組織力を高めるために、人事部として心得ておきたいこと
2019年3月13日更新
IT技術の発展によって異業種間競争が起こる産業の大転換期に突入しました。企業は、この時代の波を乗り越えていくための「組織力」をどのように高めていけばいいでしょうか。
産業構造の歴史的な転換期
みなさんは、香川照之さんを起用したトヨタのCMをご覧になったことがあるでしょうか。
「トヨタは、車のメーカーじゃなくなる」
自動車メーカーの代名詞ともいえるトヨタのCMで、この印象的な言葉が発信されています。
自動車産業の例を出すまでもなく、いま、IT技術の革新的な進歩などによって業界を隔てる境界線がますます曖昧になり、あらゆる分野で異業種間競争が発生しています。
そして、ドラッカー(※1)は、世界は数百年に1 度、際立った転換が行われ、今まさにその真っ只中にあると述べています。それは1965 年頃からはじまり、2010 年、あるいは2020年頃まで続くだろうとのことですが、現実にも、2010年頃からのIT革命にAIが加わり、人間の作業を代替し始めています。
ドラッカーは、さらに、この大変動が一段落した時に、時代の流れに適応できたか否かで企業間に大きな格差が生じているに違いないとし、その決定的な要因は、企業組織の知的生産性の差であると論じています。
今や企業は、組織課題から一刻も早く脱却して、企業間競争を乗り越えていかなければいけない時代。そのためにも、組織力の強化は最重要課題といえるでしょう。
組織力強化の肝は「ヒト」のマネジメント
ドラッガーの提言にもありましたが、そうした時代であるからこそ、「組織力」を考えるうえでもAIでは代替できない部分、つまり「ヒト」の思考と行動、意識と心理のマネジメントが、これまで以上に中心に据えられることになるでしょう。
経営資源(ヒト、モノ、コト、カネ、情報)の中で、特に「ヒト」のマネジメントに焦点が当たる理由は、「ヒト」が行動して他の経営資源を動かしており、プラスにもマイナスにも大きく影響を及ぼしていることに加え、「ヒト」には想定外の問題が露呈されることが多いからです。
組織を効果的に運営し、組織力を向上させるためには、組織の中で起こる様々な「ヒト」の行動を科学的に理解することで、成果が大きく変わるといわれています。
プロクター&ギャンブル ジャパン社の事例
では、「ヒト」のマネジメントの成功事例をご紹介しましょう。
プロクター&ギャンブル ジャパン社は、社員の総合評価、第一位。内訳は、待遇面の満足度、社員の士気、風通しの良さ、20代の成長環境、人事評価の適正感が第一位(※2)で、調査項目の
8項目中、5項目が第一位です。
同社の「共有する価値観:Our Values」として公示されている内容は、下記の通りです(※3)。
「P&Gは、社員とその生き方を導く価値観(バリュー)とから成ります。 私たちは、世界中で最も優秀な人材を引きつけ、採用します。 私たちは、組織の構築を内部からの昇進によって行い、個々人の業績のみに基づき社員を昇進させ、報奨します。 私たちは、社員が常に会社にとって最も重要な資産であるという信念に基づき、行動します。」
同社では組織全体で、この価値観を机上の空論にせず真に共有し合い、実践していて、それだからこその、「社員の総合評価、第一位」ではないかと考えます。
不確実な経済環境の中において、企業が永続的に発展していくためには、市場の特性を理解し、価値創造活動、組織の知的生産性の向上を実践し、顧客を獲得していくことが必須課題です。そして、革新的研究開発を実施するための「構想提案力」や「目標設定力」を強化し、それらを効果的に進める「方法論」と「マネジメントのあり方」を機能させていく事が必要です。
いずれにしても、「ヒト」を活かして組織力を高めることが大切だということは、前述の事例の他にも数十万の研究結果から明確になっています。
しかし、私自身、さまざまな企業で研修を実施するなかで、「ヒト」のマネジメントがうまくいっていないという組織が多く存在することを実感しています。
組織力を高めるためのグループダイナミクス
では、どうすれば「ヒト」のマネジメントを改善し、組織力を高めることができるでしょうか。
最近では、マサチューセッツ工科大学 Daniel. Kim教授の提唱する「組織・チームの成功循環モデル」が注目されています。
【組織・チームの成功循環モデル】
この研究によると、お互いに尊重し、一緒に考え合い(関係の質を向上)→気づきが生まれ、仕事にやりがいを感じる(思考の質を向上)→自分で考え、自発的に行動し(行動の質が向上)→ 成果が得られる(結果の質が向上)→お互いに信頼関係が高まる(関係の質の向上)といった「グッドサイクル」を回していく事が必要だとしています。
一方で、「バッドサイクル」は、次のようなスパイラルをめぐっていくものです。
成果が上がらない(結果の質が低下)→上司と部下の対立が起き、指示・命令が増える(関係の質が低下)→仕事に面白味を感じられず、受け身で仕事を進め(思考の質の低下)→叱られないように失敗を回避し、チャレンジせず、消極的行動となる(行動の質の低下)→さらに結果が上がらない(結果の質が低下)→関係がより悪化する(関係の質の低下)という組織力の弱化のスパイルをめぐっていきます。
この「バッドサイクル」は、残念なことに、今まで普通に廻してきたサイクルだと感じられる方も多いと思います。これを「グッドサイクル」に替えようと、個人でいくら努力しても、なかなかうまくいくことはありません。「グッドサイクル」は、「組織全体で共有」し、「協働意識と貢献意欲」をもって、「全員」で取り組まなければ実現できないといえるでしょう。
PHP研究所のインハウス研修「5つの原則」
昨年リリースされ、現在多くの企業から注目されているPHP研究所の組織力トレーニング「5つの原則」は、現存する企業課題を解決する実践的なコンサルテーショントレーニングと言えます。このトレーニングは、組織そのものを革新していくことによって、管理者のマネジメント力と、個々のスキル革新が同時におき、グループダイナミクスを起こしていきます。あわせて、一過性に終わらせず、組織全体に浸透された組織風土となって確実に成果をあげていくというプログラムになっています。「組織力強化」について取り組みを検討されている企業では、採用を検討いただければと思います。
(参考文献)
※1 Drucker, P. F.(1993)『ポスト資本主義社会』(上田惇生他訳)ダイヤモンド社,歴史の転換期:pp.21-26,教育ある人間:pp.347-360
※2 プロクター・アンド・ギャンブル・ジャパン「社員クチコミ」│ 就職・転職の採用企業リサーチ Vorkers
https://www.vorkers.com/company.php?m_id=a0910000000G7Hg
※3 企業理念|企業情報|暮らし感じる、変えていく P&G
https://jp.pg.com/about/policy/
円城寺美希(えんじょうじ・みき)
国内・海外航空会社勤務後、TV報道キャスターを担当。大学非常勤講師勤務を機に本格的に講師活動を開始する。心理学と行動科学・大脳生理学をベースにしたコミュニケーション、営業力向上の研究に従事。企業・自治体・教育現場において、中堅、若手階層別研修、テーマ別研修を担当。エグゼクティブコーチ、心理カウンセラー、行動分析コンサルタントとして活動する。早稲田大学卒。