「社員の幸せ」とは?「社員が幸せな会社」とは?~人事部が押さえておくべき4つの視点
2020年8月 1日更新
社員が幸せな会社(従業員満足度の高い会社)とは、どのような会社でしょうか。ご一緒に考えてまいりましょう。
働く社員の「幸せ」とは何か?
そもそも「社員の幸せ」とはいったい何でしょうか。日本には従業員満足度の高い会社がたくさんありますが、そのような会社を「社員の幸せ」という視点から調べてみると、次のような共通項が見えてきました。
【社員が幸せに働くために大切な4つの項目】
1.人間的成長を得られること
2.将来に希望が持てること
3.大切な人に誇れる仕事であること
4.安心して働ける職場であること
人間的成長を得られること
社員が幸せに働くために大切な4つの項目、その1番目の項目は「人間的成長を得られること」です。社員が幸せな会社(従業員満足度の高い会社)に共通していることの一つに、掃除やボランティア活動の習慣があります。なぜ、社員が幸せな会社では、社員が率先して掃除やボランティア活動をしているのでしょうか。これは、いったい何をしているかというと、感性を磨いているのです。日本教育界の父と言われた森信三さんは
「足元の紙クズひとつ拾えぬ程度の人間に何が出来よう」
という言葉を残していますが、大変奥深い言葉です。足元のゴミを見て、なんとも思わない様な心のありようで、いい仕事ができるはずもありません。汚れていても気にならないようでは、細かなところへの配慮が届かないので、自分では「完璧だ!」と思っていても、感性の高い人から見ると雑な仕事に見えることでしょう。
日々の掃除は人間の心を磨いてくれる一番の薬になるのではないでしょうか。社員が幸せな会社では、掃除に対する「やらされ感」がありません。それは、その会社の社員一人ひとりが、掃除を通じて会社を綺麗にするだけではなく、自分の心を磨いて感性を高める(もしくは感性が鈍っていないかの自己指標とする)ための大切な機会と捉えているように感じます。
たとえば、感性の鈍い飲食店では清掃が行き届いていないケースが多くあります。たとえ店舗のパッと見て人目につくような箇所は綺麗にしていたとしても、営業中はトイレの清掃が追いついていなかったり、飾っているお花がどれも造花でホコリを被っていたりします。
掃除に限らずですが、社員が幸せな会社の社員は、皆仕事を通じて「自身の人間的成長」を考えているように思います。それはつまり、美しいものを美しいと思える、汚いものを汚いと思える、そして細かなところまで目が行き届く、そんな感性を高めることの積み重ねであるということです。
将来に希望が持てること
二つ目の項目は、「将来に希望が持てること」です。皆さんは日本の平均年収をご存知でしょうか。様々なところが統計を取っているようですが、いろいろと調べてみますと、現在は約430万円だそうです。それでは社員の収入がこの平均年収よりも高ければ幸せ、低ければ不幸、と一概に言えるでしょうか。
たとえば、ここに二人の人間がいたとしましょう。二人とも年収は同額の430万円です。一方の人間は、昨年は420万円でしたが、今年に入り収入が上がり430万円になりました。会社も売上が伸び、大きな額ではありませんが年々給与も上がっています。会社も「毎年給料が上がっていく会社にしよう。そのために商品開発や販路の開拓など、いろんな工夫をしていこう」という風土になっています。
もう一方の人間は、昨年の440万円から10万円下がってしまいました。前出の会社のような風土もなく、世間の流行に左右される、自転車操業が続いています。同じ収入の二人であっても、収入が増えた人間は幸せを感じるでしょうが、収入が減った側の人間は幸せどころか不安を感じているかもしれません。
これはいったい何を意味しているのでしょうか。これが意味しているものとは、「人間の幸せは、将来性を抜きには語れない」ということです。上記では、日本の平均年収で話を進めましたが、これは収入が高くても低くても同じことなのです。現状の自分の仕事に将来性がなく、収入が先細っていく将来には、大きな不安がついて回ります。
典型的な例は、芸能人の方々ではないでしょうか。華やかな仕事であり、一般的な会社員と比べると何倍もの年収を得ていますが、その反面、収入に関するインタビューなどでは「この先、何が起こるかわからないから、安心なんて一つもない」と、答えている方々をよく見かけます。
社員が幸せに働けるために大切なことは、単純に高収入であればよいということではありません。もちろん収入がよいに越したことはないかもしれませんが、それ以上に自分の仕事や働く会社の未来に対して可能性や希望が持てる。そんな末広がりの状態をつくっていくことが大切なのです。
「大切な人に誇れる仕事」とは?
社員が幸せな会社では、社員が自分の家族、たとえば子どもや妻、夫、兄弟、両親、祖父母、あるいは恋人に、自分の仕事(または会社)を、誇りを持って話せるような会社づくりを行っています。
では、自分の大切な人に誇り持って話すことのできる仕事や会社とは、いったいどのようなものなのでしょうか。
【大切な人に誇れる仕事(会社)であることの条件】
・社会のお役に立っている仕事であること
・他者に迷惑や被害を与えていない仕事であること
・お客様や関係業者、地元の方々からの尊敬を集めている会社であること
筆者は上記の項目を、「大切な人に誇れる仕事」であることの最低条件ではないかと考えています。
自分の大切な人に誇れる仕事や会社というのは、大きい会社であるとか儲かる仕事であるとか、そんなことではありません。たとえ大きい会社であっても儲かる仕事であっても、「社会のお役に立っている仕事であること」というのは企業としては当然として、それに合わせて「他者に迷惑や被害を与えていない仕事であること」という条件もそろっていなければ、働く社員の心には後ろめたさや罪悪感が生まれ、誇れる仕事には成りえません。
「他者に迷惑や被害を与えていない仕事であること」とは、簡単に言うと、社内の文化で不正(たとえば、賞味期限の改ざんや原材料の虚偽など)が常態化しているとか、同業者と激しく争い蹴落とそうとする(熾烈な価格競争を仕掛ける、悪い噂を流す など)とか、環境や人体にあきらかに悪影響がある商品やサービスであると知りながら儲けのためにそのような商売をしている、といったことなどです。
社員が大切な人に誇れる仕事であるためには、「社会のお役に立っている仕事であること」や「社会のお役に立っている仕事であること」といった、この2つの項目はもはや前提条件です。
周囲からの尊敬が、真の誇りを生み出してくれる
しかし、それら2つの項目だけでも、大切な人に誇れる仕事であるためにはもう一歩足りません。それはなぜかというと、それらは社会で働く者にとってはある意味当たり前のことでもあるからです。ではあともう一歩、大切な人に誇れる仕事であるためには何が必要なのでしょうか。それが3つめの項目である、「お客様や関係業者や地元の方々からの尊敬を集めている会社であること」です。
仕事で関わる方々というのは、ただ単に仕事や商品だけを見ているのではなく、社風をはじめ社員一人ひとりの人間性をも見ています。丁寧な仕事をしてくれる人たちなのか、横暴な態度ではないか、人間力は高いのか、など本当に細かなところまで見ています。
いくら「社会のお役に立っている仕事であること」や「他者に迷惑や被害を与えていない仕事であること」が満たせていたとしても、お客様や関係業者や地元の方々から「あそこの会社は、商品やサービスはいいけど、働いている人たちの人間性は今一つだね」と陰で言われてしまうようでは、社員も自分の大切な人に誇ることはできません。
たとえば社員が自分の子どもに「お父さんの働いている会社はね......」と、いくら自分の仕事の話をしたとしても、もし子どもから「でもこのあいだ、友達のA君のお母さんが『あそこの会社の人は、態度やマナーが悪い人が多い』って言ってたよ!」と返されてしまったら、もうそれまでです。自分の子供が外に出たときに、親の働いている会社名を恥ずかしくて言えないのに、どうして社員が誇りを持てると言えるのでしょうか。
真の誇りとは、働く社員一人ひとりが「あそこの会社の人は皆さん立派ですね」と、身近な人々から尊敬されてこそ生まれるものなのです。
職場環境を抜きに、働く社員の幸せはあり得ない
社員が幸せに働くために大切な4つの項目の最後は「4.安心して働ける職場であること」です。社員の働く職場環境が安全で快適であり、心身ともに健康でいられること。それが安心して働けるということです。
イエローハットの創業者である鍵山秀三郎さんは、働く社員の幸せと職場環境について、『幸福への原点回帰』(鍵山秀三郎×塚越寛 文屋)というご著書の中で次のように触れておられます。
社員の福利厚生については、当社でも随所に配慮を重ねてきました。
物流センターで、パートさんが食事をとる場所も、明るく清潔な休憩室を設けています。また倉庫のトイレなどは、一般にコンクリートを打ち放した無味乾燥な、ほんとうに最低限の用を足すだけの設備として造られます。これに対して当社では、タイル貼りの広々としたトイレを設けました。建設時に建設会社の方から「どうしてこんな無駄なことを」と言われたほどです。
他社での勤務を経験した後に当社へ勤めはじめた人たちから、「前の職場では、昼食と言えば階段や荷物の上に腰かけて食べていた。それが普通だと思っていた」「きちんとした場所で食事ができるのが嬉しい」という話も聞きました。
(中略)
働くのは生身の人間です。職場にはゆとりも必要です。いくら給料が高額でも、心にゆとりが持てない職場では、幸福を感じることはできません。(『幸福への原点回帰』 113~115ページより)
鍵山さんのお話は、働く人々の休憩室やトイレについてのエピソードですが、これは職場環境の全てに対して同様に言えることではないでしょうか。上記のお話の中にある、建設会社の方が「どうしてこんな無駄なことを」と驚くくだりがありますが、まだまだ世の中ではそのような考えがあるのかもしれません。
経費削減や生産性の向上のために、働く人々の安全性や快適性を削いでしまう。そのような職場環境で、本当に働く人の幸せを実現できるでしょうか。
忘れてはなりません。人は皆、幸せになるために生まれ、幸せになるために働いているのです。
延堂溝壑(えんどう こうがく)
本名、延堂良実(えんどう りょうま)。溝壑は雅号・ペンネーム。一般社団法人日本報連相センター代表。ブライトフィート代表。成長哲学創唱者。主な著書に『成長哲学講話集(1~3巻)』『成長哲学随感録』『成長哲学対談録』(すべてブライトフィート)、『真・報連相で職場が変わる』(共著・新生出版)、通信講座『仕事ができる人の「報連相」実践コース』(PHP研究所) など。