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フィードバックによる部下育成が組織に定着する条件とは?

2018年8月 2日更新

フィードバックによる部下育成が組織に定着する条件とは?

中原淳氏が提唱する人材育成法「フィードバック」を管理職研修に導入する企業が増えています。しかし、研修でスキルを教えるだけでは、部下育成の効果がなかなか上がらないことがわかってきました。組織に定着させるためには何が必要なのでしょうか?

「フィードバック」を導入する企業が増加

部下育成の手法として、中原淳氏(立教大学 経営学部 教授)が提唱する「フィードバック」の導入を考える企業が増えています。

フィードバックとは、耳の痛いことを部下にしっかりと伝え、その成長を立て直す人材育成法です。(フィードバックについては「部下指導の最強の武器となる人材育成法『フィードバック』」をご参照ください)

この人材育成法が求められる背景として、昨今の上司の部下育成力の低下があげられるでしょう。部下の育成は、そもそも時間がかかるうえに成果が見えにくいものですが、プレイングマネジャーである上司・管理職には、部下育成に費やせる時間が十分にありません。また、ハラスメントに対する意識が過剰に高まり、「部下を傷つけるかもしれないことを、どこまで言っていいのか」という懸念が広まっていることも育成力低下の一因としてあげられます。

昨今は、何でもすぐに「パワハラ」だとか「ブラック企業」だとかいわれやすい風潮があります。厳しい指導をすると辞めてしまう若手社員も多いことから、上司のほうで面倒を避けたいという気持ちが働くのかもしれません。

しかし、部下育成では、ときには耳の痛いことをしっかりと伝える必要があります。そのうえで、立て直し、学び直しにいかに寄り添うかが問われます。このとき重要になってくるのが、フィードバックなのです。

上司に対する「フィードバック研修」だけでは組織に定着しない

フィードバックは、多くの企業で、上司・管理職を対象にした研修として取り入れられています。ところが数時間の研修でフィードバックの理論と方法を学んだだけでは、実際には研修効果が出にくいことがわかってきています。

その理由は、フィードバックが「部下に対する肯定的な人間観」と「上司と部下との信頼関係」のうえになりたつものだからです。

フィードバックが組織に定着する条件

フィードバックを成功させる第一条件は、上司の側が、部下に対して肯定的な人間観をもつことです。「近頃の若手はダメだ」とか、「ゆとり世代は頼りなくて使えない」といった否定的な人間観をもっていると、部下との心の距離はなかなか縮まりません。そういう態度で接していると、お互いに心を開くこともできないはずです。

そして第二条件が「部下との信頼関係」です。もともと上司と部下の間でコミュニケーションの機会が少ない状態であれば、当然ながら信頼関係も十分に構築されていません。その状態でフィードバックを手順通りに行なっても、部下は上司の言うことに納得せず、アドバイスをきちんと受け入れることができないのです。

部下の側にも問題があります。今の若手社員は、同期入社の仲間や、1~2歳上の先輩とは盛んにコミュニケーションをとりますが、10も20も離れた上司と話すのは非常に苦手としています。仕事が終わった後、上司が飲み会に誘うと「それは仕事ですか?」と聞いてくるという話も耳にします。日常の会話が多くないため、上司がどのような考え方で、どのようなビジョンを描いているかも理解していないのです。

コミュニケーションを促進する「1on1ミーティング」

上司と部下のコミュニケーションを促進する手法として注目を集めているのが、ヤフーが2012年から実施している「1on1(ワンオンワン)ミーティング」です。「1on1ミーティング」は、週1回、30分程度行なわれる上司と部下の面談です。ここでは、対話の中で上司が部下の業務の進捗確認を行ない、問題解決をサポートします。これが、会社として制度化されているのです。

人材育成において大きな成果が出ていることから今では広く知られるようになった「1on1ミーティング」ですが、導入当初は同社の社員に必ずしも受け入れられていたわけではなかったといいます。そもそも、この制度が導入された当時、同社では隣の席の同僚や上司ともメールで対話するようなコミュニケーション不全の状態にあり、創業当初の事業展開におけるスピード感やチャレンジングな風土が失われていくことに危機感を抱いた経営トップの号令で導入されたといいます。

上司と部下の信頼関係によって「フィードバック」の効果が高まる

「1on1ミーティング」では、上司は「気の合わない苦手な部下」とも対話をせざるを得ない状況になります。苦手な部下とは、日頃のコミュニケーションの機会も少ないものですが、いざ話してみると、上司の側で部下に対する誤解に気づくことがあります。「価値観は違うけれども、案外いいヤツだったんだ」ということもあるでしょう。部下のほうでも、上司から自分にない知識を得ることができ、また、仕事の指示命令だけではない上司のプライベートな面を知ることで、親しみをもつかもしれません。

人間には「形から入って心が変わる」という一面があります。最初は会社からの命令で仕方なく「1on1ミーティング」を行なったとしても、回数を重ねることで自然に会話ができるようになり、相手のいいところも見えるようになります。そうして互いに認め合うことが、信頼関係の醸成につながっていくのです。

こうして深まった信頼関係のなかでフィードバックを行なえば、部下は上司のアドバイスに聞く耳をもってくれるはずです。さらに「フィードバックは自らの成長のために必要だ」という意識をもてるようになれば、成長のスピードはグンとあがっていきます。

組織風土開発の一環として

フィードバックは、考課面談の手法として上司が研修で学ぶというケースも多いでしょう。しかし、組織風土開発の一環として会社全体で取り組むことで、より大きな成果が得られます。

PHP研究所のフィードバック研修では、部下に対する肯定的な人間観や、信頼関係の重要性をお伝えしています。そのうえで、フィードバックのスキルを習得していただき、部下とチームの成長、そして会社としての業績伸長を目指していただきたいと考えています。

中原淳監修フィードバック研修・教材はこちら

フィードバック研修の詳しい資料(PDF)はこちら

的場正晃(まとば・まさあき)
PHP研究所人材開発企画部部長
1990年、慶應義塾大学商学部卒業。同年PHP研究所入社、研修局に配属。以後、一貫して研修事業に携わり、普及、企画、プログラム開発、講師活動に従事。2003年神戸大学大学院経営学研究科でミッション経営の研究を行ないMBA取得。中小企業診断士。

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