コーポレートユニバーシティ(企業内大学)とは? 概要をわかりやすく解説
2023年1月26日更新
コーポレートユニバーシティ(企業大学)は、企業内の人材を育成するためのプラットフォームのことで、多くの場合、社員がキャリアアップを目的として、数多くの講座から必要なものを能動的に選んで受講できる仕組みになっています。本記事ではコーポレートユニバーシティと一般的な研修の違いを説明し、設立の目的や導入事例、メリット・デメリットを紹介します。
INDEX
コーポレートユニバーシティ(企業内大学)とは?
コーポレートユニバーシティ(企業内大学)とは、企業が人材育成のために企業内に設置する研修のためのプラットフォームです。大学のように複数の講座が設置され、社員は自ら選択して受講することができます。経営戦略と連動し、企業の成長に貢献する次世代リーダーを戦略的に育成する制度として注目されています。
コーポレートユニバーシティの内容は企業によって異なりますが、多くの場合、大学の講義と同じく必修科目と選択科目があり、各自の目的に応じて履修計画を組み立てることができます。
一般的な社内研修との違い
コーポレートユニバーシティは、一般的な社内研修とは異なります。主な違いは以下の4点です。
・参加スタイル
・目的
・講師
・講座内容
1.参加スタイルの違い
社内研修とコーポレートユニバーシティでは、参加スタイルが異なります。社内研修は多くの場合、人事や上司が研修の内容や実施日などを決め、社員に指示して参加させる受動的な学習スタイルです。
これに対し、コーポレートユニバーシティは、会社が用意した講座のなかから、社員自らが今後のキャリアにおいて必要となるスキルや知識を考え、受講科目を選んで学ぶという能動的な学習スタイルです。
2.目的の違い
従来の研修は、昇格等に伴う役割意識の獲得や、仕事で必要とされるスキルの習得やが主な目的です。これに対し、コーポレートユニバーシティが目的としているのは、主にキャリアアップを見据えて将来的に必要になる知識やスキルの習得です。次世代リーダー育成を主な目的として設置されることがあるのも一つの特徴です。
3.講師の違い
集合研修の講師は、人事部門の教育担当者であったり、外部の研修講師であったりするこいとが多いものです。一方、コーポレートユニバーシティでは、自社の優秀な社員を講師として起用することがあるのが異なる点です。自社業務に関する実践的な知識やノウハウを学べるカリキュラムとし、それを担当部門だけでなく社内で共有する場所としても活用できます。そうしたノウハウのなかには、他部門でも活かせるノウハウがあるでしょう。
4.講座内容の違い
従来の社員研修とコーポレートユニバーシティでは、講座内容を決めるプロセスも異なります。従来の研修では、主に人事部門が主体となって内容が決められます。これに対し、コーポレートユニバーシティの講座内容は、社員のニーズを聞き取ったうえで、講座のテーマや内容、講師を選びます。社員が学びたい講座内容が用意されることが多く、自発的な学習意欲を生み出しモチベーションアップが期待できるでしょう。
コーポレートユニバーシティを設立する目的
技術の進化が激しい現代では、常に新しい知識・スキルの習得が求められます。コーポレートユニバーシティは、このような状況に対応し、ニーズに応じて必要な学びを社員に提供する制度です。変化に対応した知識・スキルを習得することを目的としています。
また、労働人口が減少するなか、優秀な人材を獲得することも目的のひとつです。コーポレートユニバーシティの設立により教育制度を整えれば、入社してからも知識やスキルを得られる職場環境であることをアピールできるため、若い世代には選ばれやすく、また社員が定着するメリットをもたらすでしょう。
日本企業のコーポレートユニバーシティ設立事例
コーポレートユニバーシティを設立する日本企業は年々増えており、新しい人材育成手法として話題を呼んでいます。
従来の社員研修のように、企業が強制して研修を受講するスタイルではなく、社員の自発的な学びが実現できるコーポレートユニバーシティは、会社と社員の双方にメリットをもたらします。
ここでは、コーポレートユニバーシティを運営している代表的な企業事例を3つご紹介します。
【ソフトバンク株式会社】ソフトバンクユニバーシティ
携帯電話などの通信サービスを提供するソフトバンクは、2010年にソフトバンクユニバーシティを設立しました。「経営理念の実現に貢献する人材の育成」を目的とし、グループの持続的成長の源泉となる多様性を尊重し、個性豊かな人材の育成を目指して、以下の2つのコースを用意しています。
●ビジネスプログラム(約80コース):常に変化をし続けるソフトバンクを楽しみながら、何事もチャンスと捉え、挑戦する人の能力開発を支援
●階層別プログラム:各階層で求められる知識・スキルを身につける
プログラムの約8割は自社社員が講師を務め、仕事で得た知恵・知識・経験をシェアしているのが特徴で、事業を支える人材の育成プログラムとして、事業を進める上で基盤となる考える力やコミュニケーション力を養うことが一つの目的になっています。
2016年以降の受講者は8,000人以上で、自らのキャリア目標や業務推進に合わせて主体的に受講しています。
【博報堂】HAKUHODO UNIV.
大手広告代理店の博報堂は2005年4月、「クリエイティブな博報堂」をビジョンにして、HAKUHODO UNIV.(通称:博報堂大学)を設立しました。以下のような、プロフェッショナルとして専門領域を極めるための講座が年間200以上用意されています。
・マーケットデザインビジネス研修
・戦略キャリアプログラム
・イノベーション構想プログラム
・ビジネススキルアッププログラム
・デジタルスキルアッププログラム
博報堂には「粒ぞろいより粒違い」という人材育成の方針があります。一人ひとりの違った個性が自分らしく生き生きとしていることを表し、多様な個性が集まりチームを組むことで新たな価値を生み出すという考え方です。そのため、博報堂大学のプログラムの多くは社員が講師を務めています。チームでともに考え、議論するワークショップ形式のものが多いのも特徴です。物事を教わるだけでなく、社員が自らの気づきによって成長する「発育のための場」として活用されています。
【日本マクドナルド株式会社】ハンバーガー大学
ハンバーガーチェーンのマクドナルドが開設するハンバーガー大学は、1971年、銀座1号店のオープンより1カ月早く設立されました。現在、世界で8カ国に設置されており、そのうちのひとつが東京です。
日本では年間約10,000人の受講者がハンバーガー大学を卒業しています。マクドナルドの店舗社員は入社後に各店舗でOJTを受け、その後ハンバーガー大学で以下のコースを受講します。
・シフトリーダーシップトランジション:基本的なリーダーシップスキルを学ぶコース
・イントロダクショントゥデパートメントマネジメント:役割と責任をになうリーダーシップスキルを学ぶコース
・レストランオペレーションリーダーシッププラクティスコース:リーダーシップ、チームビルディング、総合マネジメントを学ぶコース
卒業後も学び続ける環境が用意されており、学習方法はWebやDVDなど幅広く提供されています。
コーポレートユニバーシティを設立するメリット
コーポレートユニバーシティを設立するメリットは、主に3つがあげられます。コーポレートユニバーシティを設立するメリットを、詳しくみていきましょう。
社員のスキルアップや適性がある分野の発見につながる
コーポレートユニバーシティは社員が能動的に取り組む仕組みであり、社員のニーズがある講座を用意してスキルアップを促すことができます。 社員は学びを深めることで、担当業務のスキルを磨いたり、あるいは、それ以外にも自分に適性がある分野を発見することができます。
また、コーポレートユニバーシティでは社員を講師に登用することがあります。業務で培った知識やスキルをアウトプットする機会を得て自らも理解を深めることができ、伝えることでプレゼンテーションスキル、コミュニケーションスキルが磨かれます。
次世代リーダーを育てられる
コーポレートユニバーシティは、講座内容を自由にカスタマイズできるのがメリットです。スキル習得のほかに、階層別プログラムを設けることで、次世代リーダーの育成を図ることもできます。
たとえば管理職が経営層に求められるスキルやマインドを学ぶ機会を作ることができるのは、会社にとって大きな意義があるでしょう。中堅社員がスキルアップすることで、次世代のリーダーが育たず権限委譲ができないという課題を解決することにもつながります。
採用活動に有利。優秀な人材が集まりやすい
コーポレートユニバーシティで、人材育成に力をいれている企業という印象を与えることができるため、求職者へのアピールになります。同じ条件の会社が複数あって迷うとき、求職者にとっては自分が成長できる環境を整えている会社の方に魅力を感じるでしょう。コーポレートユニバーシティ設立には、優秀な人材を確保しやすくなるというメリットもあります。
コーポレートユニバーシティを設立するデメリット
コーポレートユニバーシティ設立には、多くのメリットがありますが、一方で企業にとってデメリットとなることもあります。最大のデメリットは、導入や運営のコストがかかることです。ここでは、コーポレートユニバーシティ設立に伴うデメリットをご紹介します。
導入コスト・運営コストがかかる
コーポレートユニバーシティの設立には当然コストが発生しますし、運営には手間がかかり、人員の確保も必要です。それだけに、将来への投資、人への投資と考えて、導入に踏み切るかどうかは、大きな経営判断となります。せっかく立ち上げても形骸化しているという企業は少なくありません。
カリキュラムの選定や仕組みの構築が難しい
コーポレートユニバーシティは、社員のニーズに合わせて幅広い講座を用意する必要があります。社員のニーズは担当業務や立場によっても変わるため、事前調査を行い、綿密な計画を立てて取り組む必要があります。仕組みの構築が難しいという側面もあります。受講の手続きや、受講履歴の管理など、運営に伴う複雑な業務も発生するでしょう。自動化できるツールの導入も検討しなければなりません。
学びを得られる講座内容とするために講師を選ぶのが難しい
社員から講師を選ぶことがありますが、そうした経験のある人は多くありません。優秀な社員でも教えることが上手いとは限らず、仕事との両立も大変になることから断られる場合もあるでしょう。講師を依頼した社員が業務と両立できるよう、調整を図ることも必要です。
外部の講師に委託するとしても、任せきりにはできません。教える内容が、社員にとって学びのあるものかどうかを主催者側で判断する必要があります。
まとめ:メリット・デメリットを理解したうえで設立を検討
コーポレートユニバーシティは、従来の研修とは異なる教育制度であり、社員が能動的に選択して自己のスキルアップを図ります。学習意欲のある社員が長期的に学べる環境を用意すれば、担当業務に還元できるというメリットもあります。また、次世代リーダーの育成に役立てることもできるでしょう。
設立・運営に大きなコストがかかる、仕組みの構築が難しいといったデメリットもあるため、経営層を巻き込みながら設立を検討する必要があります。