リモートワーク下で上司と部下の関係づくりをどう進める?
2020年4月30日更新
コロナ禍でリモートワークへの取り組みが進み、働く人と人が集まる会議や職場での会話が、Webツールに置き換えられるようになっています。フェイス・トゥ・フェイスのコミュニケーションが減ることで、エンゲージメントの低下を心配する方も少なくないでしょう。 こうした状況で、コミュニケーションを活性化し、上司と部下の関係づくりを進める方法はあるのでしょうか?
INDEX
コミュニケーションが低下して失われるもの
以前、個人情報保護法が施行される前後でも、働く人のコミュニケーションのあり方が見直された時期がありました。
当時、ある企業の人事担当者を訪問したところ、「個人情報保護法の影響でセキュリティが厳しくなり、隣の部署へ行くにも、IDカードを使って何枚ものドアをくぐりぬけないと行けなくなった」と嘆いていました。もともとこの会社は、オープンな社風で、社内のいたるところで部門を越えた「ワイガヤ」(ワイワイガヤガヤ、自由に議論すること)が行なわれ、それが新たな発想・価値を生み出し、同社の成長の原動力となっていたそうです。
ところが、前述のような厳重なセキュリティに加え、何でもメールで済ませる仕事の進め方や、必要以外の話をしたがらない若い人たちの意識などが、物理的・精神的な壁となって、コミュニケーションの質と量が著しく低下しつつあるという問題を抱えておられたのです。
強い組織は、人と人との間に「思い」や「情報」を環流させ共有化することによってつくられるものです。しかし、いったん、一人ひとりの仕事が「蛸壺(たこつぼ)状態」になって組織の風通しが悪くなると、新たな発想や、付加価値を生み出す活力も損なわれてしまうのです。
社員一人ひとりの意識を変えるには?
当時、このことに気づいた企業では、定期的に「ワイガヤセッション」を実施したり、社員同士が何でも自由に話し合う場を設けるなど、コミュニケーション円滑化のためのしかけづくりに取り組んでいかれました。
このように、会社が場をつくって社員同士のよりよいコミュニケーションを図ることは、もちろん大切なことです。しかし、もっと重要なのは、社員一人ひとりがコミュニケーションの重要性に気づくことではないでしょうか。
・なぜ、コミュニケーションを図らなければならないのか?
・もしコミュニケーションが円滑にいかない状況のままでいると、どうなってしまうのか?
こうしたテーマを投げかけ、考え合ってもらうことは、社員の意識を変える上で案外効果があるものです。そして、コミュニケーションの重要性を一人ひとりがしっかり理解できれば、その改善のための動きが現場から自律的に立ち上がるはずです。
上司と部下の関係づくりをどう進める?
さて、ここ数年、企業の人事を担当する方から「人を育てる人」が育たないという悩みを聞くことが増えています。こうした人材育成上の課題においても、コミュニケーションが解決の一つのカギを握っているといえるかもしれません。
製造業のA社では、毎月第一金曜日を「コミュニケーション・デイ」と定め、終業後に職場のメンバーが食堂に集まってお茶を飲みながら雑談を交わす機会を設けたところ、組織の風通しがよくなったそうです。会社主導で半強制的に社員たちにコミュニケーションを取らせるということには賛否両論あるでしょうが、この取り組みが成果を上げた事実は注目に値します。
仕事上でのやり取りだけではなく、仕事を離れてお互いの「人となり」を知り合うことで、相互の距離は縮まります。同じ会社で仕事を共にしていることに縁を感じ、お互いに関心を持って相互理解を深めることで、相手に対する愛情が芽生えてくるものです。上司と部下の間にも、そんな関係ができて初めて、人が育つ土壌が形成されたと言えるのではないでしょうか。
リモートワーク下で実施する「1on1ミーティング」のポイントとは?
実際、昨今の各種調査・指標では、リモートワーク下で仕事上の不安や悩みを抱えてしまう若手社員が増えていることが明らかになっています。しかし、こうした不安や悩みの多くは、上司とのコミュニケーションの改善で解決できることが多いものです。
今回のコロナ禍でリモートワークを実施するなかにあっても、定期的に「1on1ミーティング」を実施することで社員の孤立を防ぐ取り組みがみられるようになりました。
「1on1」とは、月に1~2回、15分程度の面談を上司-部下間で実施するものです。隔週あるいは1カ月に1回くらい、1回につき15~30分程度で行われるのが一般的でしょう。
リモートワーク下では、ビデオ会議ツールを使ったリモート面談で行われることが多くなっています。実施のポイントとしては、会社のミーティングルームとは異なり「静かな環境からアクセスする」「ソフトウエアを確実に使えるようにしておく」「事前に接続テストを行う」といった技術的な工夫が必要という点です。また、上司は通常よりも「聴くパート」を増やし、部下の様子や仕事の状況を正確に把握するよう努めることも大切です。また、上司側のハードルを下げるためには「部下の話を聴き切ること」を心がけてもらうといいでしょう。
コミュニケーションを妨げる要因の多いビジネス環境であるからこそ、働く人自身にその重要性に気づかせ、活性化させる取り組みが、各企業で今後ますます必要になることと思われます。
的場正晃(まとば・まさあき)
PHP研究所人材開発企画部部長
1990年、慶應義塾大学商学部卒業。同年PHP研究所入社、研修局に配属。以後、一貫して研修事業に携わり、普及、企画、プログラム開発、講師活動に従事。2003年神戸大学大学院経営学研究科でミッション経営の研究を行ないMBA取得。中小企業診断士。