部下を批判し過剰な自己防衛を強いる管理職
2017年10月11日更新
部下の行動に対して、その背景にある目的も聴かず、頭ごなしに叱りつける管理職がいます。しかし、それは思い込みによる決めつけであり、正しい判断軸で判断しているとは言えません。
そのようなことが続くと、部下は過剰に自己防衛をするようになり、コミュニケーションに支障が生まれます。部下の話を聴こうとしない管理職に、人材開発担当としてどうアドバイスすればよいのか、アドラー心理学に学びます。
【質問】私の部下のなかにたびたびウソをつく者がいます。失敗をしたときなど、その場を言い逃れよう、叱られるのが怖い、叱られないようにしようという意識からか、ウソを言ってしまうようです。しかし、こちらからすればバレバレで、なぜそんなウソをつくのか理解に苦しみますし、非常に腹立たしく、ついカッとして「だからお前はダメなんだ」と頭ごなしに叱ってしまいます。こうした部下にはどう指導すればよいのでしょうか。(40歳男性 運送業 課長)
正しい判断軸は「ユースフル」か「ユースレス」
あなたは、ある出来事や部下の行動を判断するときに、その基準として「良い/悪い」を基準にするか、それとも「好き/嫌い」を軸にするかのどちらかではありませんか?
「良い/悪い」は、誰かに教えられたか自分で身につけたか、何かの価値観に基づいて判断する方法で、「好き/嫌い」の多くは、自分の経験からできあがった好みに基づいて判断する方法です。下の「ありがちな判断軸」の図がそのことを示したものです。部下の行動が右上のゾーンに入っていると、賞賛し褒めるという行動を起こします。ところが、左下のゾーンに入っていると罵倒し叱るという行動に出ます。
しかし、アドラー心理学では「ありがちな判断軸」の発想を選択しません。「アドラー心理学の判断軸」は、自分や他者を含む共同体(ここでは会社)にとって建設的(ユースフル)か非建設的(ユースレス)です。
アドラーは著書のなかで、「on the useful side of life(人生の建設的側面に立脚して)」 という表現を多用しています。これは「良い/悪い」「好き/嫌い」という主観的な判断基準を超えて、自分と他者を含む共同体(会社)にとって、プラスの建設的な方向に向かうのか、それともマイナスの非建設的な方向に向かうのかが判断基準になります。そのため、「正しい自分が間違っている部下を批判し叱責する」という発想に結びつかないのです。
部下を話し上手にする8つのコツ
部下の行動が会社にとって非建設的(ユースレス)と判断した場合、次にあなたは「どうして○○したんだ?」「なぜ○○したんだ?」とその行動の原因を部下に問いただしていませんか。
このご相談者の場合、原因を問いただしていると思われます。なぜなら、部下がウソをつくというのは、叱責のなかに原因追及が含まれると高い確率で予想できるからです。いくら原因を追究したとしても起こってしまった事実は変えることができません。必要なのは、過去に何をして現在の状況はどうなのかという「現状把握」です。
正確に現状把握するには、部下からのヒアリングが欠かせません。そうしたときに役立つ「部下を話し上手にする8つのコツ」をご紹介しましょう。
(1)姿勢・態度
部下がよい姿勢で座っているのに自分がふんぞり返っていたら、部下に違和感や不信感を与えます。部下と同程度の節度ある姿勢・態度を保ちましょう。
(2)距離
人間も動物です。熊やライオンのように「テリトリー」があります。個人差はありますが、平均半径1.2mと言われています。このテリトリーに入られると、無意識に心の中でアラームが鳴り、話を聴ける状態ではなくなります。家族や親友などの特別な関係でない限り、立ち入らないようにしましょう。
(3)表情
仕事を受注した報告をしているのに暗い顔をされたら、部下は聴いてもらえていないと感じます。話の内容にマッチした表情を心がけましょう。
(4)視線(アイコンタクト)
アイコンタクトを取らないで話を聴いていると、部下は無視されたように感じます。しかし、話している人の目を見続けるのは、かなり苦痛に感じます。そこでテリトリー外であれば、鼻や口元を見て話を聴きましょう。部下は目を見ていると錯覚してくれます。そして時折目をみるようにしましょう。
(5)聴いている合図
部下が話しやすくするために、嫌味にならない程度に首をタテに振りましょう。
(6)相槌(イエスの意思表示)
「ええ」「そう」といっただけでなく、イエスと思ったなら「なる程」「そうですね」「わかります」「いいですね」等の相槌を、こちらも嫌味にならない程度に言いましょう。
(7)質問(部下の話の枠内で)
部下の話のなかで欠落している情報があれば、「それはいつのことですか?」「それが起こった場所はどこですか?」などと質問をして、話の全体像を把握しましょう。
(8)確認(自分の理解を確認)
確認とは、あなたと部下との間に生じる理解のギャップを埋める作業です。確認には次の2つの方法があります。
①単純に部下の言ったことを繰り返す
②言葉の背景にある情報や感情を推測して確認する
「具体的にどう言いましたか」「その時、お客様はどのような表情をしましたか?」
「相手にどのような印象を与えたと思いますか?」など.......
部下に行動を考えさせる
部下に話をさせて全体像が把握できれば、次に、部下がそのことに対して「どう感じているのか?」「どうすればよかったのか?」「今後どうするのか?」を考えさせ、発言させるようにしましょう。それがあなたの考えと違うときには、頭ごなしに否定するようなことはせず、部下の心情に配慮し「私の考えを言っていいかな」と部下にことわってから伝えましょう。お互いの考えを同じテーブルの上に乗せて、客観的に話し合うようにします。
このとき、あなたが絶対にやってはならないことは、部下の認知も尋ねず、「わたしは○○と感じた」「こうすればよかったと思う」「今後こうすべきだ」と、自分の認知を押しつけることです。
ご相談のようなケースでは、まずはその管理職の方に、部下の失敗を自分の基準で判断し、部下の話も聴かず、ダメ出しをしていることに気づかせる必要があります。そのうえで、次の3ステップで対応するよう、促しましょう。
(1)部下の行動を判断するときに、会社にとって「建設的(ユースフル)」「非建設的(ユースレス)」という基準で行なう。
(2)部下を話し上手にする8つのコツを実践する
(3)部下の認知を聴き、客観的に話し合う
そうすることで、部下が過剰な自己防衛からウソを言うようなことはなくなっていきます。管理職の方も、思わずカッとなるようなことはなくなるでしょう。
「良い/悪い」や「好き/嫌い」ではなく、「建設的(ユースフル)/非建設的(ユースレス)」を判断の基準にすることで、相互尊敬・相互信頼のベースが構築されていきます。「勇気づけ」であふれた職場の実現に向け、ぜひ実践してください。
宮本秀明(みやもと・ひであき)
1982年、スタンフォード大学中退。広告業界から数社の研修会社を経て、現在㈲ヒューマン・ギルド法人事業部長兼シニアインストラクター。ロジカルシンキング、ファシリテーションからマナー教育まで、幅広いコミュニケーションの研修を担当。米国と日本双方のビジネス経験を生かし、それぞれのよさを融合させた、和魂洋才型の研修プログラムを独自に開発。受講生の目線に立った習得しやすいカリキュラムの構成力、やる気を促す講師手法には定評がある。著書に、『マンガでよくわかるアドラー流子育て』(岩井俊憲監修、かんき出版)、PHP通信ゼミナール『リーダーのための心理学 入門コース』(監修:岩井俊憲、執筆:岩井俊憲・宮本秀明・永藤かおる、PHP研究所)などがある。