コンプライアンス違反のない組織づくり~不祥事はなぜなくならないのか
2023年9月11日更新
企業のコンプライアンス違反が大きな社会問題になっていますが、不祥事を起こさないためにはどのような取り組みが必要なのか、「コンプライアンス・マネジメント」の観点から、あらためてそのポイントを考えてみましょう。なお、コンプライアンス研修の内容や進め方については下記も参考にしてください。
参考:コンプライアンス研修の内容、ネタはどうする? 効果的な実施方法なども解説
なぜ、企業不祥事が発生するのか
まず、企業不祥事、コンプライアンス違反が発生する原因を考えてみたいと思います。みなさまは「不正のトライアングル」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。これは、アメリカの犯罪学者ドナルド・R・クレッシー(Donald Ray Cressey)が、横領犯の裁判記録や聞き取り調査などをもとに、人が不正行為をする際の3つの要素についてまとめたものです。
これによると、不正を行なうための「動機」が存在し、不正を行なう「機会」があり、そして不正を行なうことが「正当化」できると、人は不正行為をしてしまうとされています。
たとえば横領の場合、個人的な理由で経済的に苦しくなった人が(=動機)、経理部門で専門性の高い単独業務を任されており(=機会)、一時的に借りるだけだから問題ないと思った(=正当化)場合に不正行為が起こりやすくなるということです。
この「不正のトライアングル」を崩すことができれば、不正行為すなわちコンプライアンス違反を減らすことができるというのです。
コンプライアンス違反を防ぐには
そこでこの3つの要素、それぞれの崩し方を考えていきましょう。
まず「機会」です。内部統制を厳格にし、どんな小さな不正を行なっても必ず発覚するという職場環境の構築で不正を行なう「機会」を減らすことができます。ただし、どんなに内部統制を厳しくしたところで、時が経てば新たな「機会」が生まれる可能性があります。常にアップデートしていく体制づくりも必要です。
次に「動機」です。仕事上では、過度な目標などによるプレッシャーが不正を行なう「動機」につながりやすいとされています。これについては、上司がこまめに面談をするなど、部下のプレッシャーを軽減させるような職場風土をつくっていくことが効果的です。
しかし、私生活での問題には会社側が立ち入ることはできません。したがって、「動機」を完全に排除するのは難しいとされていますが、私生活で問題を抱えている社員がいる場合、ヒアリングや配置転換などをすることで一定の効果を見込むことはできます。
最後に「正当化」です。「機会」や「動機」があったとしても、「正当化」できなければ不正行為は起こりにくいものです。したがって、不正行為を「正当化」できないような意識改革が重要になります。
企業の社会的責任
では、企業不祥事を防ぐにはどうすればよいのでしょうか。まず経営トップから社員まで、「企業の社会的責任」について再確認することから始めるべきでしょう。
企業の社会的責任とは何か。松下幸之助は、企業の社会的責任について以下のような持論を展開していました。
事業はますます分業化、高度化・複雑化し、業種間の相関性は微妙かつ密接となり、個々の事業のあり方が全体の繁栄に響いてくる。そこで責任者には、総合的見地からこの事業の使命に基づく正しい倫理観が要求される。すなわち、人間の経済活動を、日に新たに豊かにしてゆくことによって、社会の繁栄・平和・幸福をもたらすところに事業の真の使命があり、使命を力強く遂行してゆくところに、真のモラルがなければならない。
『経営の神髄』松下幸之助著(PHP研究所)
企業が果たすべき本来の使命、つまり事業を通じた社会貢献という観点から、自分たちが何をなすべきかを考え続けないといけないというのです。
コンプライアンスの本来の意味
コンプライアンスは本来、「法令遵守」を意味する言葉です。ただし、コンプライアンスを組織に徹底させるには、それを包含する上位の諸概念を含めた全体像を正しく理解する必要があります。特に組織を牽引する責任者には、経営的視点に立ってそれぞれの関係性を理解し、コンプライアンスを実践していく役割が求められます。
CSR
企業は持続的な社会の発展への貢献のために、説明責任をはじめ多くの「社会的責任」(CSR/Corporate Social Responsibility)を負っています。
コーポレートガバナンス
CSRの実現には、ステークホルダー(利害関係者)からの信頼感を得るような経営の仕組みとして「コーポレートガバナンス」(企業統治)を確立する必要があります。
企業倫理
コーポレートガバナンスの確立のためには、健全で真摯な「企業倫理」が存在し、企業活動の意思決定の拠り所となっていることが重要です。
コンプライアンス
その上で、各種の法令や規則・業界慣習・社内ルールを確実に守る「コンプライアンス(法令遵守)」が、健全な企業活動には必須となります。
コンプライアンス・マネジメントのポイント
そうした点をふまえて、コンプライアンスの徹底した組織風土について考えてみましょう。具体的には、下記の5つの観点から日常の組織運営を行う必要があります。
企業活動の原点の確認
自社の経営理念や、パーパス、ミッション、ビジョン等について繰り返し対話を行い、仕事の意義をメンバーに理解させます。
心理的安全性の確保
風通しが良く本音を出しやすい雰囲気を職場に醸成し、メンバーが本来の自分を安心してさらけ出せると感じられる状態をつくります。
エンゲージメントの向上
上記2つの実現を通じて、メンバーが自分の会社と仕事に対する愛情と誇りを感じるような状態を目指します。
啓発活動
社員がコンプライアンスの重要性を納得するよう意識づけを図ると同時に、どういう行動を取るべきか、学習する機会をつくります。
現場でのOJT
日頃からメンバーの言動に注意を払い、気になる点や指摘すべき点があれば、即時その場でフィードバックします。
内部通報制度の整備
社内の不正や不祥事に気が付いた従業員が一早く内部通報できる窓口も必要です。「公益通報者保護法」では通報者が不利益な扱いを受けないよう求めていますので、この点をしっかり担保します。
まとめ:信用こそが最大の競争力
コンプライアンス・マネジメントの体制づくりをすすめるうえで、とりわけ重要なのが企業理念・経営理念を社員一人ひとりに浸透させることです。自分たちの仕事の社会的意義、やりがいを実感させることが出発点といえるでしょう。
コンプライアンス意識が高まり、いまやどの企業でも当たり前のようにいわれていますが、企業不祥事はなくなりません。しかし、ひとたびコンプライアンス違反を犯せば、企業の社会的信用は著しく低下し、経営に大きなダメージを与えることは間違いありません。
社会の価値観が多様化する中で、ESG投資やエシカル消費に象徴されるように、企業活動には正しさや公益性が求められるようになってきました。こうした状況下、信用こそが企業の最大の競争力であると言っても過言ではありません。
信用を築くためには長い年月を要します。しかし、長年月をかけて築いた信用もたった一回の不祥事で一瞬にして崩壊しうるのです。だからこそ、コンプライアンスの徹底した風土を醸成するよう、全従業員が取り組んでいく必要があるといえます。