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頼まれもしないのに若手に助け舟を出す管理職~課題の分離をはかるには

2017年9月13日更新

頼まれもしないのに若手に助け舟を出す管理職~課題の分離をはかるには

何の依頼も受けていないのに若手の仕事を手伝い、終了後に若手からお礼がないことに「キレル」管理職がいます。課題の分離ができていないそんな管理職に、人材開発担当としてどうアドバイスすればよいのか、アドラー心理学に学びます。

【質問】先日、関連部署の若手が仕事で悩んでいるようだったので、周囲の調整をするなど仕事がやりやすいように配慮してあげました。その結果仕事がうまく完了したのに、彼からお礼の言葉どころか挨拶すらないというのはどうかと思います。確かに頼まれたわけではなかったけど、自分の仕事でもないことを親切でやってあげたのに......。近頃の若手は礼儀がなってないと思います。(44歳男性 金融業 課長)

「自分の課題」と「若手の課題」

あなたは、頼まれもしないのに部下や若手の仕事に口出ししたり、手助けしたり、さらには彼らの代わりに問題を解決したりしたことはありませんか? そういうことが両者のトラブルの原因になったり、若手を依存的にしたりする大きな原因になっていることに気づいていますか?

自分が通った道、経験したことであれば、その先どうなるか予想がついて、誰しもつい手を出したくなるものです。ですが、手を出す前にちょっと立ち止まって、若手が抱える仕事や問題を「これはいったい誰の課題か?」と考えてみましょう。そうして「自分の課題」と「若手の課題」に分けてみることで、お互いに心地よく仕事をすることができます。

若手の行為の結果が最終的にはあなた自身にふりかかり、若手へはふりかからないとき、それは「あなたの課題」です。若手の行為の結果が最終的に若手にふりかかるとき、それは「若手の課題」となります。原則として、若手の課題にあなたが口を出すことはよくないことです。また、あなたの課題に若手が口を出すのもよくないことです。

ご相談者の場合、関連部署の若手の業務を手伝っているので、行為の結果が最終的に若手にふりかかり、相談者にふりかかることはないと考えられます。つまりそれは「若手の課題」であり、相談者が頼まれもしないのに関与することは、好ましくありません。

「若手の課題」に上司や管理職が手を出す4つの弊害

この相談者のように、上司や管理職が頼まれもしないのに「若手の課題」に手を出すことは、次のような4つの弊害を生みます。

1)若手が自分の力で仕事を完結できる力が備わらず、自信を失う。

2)若手が依存的になり、上司や管理職の指示を待つようになるとともに、失敗したときは責任を上司や管理職に押しつけようとする。

3)上司や管理職が若手の意に反するような指示を与えると、若手は反抗し、上司や管理職にさからい、両者の間に緊張が生まれます。

4)若手ができるのに上司や管理職が肩代わりすることで、絶えず指示をしなければならなくなり、上司や管理職が忙しくなる。

「共同の課題」の提唱

相談者の立場で「誰の課題か」を考えるとき、基本的には「相手(若手)」か「自分(上司や管理職)」かになりますが、アドラー心理学では両者間の「共同の課題」というものを提唱しています。共同の課題は以下のような場合に成立します。

1)本来、若手の課題であるものを共同の課題にする場合

◎若手が上司や管理職に自分の課題について相談したり、依頼したりしてきた場合

若手が「誰に根回ししたらいいのか」悩んでいたとします。これは若手の課題であって、上司や管理職が口を出すことではありません。しかし、もし若手が「○○さんに根回ししようと思うんですけど、間違ってないでしょうか?」「誰に根回ししたらいいのか教えていただけますか?」と相談してきた場合には、共同の課題として相談に乗ることができます。

ただし、共同の課題になったからといって、どこまでも若手の課題に口出しをしていいということではありません。若手がもちかけてきた相談の範囲内でのみ援助することができるだけです。例えば 「○○さんに根回ししようと思うんですけど、間違ってないでしょうか?」と言ってきた若手に対して、上司や管理職が間違っていないと思えば「いいと思うよ」と答えればいいだけで、「いいと思うよ。あの人は否定的なことばかり言うので、わたしとロールプレイしてみようか」と相談されたこと以上のことを言ったりしてはいけないということです。

◎若手の行為の結果、上司や管理職が具体的な迷惑をこうむった場合

直属の関係であれば、若手の行為の結果、上司や管理職が具体的な迷惑をこうむるというのはよくあることです。一方で、直属の関係でない若手から具体的な迷惑をこうむるというのは考えにくいかもしれません。例えば、若手が顧客の情報を関連部署に知らせなかったというようなとき。そのために関連部署がプレゼンテーションに失敗したということになれば、その部署の管理職は具体的に迷惑をこうむったことになります。

そうしたときは共同の課題として取りあげ、若手とともに、その行動の目的(原因ではなく)と今後どうするのかを話し合う必要があります。

2)本来、上司や管理職の課題であるものを共同の課題にする場合

◎上司や管理職から若手に相談・依頼した場合

部下の若手に、上司や管理職が指示を与えて仕事を依頼した場合が相当します。この場合、大雑把な指示ではなく全体像が見える「5W2H(WHAT:何をするのか/WHO:自分だけ・誰と/WHERE:どこで/WHEN:いつまでに/WHY:何のために/HOW:どのように/HOW MUCH(MANY):いくら・どのくらい」で依頼することです。とくにWHYの欠落に注意が必要です。

◎上司や管理職の行為の結果、若手が具体的な迷惑をこうむった場合

上司や管理職の不手際により若手に迷惑をかけた場合が相当します。この場合、上司や管理職には素直に謝り再発防止策を提案して話し合うことが求められます。

共同の課題にするにはどうすればよいか

1)言葉に出して相談・依頼する

個人の課題を共同の課題にするためには、はっきり言葉に出して相談・依頼をしなければなりません。黙っているかぎりいかなる課題も共同の課題とはなりません。

2)共同の課題にするかどうかを話し合う

誰かが「これを共同の課題にしてください」と言ったからといって、その課題が共同の課題として取りあげられるとはかぎりません。「それは、あなた個人の課題だから独力で解決してください」などと断られるかもしれません。まず、共同の課題として取りあげるかどうかの話し合いが必要です(業務上、相手がミスして自分が迷惑をこうむったとき、自分が相手に指示を与えるときを除く)。

3)共同の課題として取りあげれば、協力して解決策を探す

いったん共同の課題として取りあげれば、それを解決するのは関係者全員の責任です。関係者で協力して解決策を考えましょう。

今回のご相談のようなケースでは、若手のニーズがないのに仕事を手伝っていることになります。つまり、「自分の課題」でも「共同の課題」でもないわけですから、「礼や挨拶がない」といって腹を立てるのは筋違いです。この相談者の方には、それに気づくこと、そして今後は相談や依頼のあったときだけ手を貸してあげるようにすることが求められます。"ニーズないところにサプライなし"です。

組織に所属するそれぞれが、もてる能力を最大限に発揮して成長していくためには、「課題の分離」により、自分自身の課題は自分自身で解決していくというプロセスが欠かせません。これがうまく回ることで、若手の自主性も育まれ、会社全体のパフォーマンスも向上していくでしょう。

「アドラー心理学に学ぶ『勇気づけ』の職場づくり」一覧はこちら

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【著者プロフィール】

宮本秀明(みやもと・ひであき)

1982年、スタンフォード大学中退。広告業界から数社の研修会社を経て、現在㈲ヒューマン・ギルド法人事業部長兼シニアインストラクター。ロジカルシンキング、ファシリテーションからマナー教育まで、幅広いコミュニケーションの研修を担当。米国と日本双方のビジネス経験を生かし、それぞれのよさを融合させた、和魂洋才型の研修プログラムを独自に開発。受講生の目線に立った習得しやすいカリキュラムの構成力、やる気を促す講師手法には定評がある。著書に、『マンガでよくわかるアドラー流子育て』(岩井俊憲監修、かんき出版)、PHP通信ゼミナール『リーダーのための心理学 入門コース』(監修:岩井俊憲、執筆:岩井俊憲・宮本秀明・永藤かおる、PHP研究所)などがある。

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