかでも、eラーニングの運用方法は大きく変わります。近年は雇用形態も多様化しているため、正社員や非正規社員も含めるのかどうかを明確にすることも大切です。
eラーニングは氏名や生年月日、雇用形態、職種、入社年次など社員の基本情報をLMSに登録したうえで、教材配信や学習履歴などを管理します。eラーニングを導入する段階でシステムに登録する社員を明確にしておけば、導入するときに効率よく準備を進められるでしょう。
3.目的に合った教材を見極める(What)
利用目的や対象を明確にしたならば、次はeラーニングで必要になる教材を考えましょう。教材を準備する方法には、次のようなものが挙げられます。
* 既製の教材を購入する
* 教材の制作を依頼する
* 自社で教材を制作する
eラーニングの教材は多く販売されているため、それらを使用する方法があります。学習内容は細かく決められませんが、既製品を活用すれば一般的な学習内容を一通り提供することが可能です。担当者の負担も減らせるため、導入も効率よく進められます。
自社に合わせた教材を提供したいのならば、専門の制作会社への依頼を検討しましょう。教材の設計から始まり、学習内容やイラストの有無、テストの難易度などを相談しながら、自社専用の教材を開発することができます。制作費用はかかりますが、自社の課題解決につながる教育を提供できるでしょう。
最後は、自社で教材を制作する方法です。誰でも簡単に教材を制作できる便利なツールを利用すれば、時間をかけずに用意できます。ただし、オーダーメイドの教材と比べると内容が簡素になる傾向があり、学習する側に飽きられやすいなどのデメリットもあります。
4.LMSを置くサーバー、端末を確認する(Where)
LMSを利用するには、システムを置くサーバーと受信する端末が必要です。「eラーニングの費用相場」のところでもご紹介したように、eラーニングにはクラウド型とオンプレミス型があります。クラウド型は、サービス事業者が管理するサーバー上のLMSにアクセスすれば利用可能です。オンプレミス型は、自社のサーバーにLMSをインストールする必要があります。
端末の対応有無はLMSによって異なるため、社員が学習を進めるのがPCなのか、あるいはタブレットやスマートフォンにするのかなど、利用する端末を明確にしておくといいでしょう。また、社内LANだけでなく自宅のWi-Fiなど、受講する場所の通信環境を事前に確認しておくことが大切です。
5.開始時期を決定する(When)
eラーニングの運用を開始するには、教材の準備やLMSのセットアップ、基本情報の登録作業、マニュアル作成などさまざまな準備が必要です。どれだけの準備期間が必要なのかを明確にしたうえで、eラーニングの開始時期を決めましょう。eラーニングを導入するために必要な準備期間は、一般的に1~3ヵ月程度といわれています。
ただし、自社でサーバーやシステムを構築する必要があるオンプレミス型を選んだ場合は、3ヵ月以上の準備期間が必要なことも多いです。はじめて導入する場合は、慣れない作業に想定以上に時間がかかることもあります。eラーニングの導入が決まったならば、準備期間を見越したうえで開始時期を検討しましょう。
6.管理・運用に必要なチーム体制を整える(Who)
eラーニングの効果を得るには、システム管理や運用に必要なチーム体制を整えることが大切です。導入から運用の過程において予期せぬトラブルが起こることもあります。運用代行サービスの利用を検討するなど、もしもに備えて適切なサポートを受けられるように運用体制を整えておきましょう。運用代行サービスを利用する場合は、運用相談窓口の詳細をチーム内で共有しておくとスムーズに対応できます。
7.利用を促進する方法を検討する(How)
福利厚生としてeラーニングを導入する場合、社員が積極的に使用してくれるとは限りません。このような場合は、社内でeラーニングの利用を促す取り組みが必要です。
eラーニングを周知したり、具体的にどのような効果を得られるのかを伝えたりする取り組みが大切です。はじめは利用者が少なくても、実際に利用した受講者がeラーニングの効果を感じてくれたならば、社内で口コミが広がり、ほかの社員が興味を示してくれる可能性もあります。社員の利用促進につながる活用方法を検討しましょう。
eラーニングを導入する4つのメリット
eラーニングの導入には、費用や人的コストがかかりますから、対費用効果が気になります。ここでは、導入のメリットをご紹介します。
- 研修コストを削減できる
- 研修内容の均一化が図れる
- 社員が習得できるスキル、知識の幅が広がる
- 人材育成の効率化が進む
それぞれのメリットを詳しく確認していきましょう。
1.研修コストを削減できる
集合研修(オフライン研修)の場合、資料の印刷料や講師の登壇料、会場費用などの研修コストがかかります。研修を受ける社員が多ければ多いほど、日程調整や学習状況など管理工数もかかります。しかしeラーニングでは、それらの費用や調整業務を削減できます。
またeラーニングであれば、学習状況をシステム上で一元管理できるうえにデータも蓄積できるため、担当者の業務負担も削減可能です。一度作成したシステムや教材は次年度も再利用ができます。これまでかけていた研修コストを大幅に削減できるため、教育予算やリソースの有効利用につながります。
2.研修内容の均一化が図れる
eラーニングを導入すれば、研修内容の均一化を図ることができるのも一つのメリットです。オフライン研修では、講師の能力で学習効果が変わることも少なくありません。期待した学習効果を得られないこともありました。
しかし、eラーニングであれば、社員が同じ教材で学ぶことができます。研修内容が均一化されるため、一定の学習効果を得やすくなります。
3.社員が習得できるスキル、知識の幅が広がる
業務に必要な知識やスキルは多岐にわたり、すべてをオフライン研修で教えるのは困難です。しかしeラーニングであれば、職種や階層などそのときに必要な知識やスキルを、社員一人ひとりの能力レベルに合わせて提供することが比較的容易ですから、社員全体の底上げにもつながります。
4.人材育成に関わる管理業務の効率化が進む
eラーニングを導入すれば、人材育成に関わる管理業務の効率化を進められます。LMSでは学習履歴や成績をデータで管理できるため、人事評価システムと組み合わせれば、社内の人材育成の管理業務を効率的に行うことができます。
また、学習進捗や成績が可視化できれば、社員がその結果を見て現状を改善するために自発的に学習することもあるでしょう。人事教育部門が社員の学習環境を整えておくことで、社員の自発的な能力開発につなげることができます。
eラーニングが抱える4つの課題
多くのメリットがあるeラーニングですが、いくつか課題があるのも事実です。eラーニングの導入を成功させるためには、どのような課題があるのかを事前に理解しておく必要があります。主な課題は、次のとおりです。
- モチベーション維持のための工夫が求められる
- システム管理にはITスキルが必要
- 実技の習得が難しい一面がある
- 学習教材の自社開発には時間や労力がかかる
1.モチベーション維持のための工夫が求められる
eラーニングには時間や場所にとらわれずに学習できるメリットがありますが、社員の自主性に委ねられることも少なくありません。eラーニングで継続的に学習してもらうには、社員のモチベーションを維持するための取り組みをおこなう必要があります。
学習のモチベーションを保つには、ゲーム的な要素を取り入れるゲーミフィケーションを導入したり、学習のサポート体制を充実させたりするのが有効です。また、業務に必要な知識やスキルの習得させたいのであれば、労働時間に認定するという方法もあります。自己啓発の支援であれば社員補助を別途支払うなど、モチベーションを保つためのしくみをつくっておくといいでしょう。
特に若手社員の受講率を高めたいのならば、対応デバイスを増やすのもおすすめです。若い世代ほどスマートフォンでの学習を希望する社員が増える傾向にあります。スマートフォンでの学習ができれば、前向きに取り組んでくれる可能性が高まります。
2.システム管理にITスキルが必要
eラーニングは、システムを管理するには一定のITスキルが必要です。ITスキルに乏しい人材が担当者になると、機密性の高い情報を漏洩してしまうなどのリスクが高まります。
社内管理者には、ITスキルを持つ人材を選びましょう。必要に応じてシステム管理者としての教育を実施し、安全にシステム管理できる環境を整えることが大切です。
3.実技の習得が難しい一面がある
eラーニングではインターネットを介して幅広い知識やスキルを学べますが、実技の習得には不向きな一面があります。実践的なスキルを身につける場合は、ブレンディッド・ラーニングを取り入れましょう。
ブレンディッド・ラーニングとは、さまざまな学習方法を組み合わせた手法です。たとえば、eラーニングで座学講義を受講したあとで現場での実技実習に取り組むなど、複数の異なる学習形態を組み合わせる方法があります。ブレンディッド・ラーニングによって実技を強化させることが可能です。
4.学習教材の自社開発には時間や労力がかかる
既製品を購入したり外部に制作を依頼したりなど、教材を用意する方法はさまざまです。しかし、自社にあう教材をeラーニングで提供したい場合は、額旧教材を社内で制作することを検討する企業も少なくありません。自社制作は費用を抑えられるメリットがある一方、教材を完成させるまでに時間や労力がかかります。
はじめてeラーニングを導入する場合は、システムの使い方をわかりやすく説明したマニュアル作成も必要になるでしょう。リソースが割けない場合には、、自社開発にこだわらずに既製品の購入や外部への依頼を検討するのがおすすめです。
eラーニング導入に向けた4ステップ
eラーニングを導入するステップは、次のとおりです。それぞれのステップを確認していきましょう。
- 自社の課題を明確化し情報を集める
- 目的に合った業者を選定する
- 導入に向け準備を進める
- 運用スタート
1.自社の課題を明確化し情報を集める
自社の課題や対象者を明確化し、教材・LMS・費用の3つの軸で情報を集めましょう。教材やLMSに意識が向きがちですが、予算を超える費用はかけられません。3つの軸で、自社にあうものを総合的に判断して決めることが大切です。また実際に使用してみないと、教材やLMSの良さを正しく理解できないこともあります。少し手間かもしれませんが、一度試してみるのがおすすめです。
2.目的に合った教材を選定する
情報収集で上がった候補の中から、自社に適したLMSサービスを選定します。クラウド型を使用する場合、利用ユーザー数で料金が変わることも多いので、選定する前に利用人数を明確にして、料金プランや追加オプションを検討しておきましょう。教材も、この時点で適切なものを吟味しておくといいでしょう。
教材やLMSを選ぶときは導入実績の高さに目がいきがちですが、自社には合わないものもあります。導入実績はあくまで参考材料のひとつにして、自社の課題を解決できる教材やLMSを選ぶことが大切です。
3.導入に向け準備を進める
LMSサービスには、先述のとおり、クラウド型とオンプレミス型があります。オンプレミス型を選んだ場合、自社でシステムを構築することが必要です。規模にもよりますが、システムを構築できるまで3ヵ月以上かかる場合もあります。クラウド型の場合、システムを構築する作業は必要ありません。
教材の制作準備もこの段階で進めましょう。システムが用意できたならば動作確認テストを実施します。運用場面を想定し、システムの動作に問題がないかどうかを確認しましょう。教材についても、取り込んで入力ミスがないかどうかを細部までチェックします。
4.運用スタート
ここまでの準備がすべて完了したら、eラーニングシステムの運用開始です。運用を開始すると、担当者の業務はトラブルの対応になるでしょう。運用するなかでエラーが発生した場合には、まず原因を見極めて都度適切に対処しなければなりません。
運用を開始する前に想定されるエラーを洗い出し、その対処法をマニュアル化してチームで共有しておくのも一つの方法です。マニュアルがあれば、トラブルが起きても受講者自身で問題を解決できます。eラーニングの運用開始直後はエラーが起こりやすいため、事前に準備しておくとスムーズに対応できるはずです。
まとめ:eラーニングを導入し、人材育成に活用しよう
業務に必要な知識やスキルを身につけられる学習方法として注目を集めるeラーニングですが、自社の課題や導入目的、利用者などを明確にして導入することが大切です。また福利厚生としてeラーニングを導入する場合は、利用促進するための取り組みが欠かせません。導入前の調査や準備を入念に行い、期待した成果が得られるようにステップを踏んで進めていきましょう。